2021年の上場企業によるMBO(経営陣による買収)が10年ぶりの高水準で推移している。8月19日時点でMBOの公表件数は15件とすでに前年の年間11件を上回り、2011年(21件)以来の20件台に乗せる勢いだが、その主役となっているのは地方企業だ。
上場企業のMBOは通常、TOB(株式公開買い付け)の一環として行われ、株式の非公開化を目的としている。創業家の経営陣が主導するケースが大半で、中堅クラスの上場企業が中心となっている。
今年に入ってMBO実施を公表した15件(サカイオーベックスは1社で2件とカウント)の顔ぶれをみると、東京都に本社を置くのは4件で、残る11件は地方。なかでも愛知県だけで木材卸の名古屋木材(名古屋市、名証2部)、ビルメンテナンス業の大成(名古屋市、名証2部)、業務用家具・インテリアメーカーのオリバー(岡崎市、東証1部)の3件を占める。
MBOは長らく年間5件前後で推移してきたが、2020年のMBOは年間11件を数え、2011年(21件)以来の2ケタに乗せた。所在地別では東京都4件、地方7件だったが、今年は地方のウエートがさらに高まっている。
上場企業のMBOは株式市場からの「退出」を意味する。そうした決断の背景には何があるのか。
各社に共通するのが短期的な業績変動や株価動向、株主の要求などにとらわれず、中長期的な視点から経営課題に対処するためには、いったん非公開化するのが望ましいとの判断だ。上場維持費用の負担増を理由の一つにあげるケースも目立つ。MBOには所要資金を銀行から借り入れる場合が多いが、長期にわたる金融緩和も追い風となっている。
8月18日にMBOを公表したオンリー(京都市、東証1部)は主力の紳士用・婦人用スーツ市場を取り巻く環境変化を理由としている。ビジネスウエアのカジュアル化が進展していたところに、コロナ禍によるテレワークの導入促進などでスーツ需要がさらに落ち込んでおり、非公開化で思い切った事業構造改革を進める。
上場企業は2022年4月の東京証券取引所の市場再編に伴い、流通株式時価総額や株主数の基準が厳しくなる。とりわけ中堅クラスの企業にはハードルが高いうえ、近年の物言う株主の台頭などで、上場メリットが薄らいでいる状況が指摘されている。秋以降、MBO熱がさらに高まる公算が大きい。
◎2021年公表のMBO(JQはジャスダックの略)
公表月 | 社名 | 本社 | 上場市場 |
2月 | 名古屋木材 | 名古屋市 | 名証2部 |
〃 | ビーイング | 津市 | JQ |
〃 | 大成 | 名古屋市 | 名証2部 |
〃 | サカイオーベックス(不成立) | 福井市 | 東証1部 |
3月 | イグニス | 東京都 | マザーズ |
〃 | 光陽社(不成立) | 東京都 | 東証2部 |
〃 | ニッパンレンタル | 前橋市 | JQ |
5月 | ファミリー | 千葉市 | JQ |
〃 | AOI TYO Holdings | 東京都 | 東証1部 |
〃 | EPSホールディングス |
東京都 | 東証1部 |
6月 |
オリバー |
岡崎市 | 東証1部 |
7月 | サカイオーベックス(再実施中) | 福井市 | 東証1部 |
8月 | カーディナル | 大阪市 | JQ |
〃 | 愛光電気 | 小田原市 | JQ |
〃 | オンリー | 京都市 | 東証1部 |
文:M&A Online編集部