ホテルメルパルク6施設閉鎖が決定、日本郵政は物件の売却に動くか?

alt
ホテルメルパルク東京

2022年3月16日ホテルメルパルクを運営するメルパルク(東京都港区)が、東京都や京都府、岡山県などの6施設の営業を9月末で終了すると発表しました。メルパルクが運営するホテルは全部で11施設。そのうちの6施設からの撤退となります。理由は賃貸借契約の終了時期を迎えたため。愛知県や大阪府、熊本県の3施設は10月以降も営業を継続します。残りの2施設は継続するかの判断をしているといいます。

メルパルクは結婚式運営会社ワタベウェディング(京都市)の子会社。ワタベウェディングは新型コロナウイルス感染拡大で急速に資金繰りが悪化し、2021年3月に事業再生ADRを申請しました。医薬品を手がける興和(名古屋市)の支援を受けて再建を目指しています。

ホテルメルパルクの物件を所有するのは、日本郵政<6178>の子会社日本郵政不動産(東京都千代田区)です。営業を終了する施設は利益が出ない可能性が高く、運営事業者を見つけるのは困難だと考えられます。物件そのものの売却へと動くのでしょうか。

この記事では以下の情報が得られます。

・メルパルクをワタベウェディングが運営することになった経緯
・ホテルメルパルクの不動産価値

11施設の年間賃料は33億4,500万円

メルパルクは郵便貯金の普及活動を行うことを目的とした福利厚生施設で、もともとは非営利の施設でした。これと似た目的で運営されていたのが「かんぽの宿」です。メルパルクは2007年の郵政民営化に伴って民営ホテルとなり、2008年9月までゆうちょ財団が運営を行っていました。

ホテルメルパルクは2003年度から民営化する前の2007年度まで、収入から(減価償却費を除く)支出を差し引いた収支が黒字となっていました。大赤字だったかんぽの宿と異なり、メルパルクは条件の良い施設だったと言えます。

2007年12月にメルパルクの運営業者の選定に入りました。手を上げたのは11社。最終的にワタベウェディングに決まります。2008年9月に契約条件について合意をし、賃貸借契約を締結しました。

契約時、ワタベウェディングは東京と京都以外の9施設の年間合計賃料の上限額を30億円、東京都と京都の2施設を年額3億4,500万円としていました。

■メルパルクの定期建物賃貸借契約の内容

※会計検査院「簡易生命保険の加入者福祉施設等の譲渡等に関する会計検査の結果について」より

賃貸借期間は2008年10月から7年間。ワタベウェディングは契約を更新して運営を継続しました。ワタベウェディングは得意とする結婚式を軸としてホテルメルパルクに新たな風を送り込みます。

メルパルクは新型コロナウイルスに襲われる前の2019年12月期まで黒字が続いています。

■メルパルクの業績推移(単位:百万円)

2016年12月期 2017年12月期 2018年12月期 2019年12月期 2020年12月期
純利益 194 28 235 27 -3,950

※決算公告より筆者作成

メルパルクの親会社であるワタベウェディングは、2020年12月期に売上高が前期比49.7%減の196億7,800万円となり、117億3,800万円の純損失を計上。8億6,300万円の債務超過に陥りました。2021年3月期事業再生ADRを申請し、借入金185億円のうち90億円の債務免除を受けました。

2021年から国内では結婚式を再開する動きが加速し、ゲストハウス型の結婚式場を運営するブラス<2424>が2021年7月期に営業黒字化するなど、婚礼業界は復活し始めました。しかし、シティホテルであるメルパルクは多くの施設で宿泊客が戻らずに赤字が継続しているものと予想できます。

鬼門となっていた「かんぽの宿」を譲渡

メルパルクとかんぽの宿は日本郵政株式会社法附則第2条第1項において、2012年9月末までに施設の譲渡又は廃止を義務付けられていました。ワタベウェディングがホテルメルパルクの運営受託をすることによって、婚礼という新たな収益源が加わり、物件の価値を最大化する狙いがありました。収益性が上がれば物件を譲渡する際に有利な条件で交渉できます。

2012年4月に郵政民営化法等の一部を改正する法律等が成立。「かんぽの宿及びメルパルクについては、その事業の継続、譲渡又は廃止が日本郵政株式会社の経営判断に委ねられることを踏まえ、会社の経営に及ぼす影響を勘案しつつ、適切に対処されるよう努めること。(一部省略)」と定められました。

ホテルメルパルクの物件を所有し、かんぽの宿の運営をする日本郵政不動産は、全くといっていいほど利益が出ていません。

■日本郵政不動産の業績推移(単位:百万円)

2019年3月期 2020年3月期 2021年3月期
売上高 2,080 3,655 3,406
営業利益 -625 -184 -1,244

※決算公告より筆者作成

赤字は主にかんぽの宿によるものです。

2021年に入ってついにかんぽの宿の大量譲渡に動きます。不動産投資ファンド・フォートレスやシャトレーゼホールディングス(山梨県甲府市)などに、保有する33施設のうち29施設を売却すると2021年10月に発表しました。

日本郵政がコロナ禍の今、ワタベウェディングが見限ったホテルメルパルクの運営受託者を見つけるのは極めて難しいと考えられます。物件の売却へと動く可能性が高いです。

やや古い情報ですが、2009年3月末時点でのメルパルク11施設の簿価は346億4,300万円(うち土地212億6,500万円、建物103億2,300万円)となっています。最も価値の高いメルパルク東京が81億6,000万円です。

■メルパルクの概要

鉄道会社を中心に所有するホテルを不動産ファンドなどへと売却する動きが加速しています。このタイミングであれば安値での売却になるものと予想できますが、コロナの影響が長期化する中で早期の売却を進めたいと考えているはずです。メルパルクの行方に注目が集まります。

麦とホップ@ビールを飲む理由