【戦略的マイノリティー出資のPMIのポイント】買収でもないのに、そもそもPMIは必要?

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ターゲット企業との“架け橋”に…ポストM&Aに欠かせないPMI(写真はレインボーブリッジ)

海外M&Aでは「マイノリティー出資」が最多

2019年に実行された日本企業によるM&Aにおいて、In-OutのM&Aでは「マイノリティー出資」の割合が46%と半数近くを占めた。対して、In-InのM&Aではマイノリティー出資の割合は28%にとどまった(データの出所:SPEEDA)。

クロスボーダーM&Aの場合、外資規制によりそもそも過半数がとれないケースや、リスクの高い地域・領域への参入に際して、後のマジョリティーへの段階取得を見据えて、まずはマイノリティー出資から入っていくケースが多くみられる。

国内においては、特に非上場企業のM&Aのうち8割が買収である一方、上場企業では買収と同程度、マイノリティー出資も活用されている。

例えば、ヘルスケア領域の強化に向けたキリンホールディングスとファンケルの提携、次世代型コンビニサービスの展開を目指したローソンとKDDIの提携が挙げられる。また、SBIホールディングスは「地銀連合構想」を掲げ、島根銀行や福島銀行など複数の地銀へのマイノリティー出資を活発化している。

そうした中、マイノリティー出資の場合のPMIはどうすればいいのか、 という相談を受けることも増えてきた。

PMIはどこまでやるべきか」実務者の悩みどころ

本連載の執筆にあたり、弊社主催の「ポストM&A研究会」の会員に、マイノリティー出資に関して、関心のあるテーマについてアンケートをしたところ、以下のテーマが上位に挙がった。

①マイノリティー出資とマジョリティー取得時の実務的なPMI活動の違い(73%)
②マイノリティー出資から段階取得すべきかの見極めポイント(64%)
③マイノリティー出資時のコントロールの効かせ方(55%)

②と③について関心が高いことは予想していたが、①が最多だったのは意外だった。最近でこそ、PMIに関する書籍は増えてきたものの、多くはマジョリティー取得を想定したものであり、マイノリティー出資の場合、PMIをどこまでやればいいのか、そもそもPMIは必要なのか、M&A実務担当者が想定以上に悩んでいることが本アンケートから浮かび上がった。

PMIは「Post Merger Integration」の略。M&A後の“統合”プロセスと訳されることから、“企業の統合”がないマイノリティー出資では、PMIは不要なのでは、と考える方もいるだろう。 

確かに、財務リターンのみを求める場合や、競合となりうる新興企業の取り込みを目的としたCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)による出資の場合には、PMIという概念は似つかわしくないかもしれない。

ただし、マイノリティー出資の中でも、企図した事業シナジー発現に向けパートナー企業との協働が必要な場合には、部分的な統合は必要である。従って、マイノリティー出資でも、程度は違えども、PMIは必要といえる。

マジョリティー出資よりPMIが難しいことも

ある側面から見れば、マイノリティー出資のPMIはマジョリティー取得の場合に比べて難しい。

例えば、ある企業では、戦略的なシナジーを企図しマイノリティー出資を行い、協業事項については契約上も記載していたのだが、パートナー企業に対する経営権を持っていないがゆえに、パートナー企業の社員からは「所詮マイノリティーでしょ」という目で見られ、対等な議論をさせてもらえなかった、という派遣社員の嘆きの声も聞かれた。このケースでは、当該想定されたシナジーは残念ながらほとんど実現していない。

マイノリティー出資で苦い思いを経験した事業会社のM&A担当者からは、「マイノリティー出資は2度とやりたくない」「過去の反省を踏まえて、今後は戦略的目的のM&Aでは絶対にマジョリティーをとる」という半ば恨みにも似た声を聞く。

マイノリティー出資で戦略的なシナジーを実現するのは、マジョリティー取得よりも難しい。取引リスクは確かにマイノリティー出資のほうが低いのだが、シナジーを発現できないリスクはマイノリティー出資のほうが高いのだ。

従って、マイノリティー出資を選択する場合には、マイノリティー出資の中で、企図したシナジー実現のために必要なPMIとは何かを十分考える必要がある。 今後、マイノリティー出資を検討しようとしている方は、出資後どのようにシナジーを実現させていくか、明確に描けているだろうか?  

マイノリティー出資を実行したが、思うような成果が出ていないケースは少なくない。次回の連載以降、マイノリティー出資での具体的なPMI活動についてお伝えしていく。

                                                                       文:MAVIS PARTNERSマネージャー 井上舞香