経産省がCGSガイドライン改訂、中長期インセンティブ報酬の構成比を「40~50%に」

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東京・大手町

経産省が改訂CGSガイドラインを公表

中・長期的な企業価値の向上を重視

経済産業省は7月19日、「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン)」の改訂版を公表した。日本企業の中・長期的な価値の向上を実現する上で、M&A後の買収先の優秀な経営人材を引き留めるリテンション・プランとしても活用できる業績連動報酬や自社株報酬の導入を促している。

CGSガイドラインは2017年3月、日本企業のコーポレートガバナンスの取り組みの深化を促す観点で策定。2018年9月には、金融庁が発表した「改訂コーポレートガバナンス・コード」や経産省が設置したCGS研究会(第2期)の検討内容を踏まえ、初の改訂に踏み切った。

企業がグローバルな競争を勝ち抜くためには、スピード感をもってリスクテイクできる環境や企業価値の向上を強く意識した上場企業の経営が不可欠との考え方が広まる中、2021年11月には第3期のCGS研究会(座長・神田秀樹学習院大学大学院法務研究科教授)が発足。「攻めのガバナンス」の議論をさらに推し進め、ガイドラインの再改訂にこぎつけた。

インセンティブ報酬のメリットを強調

今回の改訂版は、1.取締役会の在り方、2.社外取締役の活用の在り方、3.経営陣の指名・報酬の在り方、4.経営陣のリーダーシップ強化の在り方を柱に設定。従来はCGSガイドラインの別紙としていた指名委員会・報酬委員会および後継者計画に関する内容を独立した指針に位置付けた。

経営陣の報酬の在り方について、中・長期のインセンティブ報酬である業績連動報酬や自社株報酬は業績、株価の変動に応じて経営陣が得られる経済的利益が変化するため、中・長期的な企業価値向上の動機付けになると明記した。

中・長期インセンティブ報酬の構成比を「40~50%に」

さらに、日本企業の経営陣の報酬は依然として固定報酬が中心で、欧米に比べて中・長期インセンティブ報酬の割合が低いと指摘。報酬全体における中・長期インセンティブ報酬の構成比について「グローバル水準の40~50%程度とすることも考えられる」と具体的な目安にも踏み込んだ。

世界有数のコンサルティングファームであるウイリス・タワーズワトソンの「日米欧CEO報酬比較」の2021年調査結果によると、日本企業の中・長期インセンティブ報酬の構成比は27%。米国(74%)はもちろん、英国(48%)、ドイツ(41%)、フランス(39%)にも大きく水をあけられている。

一方、経営再建に向けた改革に取り組んでいる企業は一時的に財務指標の数値が悪化することがあり得るため、安易な業績連動報酬の導入はかえって改革を阻害する結果になりかねないと提起。事業再構築が必要な局面では、企業にとって必要な改革を経営陣が回避しようとする要因にならないよう留意する必要があるとした。

また、報酬全体に占める業績連動報酬の割合を高くし過ぎれば、目標の業績を達成できなかった場合に報酬額が著しく目減りしてしまうリスクがあると言及。日本の役員報酬税制では、非財務指標を利用した変動報酬が損金算入の要件を満たさないこともハードルになっていると指摘した。

M&Aの意義を含む株主の理解をどう深めるか?

経産省が2021年3月にまとめた「大企業×スタートアップのM&Aに関する調査報告書」でも、スタートアップ経営者が会社に残るインセンティブが少ないことなどがM&A後の人材留保の失敗を招いていると分析。M&Aがイノベーション創出を目的とした成長投資であることについて、投資家の理解が深まっていないという問題点を挙げている。

今回の改訂版でも「中・長期のインセンティブ報酬の比率が低い日本企業では、説得力をもった説明を積極的に行うことで株主などの理解や評価を得ることが期待され、報酬制度見直しの後押しにできる場合も多いと考えられる」との見方が示されている。

文:M&A Online編集部

関連リンク:
「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン)」を改訂しました (METI/経済産業省)