上場企業の看板を返上するMBO、今年もハイペース

alt
MBOで株式を非公開化するスノーピーク(写真は東京・原宿の店舗)

MBO(経営陣による買収)が今年もハイペースを保っている。2月25日時点でTOB(株式公開買い付け)は12件(届け出ベース)を数えるが、その半数の6件がMBO案件。年間16件だった2023年を上回るペースで推移しており、過去最多を記録した2011年21件に並ぶ勢いだ。

株式市場から「退場」するMBO

MBOは上場企業の看板を返上して株式市場から「退場」することを意味し、究極の買収防衛策とも言われる。創業家出身の経営者らがTOBを通じて自社の株式を買い取り、非公開化するパターンが一般的。多額の買収資金を必要とするため、投資ファンドと連携するケースが増えている。

キャンプ用品大手のスノーピークは2月20日、MBOで株式を非公開化すると発表した。今年に入って6件目のMBO案件で、翌21日から買い付けが始まった。買付代金は最大約340億円。創業家出身で筆頭株主の山井太会長兼社長が組んだ相手は米国投資ファンドのベインキャピタル。MBOが成立すれば、東証プライム上場が廃止となる。

コロナ禍で盛り上がったアウトドア需要の一巡で業績の頭打ちが鮮明になったことに加え、海外ローカルブランドやスポーツ用品、ホームセンターなどの異業種の参入で今後一層の競争激化が予想される。こうした中、上場を維持したままでは短期的な業績や株価動向にとらわれ、中長期な視点で事業構造改革を進めるのが難しいとの判断だ。

目下、前年を4カ月上回るペース

MBOはコロナ禍の影響が広がった2020年を境に増加傾向が顕著になった。2020年11件(TOB総数は60件)→21年19件(同70件)→22年12件(同59件)→12年16件(同74件)と増減しながらも4年連続で2ケタを記録。2024年はここまで6件(同12件)だが、前年より4カ月ペースが速い。

過去をたどると、MBOが最高潮を迎えたのは2000年代後半から2010年代初めのこと。ピークの2011年は年間21件に達した。

元通産官僚の村上世彰氏が率いる「村上ファンド」の登場や海外投資ファンドの日本上陸を機に物言う株主の存在が意識され始めた時期に重なる。2008年のリーマンショックを引き金とする世界同時不況の中、非公開化で上場コストを減らす動きも広がった。

6件中、5件に投資ファンドが絡む

足元の2024年のMBOで例年以上に目立つのが投資ファンドの存在。ここまでの6件中、アオキスーパーの案件を除く5件には投資ファンドが絡んでいる。しかも、そのうち4件は海外投資ファンドだ。

1月末に始まったベネッセホールディングスのMBOでは同社創業家がスウェーデン投資ファンドのEQTと組んだ。総額2079億円に上る。

MBOをめぐってはここへきて巨額案件が相次いでいる。中堅や地方の上場企業にとどまらず、大手クラスにも波及してきたからだ。今年1月半ばに完了した大正製薬ホールディングスのMBOは7000億円超と国内最大となった。2月末から3月にかけては製造系・技術系派遣の最大手、アウトソーシングへの2200億円規模のMBOが控える(昨年12月に公表)。

東京証券取引所は昨年3月、プライム・スタンダード市場の全上場企業に対して資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応を要請。とくにPBR(株価純資産倍率)1倍割れの企業には風当たりが強まっている。さらには物言う株主の台頭も著しい。

こうした中、株価対策や株主の意向に左右されず、中長期で経営改革を進めるための方策として、オーナー系企業を中心にMBOによる非公開化を模索する動きが広がりを見せている。

◎2024年のMBO一覧(届け出ベース)

開始 対象会社 公開買付者 総額 上場
1/9 アオキスーパー 青木商店(創業家) 107億円 1994年
1/25 ペイロール TAアソシエイツ(米国) 240億円 2021年
1/30 ベネッセホールディングス EQT(スウェーデン) 2079億円 1995年
2/9 ウェルビー ポラリス・キャピタル・グループ(日本) 240億円 2017年
2/13 ローランド ディー.ジー. タイヨウ・パシフィック・パートナーズ(米国) 620億円 2000年
2/21 スノーピーク 米ベインキャピタル(米国) 340億円 2014年

※アオキスーパーの案件は2月20日に終了(成立)。これ以外は現在進行中。

文:M&A Online