「孫正義氏が韓国版アマゾンを率いて楽天と最終戦争」説は本当か

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ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長が「韓国のアマゾン」の異名を取る電子商取引(EC)モール、クーパンの「日本上陸」を狙っているとの噂が駆け巡っている。

孫vs.三木谷の国内EC「全面戦争」勃発?

孫氏が率いるクーパンと、三木谷浩史会長兼社長が率いる楽天グループのECモール「楽天市場」との「最終戦争」になると、一部週刊誌が報じている。この噂は正しいのか?

ソウルに本社を置くクーパンは2010年に設立された韓国最大のEC企業。「ロケット配送」と称する配達時間の短さがセールスポイントで、注文品の99.6%を24時間以内に届けているという。中国や米国など海外にも進出しており、2021年3月にはニューヨーク証券取引所に上場している。

ソフトバンクグループは2015年、クーパンに10億ドル(約1440億円)を出資した。2017年に発足した傘下のビジョン・ファンドを通じて20億ドル(約2880億円)の追加投資をしている。

しかし、これは事業買収ではなく、純投資だ。ソフトバンクグループがクーパンから言い出した日本展開を支持することはあっても、楽天市場と真正面からぶつけさせて「全面戦争」を仕掛けるとは考えにくい。

しかも、ビジョン・ファンドは2021年9月にクーパン株5700万株を1株29.68ドル、総額で16億9176万ドル(約2450億円)、2022年3月に5000万株を1株20.87ドル、総額で約10億4350万ドル(約1510億円)相当を売却しており、現在の保有株式は4億6120万株に。

クーパン株の売却を急ぐソフトバンク

クーパン株を売却した理由は、同社の業績。2021年12月期の営業損益は物流拠点の整備など先行投資がかさみ、15億ドル(約2170億円)と過去最大の赤字額を計上している。現在のクーパンに楽天市場を追い落とす余裕はない。

ビジョン・ファンドの持ち株比率も35.6%から28.9%へ下がり、3分の1を切っている。影響力も限定的だ。クーパンが自社の判断ではなく、ソフトバンクグループの言いなりになって楽天市場の市場を奪いにかかることはないだろう。

そもそもクーパンは、すでに日本に「上陸済み」だ。同社は2021年4月に日本法人のクーパンジャパン(東京都目黒区)を設立。東京都内で約4000種類もの食品や日用品などを、最短10分で配達するネットスーパーを展開している。

三木谷氏の楽天グループが携帯事業の巨額赤字で苦しんでいるのに乗じて、孫氏がクーパンを利用して楽天市場を潰しにかかる。一部週刊誌報道によると、この噂の発信源の一つはライブドア元社長の堀江貴文氏が運営するオンラインサロンでの発言という。

国内ITの変革者として著名な孫氏と三木谷氏の「全面対決」となれば話は盛り上がる。社運を賭けた携帯事業の赤字に乗じて楽天市場のシェアを奪いにかかるのも、十分にありうる話だ。

が、もし孫氏が国内EC市場で首位を狙うとしたら、投資先のクーパンで「代理戦争」を展開するというまどろっこしい手は打たないだろう。数々の巨額M&Aをものにしてきら孫氏だけに、TOB(株式公開買い付け)で楽天グループ本体を獲りにかかる可能性が高い。

文:M&A Online編集部

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