マツダが欧州で「ロータリーエンジン復活」を宣言、その理由は?

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マツダ<7261>が、まもなく欧州でロータリーエンジン(RE)の「復活」を宣言するようだ。1月13日にベルギーで開幕する「ブリュッセルモーターショー2023」で、新型REを搭載した小型SUV(スポーツ多目的車)「MX-30」のプラグインハイブリッド(PHV)を発表するのだ。2012年6月に「RX-8」の生産が停止して以来、10年以上の空白期間を経てRE車が再登場する。

なぜ燃費の悪いREをPHVに搭載するのか?

高回転までスムーズに吹け上がるREの再来を期待したロータリーマニアは、肩透かしをくらうかもしれない。実は「MX-30」のPHVモデルに搭載されるREは駆動用には使われない。単なる「発電機」なのだ。スポーツカー向けのエンジンであるREを、なぜ駆動用に使わないのか?

新たなロータリーエンジン搭載車としてデビューする「MX-30」のPHVモデル=写真はEVモデル(同社ホームページより)
新たなロータリーエンジン搭載車としてデビューする「MX-30」のPHVモデル=写真はEVモデル(同社ホームページより)

かつてマツダは、REを従来のレシプロエンジン(ピストンの往復運動を回転運動に変換することでエネルギーを得るエンジン)に代わる「次世代エンジン」と位置づけていた。「RX-8」「RX-7」に搭載した2ローターや「ユーノスコスモ」に搭載した3ローターのREが投入された。小型車・軽自動車向けに1ローターREの開発も進めていたが、燃費を改善できず実用化を断念した歴史がある。

ターボチャージャーの廃止などで前モデルの「RX-7」よりも燃費を改善した「RX-8」ですら、実用燃費は7km/l前後。3ローターの「ユーノスコスモ」に至っては2km/l前後と、「ガソリンタンクに穴を開けて走っているようなもの」と揶揄(やゆ)される始末だった。

そんな燃費の悪いREを「発電機」使うのは、はたして得策なのか?REより燃費の良いレシプロエンジンを搭載する方が、燃費は良いはずではないか?マツダにはハイブリッド車(HV)並みの「SKYACTIV(スカイアクティブ)」エンジンがある。あえてREを選ぶ理由はないはずだ。

REだから「水素でも走る」ZEVに

実はREは低速域や加速時の燃費こそ悪いが、最適の回転域であればレシプロエンジンと比べても遜色がないという。走行速度に関係なく一定の回転数をキープする発電機のような使い方であれば、レシプロエンジンとの燃費差はほとんどないのだ。REは騒音や振動が抑えられる上に小型軽量なため、発電機として搭載すれば電気自動車(EV)に近い乗り心地を実現できるメリットがある。

さらにREには、レシプロエンジンにない特性がある。ガソリンだけでなく、水素も燃料にできるのだ。REはエンジン内の燃料を噴射する空間と燃焼する空間が異なるため、水素を燃料にしてもレシプロエンジンのようなバックファイア(異常燃焼)が起こりにくい。

エンジンの改造も簡単で、ガソリンと水素を同時に燃料として使えるという強みもある。つまり「MX-30」のPHVモデルに水素タンクを搭載すれば、EV同様に二酸化炭素(CO₂)を排出しないゼロエミッションビークル(ZEV)に早変わりというわけだ。

「MX-30」のPHVモデルにロータリーファンが待ち望んでいる「REのスポーティーな走り」は期待できないが、次世代の環境車としては大きな可能性があるクルマと言えるだろう。EVシフトでは「乗り遅れ感」があるマツダだが、水素インフラが普及すればRE搭載のPHVで生き残る可能性もある。「MX-30」のPHVモデルに、マツダの「社運」がかかっているのかもしれない。

文:M&A Online編集部