【戦略的マイノリティー出資のPMIのポイント】微妙な立場の派遣人財の後ろ盾をどう作るか

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出資後の「100日間」をどう過ごすかが成否を分ける…?

前回連載では、「PMIの10の活動」のうち、Day0~Day1に実施すべき5つの活動について、マイノリティー出資の場合のポイントを解説した(前回記事はこちら)。今回は、Day1以降のPMI実行フェーズにおける3つの活動に関して、各活動の意義を踏まえた上で、マイノリティー出資時のポイントを取り上げる。

出資意義を感じさせる100日プランの実行

(6) 100日プランの実行
【活動の意義】
昨今では「100日プラン」という言葉がよく聞かれるようになったが、なぜ100日なのか。 そもそもは「統合」を前提としているため、基本的なガバナンスの整備(コンプラ、レポートライン、財務会計面など)、ITインフラ、人事制度など、買収後も事業運営できるよう、早期に必要なオペレーションを整えることが目的だ。 100日といった期間を設定しているのは、以下のような、クロージング後生じがちな問題を極力解消するためでもある。

・統合作業に時間がかかり、現場が疲弊する⇒集中して統合作業を進め疲弊を回避
・成果がなかなか出ず、現場に不安が生じる⇒小さくても成果の見える「クイックヒット」を100日プラン実行中に創出

【マイノリティー出資のポイント】
マイノリティー出資の場合には、マジョリティー出資とは異なり、出資先会社の事業運営に影響を及ぼすことは殆どないと考えられる。従って、買収後の事業運営継続のために「100日プラン」を作る必要性は、マジョリティー出資時ほど高くないだろう。

一方、マイノリティー出資であっても、出資目的を達成するために、出資先企業/現地に送り込まれる人財もいるはずだ。「資本の論理」という後ろ盾がない中で、派遣された人財は、早期に相手の信頼を得る必要があるが、成果を出せないと肩身が狭くなってくる。そこで、100日プランの中で、クイックヒット創出に向けて実行し、小さくても成果を見せることで、早期の信頼獲得に繋げていきたいところだ。それにより、その後の活動のやりやすさも変わってくる。

また、マイノリティー出資であっても、自社グループに入る以上、コンプラ面や安全面、財務会計面など、最低限守って欲しいことがあるだろう。これらを守ってもらうための仕組みというのは、クロージング直後から出来る限り早期に整備する必要があるため、100日プランのタスクに入れるべき要素となる。

事務局は進捗管理係ではない

(7)分科会の運営
【活動の意義】
「戦略の具体化」を行うための主要な検討事項ごとに分科会を設計し(前回記事⑤「分科会を組成/マスタープランを作成」参照)、その分科会を運営していくわけだが、運営に際しては、「ステアリング・コミッティ」と「事務局(PMO)」の存在も忘れてはいけない。ステアリング・コミッティには役員クラスが入り、その場で意思決定・方針提示を行えるメンバーで構成するのが理想だ。さらに、ステアリング・コミッティが適時適切な判断を行うには、事務局がしっかりと各分科会から情報を吸い上げ、全体の調整や進捗管理を行い、必要に応じてステアリング・コミッティに課題提起することが求められる。PMIでは課題が多岐に亘るため、課題の整理・優先順位付けが重要であり、事務局は単なる進捗管理をしていればよいわけではない。

【マイノリティー出資のポイント】
マイノリティー出資でも分科会を組成する場合には、上記のように、ステアリング・コミッティと事務局の機能はセットで組成すべきだ。ただし、相手がそこまで前のめりでない場合には、そこまで体制を作る必要があるか、と言われかねないため、温度感の見極めは必要だ。出資後の推進体制については、クロージング前から出資先経営幹部と握っておきたい。

また、マイノリティー出資の場合、マジョリティー出資以上に、関係者間の利害調整が必要となるケースも多い。そこで、事務局には、関係当事者メンバーに加え、後腐れなく中立的にモノを言える外部を入れるのも一案だ。

マイノリティー出資時の派遣人財の立場は微妙

(8)単年度計画・中計の精査・実行
【活動の意義】
100%子会社化後は、基本的には特段の制限なく子会社の従業員や情報にアクセス可能となる。そこで、クロージング後速やかに、単年度計画・中計を精査し、場合によっては、契約締結前に作成した事業計画を修正する必要がある。

【マイノリティー出資のポイント】
マイノリティー出資の場合、マジョリティー出資の場合と異なり、アクセスできる情報には制限がある。また、出資先にとって、自社が直接の競争関係にある場合には、当地の競争法の関係上、出資後も引き続き情報交換に制約が生じる。従って、自社が主導的に、事業計画を精査・実行するということは現実的ではない。しかし、当該企業に投資している以上、出資先の業績が想定以上に悪化すれば、減損が生じるし、見込んだリターンを得られないことになる。業績報告を受ける権利は得たとしても、業績悪化時にどのように対応するか、はマジョリティー出資時よりも、マイノリティー出資時の方が悩ましい。

出資先に派遣された人財が業績改善するよう働きかければよいと思うかもしれないが、往々にして、派遣人財は、出資先企業の信頼を得るべく、Give & Giveの立場を取らざるを得ず、出資先企業側に寄ってしまわざるを得ないケースが多い。その場合、出資先企業に対して、業績悪化を避けるよう強く言うことは難しい。そこで、本社側がしっかりと株主として厳しい姿勢をとるなど、役割分担をする必要がある。業績悪化時にどのように対処するか、当初から対応方法を検討しておくと、いざというときに慌てずに済むだろう。

次回最終回では(9)文化の共有と(10)ガバナンス構築について、具体的な事例を踏まえ解説する。

文:MAVIS PARTNERS マネージャー 井上 舞香