ゲームセンター運営GENDAを上場へと導いた投資ファンド・ミダスキャピタルとは?

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※画像はイメージ

ゲームセンターを運営するGENDA<9166>が、2023年7月28日にグロース市場に新規上場しました。GENDAは2020年12月にセガサミーホールディングス<6460>から、ゲームセンター事業を譲受。それからも次々と同業他社の買収を繰り返して成長しました。

GENDAは投資ファンドのミダスキャピタル(東京都港区)の出資先。ミダスキャピタルはPEファンドでありながら、原則的にミダスキャピタルのメンバーのみがLP出資をする権利を持つという異色の会社。力のある起業家を育て、ビジネスエコシステムの形成に一役買っています。

ミダスキャピタルとは、どのような投資ファンドなのでしょうか?この記事では以下の情報が得られます。

・ミダスキャピタルの概要
・投資先一覧
・GENDAの経営戦略

上場後も一定の株式を継続的に保有

ミダスキャピタルは2017年9月に設立された独立系投資ファンド。創業者の吉村英毅氏は、東京大学在学中にエアトリ<6191>の前身となる旅キャピタルを設立しました。2007年に航空券販売サイトe航空券.comの事業を取得。エアトリの主力サービスとなります。エアトリは2016年3月に上場しました。

吉村氏が経営に参画していたエアトリは、メディア運営のまぐまぐ<4059>や、訪日外国人向けのコンシェルジュサービスを手掛けるインバウンドプラットフォーム<5587>の前身となる会社の買収など、出資やM&Aを積極的に行っていました。まぐまぐは2020年9月に上場、インバウンドプラットフォームは2023年8月に新規上場予定です。吉村氏がベンチャー企業への投資・育成事業に強い関心を持っていることがうかがえます。

ミダスキャピタルの1号案件がリユースサービス「バイセル」を運営するBuySell Technologies<7685>。2017年9月に吉村氏が実質的な出資者となる「ミダス第1号投資事業有限責任組合」「ミダス第2号投資事業有限責任組合」がBuySell Technologiesの株式を取得しました。2019年12月に新規上場しています。

ミダスキャピタルは、原則として上場後も投資先企業の議決権総数の35~50%以上の保有を継続する方針を掲げています。メンバーが出資する権利を持つという特殊な性格を持っているため、実質的なファンドの償還期限が到来しません。短期的な利益を追求するのではなく、リターンの最大化を目指しています。

実際、BuySell Technologiesは2022年12月末の段階で、ミダスキャピタルが57.44%を保有しています。

出資先同士の結びつきが強い点も特徴の一つ。ミダスキャピタルの投資先で、2022年6月に上場したWebマーケティングを手掛けるAViC<9554>は、上場前2021年9月期にGENDAの関連企業など、ミダスキャピタルの企業群と取引関係がありました。

■AViCのミダスキャピタル企業群との取引内容

※新株式発行並びに株式売出届出目論見書より

各取引には厳格なガバナンス原則が定められており、グループ内で不適切な取引が行われないようモニタリングを実施しているとしています。

ミダスキャピタルの出資先は多岐に渡っています。

■過半数の出資を行う会社

会社名 事業内容 エグジット
株式会社BuySell Technologies 無店舗型買取業態最大手 IPO
株式会社GENDA アミューズメント施設運営事業、アミューズメントマシンレンタル事業、オンラインクレーン事業 IPO
株式会社イングリウッド AI戦略事業、データテクノロジー事業、セールス・ライセンス事業 -
株式会社AViC WEBマーケティング事業、メディア開発・運営事業 IPO
株式会社シコメルフードテック 外食向けの仕込み外注アプリ「シコメル」などのフードテック事業 -
マリンフード株式会社 乳製品の製造加工事業運営 -
スプリームシステム株式会社 マーケティング・オートメーションツール(MA ツール)の開発・販売事業 -
株式会社LATRICO オンライン医薬品ECプラットフォームの開発・運用、およびオンラインを中心とするマーケティング事業 -
株式会社WAKUWAKU 中古仲介とリノベーションのワンストップサービスである「リノベ不動産」の提供 -
株式会社ゼスト 在宅医療の訪問スケジュール最適化による経営改善クラウドサービス「ZEST」の運営 -
株式会社トキハナツ セールスイネーブルメントノウハウを元にした経営コンサルティング事業 -
株式会社Dual Bridge Capital シード・アーリーおよびレイターステージのスタートアップに投資するベンチャーキャピタルの運営事業 -
株式会社羅針盤 観光・インバウンド領域で多様なサービスを展開 -

■20%以下の割合で出資している会社

会社名 事業内容 エグジット
C2C Platform株式会社 ダイレクトマッチングのDXビジネスプラットフォームの提供 -
SPORTS CROWN Pte. Ltd. ファンタジースポーツ(好きな選手で架空のスポーツチームを編成するゲーム) の運営 -
株式会社Palett 幼児教育型シッターサービス「クラウンシッター」の運営 -
Art Technologies株式会社 アート販売・サブスクリプション事業、エキシビジョン・ギャラリー運営事業 -
Mehana Capital LLC 特別買収目的会社(SPAC)の運営 -

※公式ホームページをもとに筆者作成

ソーシング件数をKPIに設定

GENDAの代表取締役会長は片岡尚氏。イオン<8267>のゲームセンター事業を統括するイオンファンタジー(千葉県千葉市)や、映画館運営のイオンエンターテイメント(東京都港区)で社長を務めた経歴があります。2018年5月にGENDAの前身となるミダスエンターテイメントを設立しました。

共同代表で社長を務めるのが申真衣氏。ゴールドマン・サックス証券で金融商品開発などを経験してきました。ビジネスで実績を残しつつ、雑誌「VERY」の専属モデルとしても活躍するなど、多彩な経歴を積んでいます。ミダスエンターテイメント設立の3カ月後に取締役として経営に参画。2019年6月に社長になりました。

GENDAは2019年1月の売上高が4億円でした。2023年1月期は115倍の461億円まで拡大しています。急拡大の主要因となっているのがM&A。主力のセガエンタテインメントだけでなく、宝島(東京都台東区)、スガイディノス(札幌市)、エービス(茨城県ひたちなか市)のゲームセンター事業など、上場前はロールアップによる企業価値向上に専念していました。

■GENDAのM&A及び資本取引

※「事業計画及び成長可能性に関する事項」より

この会社がユニークなのは、成長戦略にM&Aを盛り込んでいるだけでなく、案件ソーシング件数をKPIに設定していること。2023年1月期は40件のソーシング実績があり、2024年1月期は50件を目標としています。

※「事業計画及び成長可能性に関する事項」より

M&Aの仲介事業者ならともかく、GENDAのような会社でソーシング件数に目標を設けている会社は珍しいでしょう。

スマートフォンやインターネットゲームなどの家庭用ゲームが充実し、ゲームセンターの市場は縮小するとのイメージがありますが、クレーンゲームのようなプライズゲームは、コロナ禍を迎える前までは市場が拡大し続けていました。GENDAが成長する機運はあります。同社はアメリカのアミューズメント施設運営会社を持分法適用関連会社にしており、海外展開にも期待ができます。

また、ゲームセンターだけでなく、映画館の運営にも乗り出しました。M&Aを武器として事業やエリアの幅を広げ、どこまで成長できるのか。注目が集まります。

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