役員や従業員による企業買収に注力「MCPファミリア」の矢作真美社長に聞く

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「親族外の承継が実現できるよう支援することをモデルケースとして取り組んでいく」という矢作真美MCPファミリア社長

投資ファンドのMCPファミリア(東京都千代田区)は2022年11月、中小企業の事業承継支援を目的に、第一号ファンド「MCP Familiar投資事業有限責任組合」を立ち上げた。

親族後継者のいない企業の事業承継を手助けし、非株主役員や従業員に事業を引き継いでもらうMBO(経営陣による買収)やMEBO(経営陣と従業員による買収)、EBO(従業員による買収)の支援をメインに据えるという、これまでにはないスタイルでファンドを運営する計画だ。初めての試みだが、事業承継に関するニーズは高いだけに、その動向は関心を集めそうだ。

そこで同社の矢作真美社長に、ファンドの狙いや今後の事業計画などについてお聞きした。

高い確率でMBOなどを実現へ

-親族後継者のいない企業の手助けをすることを事業の目的にされたのはなぜなのでしょうか。

現在の日本には親族後継者不在の中小企業が数多くある。これら企業の事業承継を支援する方法はいろいろとあるだろうが、我々は親族外の承継が実現できるよう支援することをモデルケースとして取り組んでいくことを選択した。企業を高く売るという考えではなく、役員や従業員の方にできるだけ高い確率でMBOなどが実現できるよう支援する計画だ。

-モデルケースということは、他のケースもあるのですか。

歴史ある会社の3代目、4代目となると、親族内で株式が分散していき、現社長が株式を10%だとか15%しか保有していないケースがある。このため我々が経営にタッチしていない親族から株式を買い取り、集約していくケースも考えている。親族外の承継が7〜8割で、親族内の集約が2〜3割といったところを予想している。

-2022年11月に第一号ファンドのMCPF組合が設立されました。スタートしたばかりですが、現状をお教え下さい。

現在、ファンドへの出資者である金融機関をはじめ、様々なチャネルから案件紹介を受けており、引き合いは強い。我々としては今年3月くらいまでに、投資を実現できれば理想だと考えている。

どのファンドが合うのか選べる時代に

-単純に高額な企業売却を目指すのではなく、役員や従業員の方に高い確率でMBOなどを実現してもらうとなると、出資者のリターンは通常のバイアウトファンド(投資家から集めた資金で企業を買収し、価値を高めた後に売却して売却益を得るファンド)よりも抑えられることになるのではないでしょうか。

いろんな関係者が最大限の利益を追求するというよりは、それぞれの立場を我々が調整し、当事者全員が納得できる範囲で案件が決まるという流れを考えている。

中小企業オーナー様には、他社に高く売らない見返りとして、高い確率でMBOなどを目指す道筋を示すことができ、我々も単純な高額転売を行わないことにより、中小企業オーナー様からたくさんの相談が頂けるようになることで、一般的なバイアウトよりもボラティリティ(資産の価格変動率)は低く、安定的な運用ができる。

また、ファンドには金融機関が中心となって投資しており、出資者としてのリターンのみならず、自身の顧客の事業承継の支援を、我々のファンドを活用して行うことを出資の一目的としているため、純投資以上の価値を見出してもらっている。

-今後、同様のファンドが増える可能性はあるでしょうか。

当社はかなり独自性が強いコンセプトを打ち出しているので、同様のファンドが登場するかは分からない。ただ中小企業の事業承継は社会課題となっているので、今後いろんな工夫を凝らしたファンドが現れてくるだろう。それぞれのやり方で、それぞれに合った投資や支援をすることになりそうだ。企業にとってもどのファンドが合うのか選べるような時代になるだろう。

【略歴】

MCPファミリア矢作真美社長に聞く
矢作MCPファミリア社長

矢作真美(やはぎ・まさよし)氏
1997年、東京大学経済学部経済学科卒
同年、現・みずほ銀行入行
2004年、ユニプレスに出向
2008年、オリエントコーポレーションに出向
2011年、現・MCPパートナーズに出向
2015年、プルータス・コンサルティング入社
2016年、現・MCPパートナーズ入社
2022年、MCPファミリア代表取締役社長

聞き手・文:M&A Online編集部 松本 亮一