みなさん、こんにちは。MAOです。 6月27日に東京・丸の内の東京国際フォーラムで、日刊工業新聞社・ストライク共催のセミナー「経営者のためのM&Aによる新・成長戦略セミナー」がありました。会場には多くの経営者が訪れ、熱心に講演に聞き入っていました。そんなセミナー当日の模様をお届けします。
第1部ではストライクの荒井邦彦社長が、M&Aによる成長戦略と具体的な事例を紹介しました。荒井社長はまず日本の企業が2018年に行ったM&Aが約3800件で史上最高を記録したこと。さらに1989年のバブルのピーク時でもM&A件数は年間600件ほどだったため、この30年で6倍になった現状を紹介。
そのうえで、M&Aが増えてきた理由として二つの要因を挙げました。一つは借金をしていない上場企業が増えており6割に達している点。モノを作っても売れないため工場などへの投資が減った一方、利益は出ているため預金が溜まっていくという構造になっているそうです。
ここに金融緩和が加わり、企業としては資金調達が非常にやりやすくなっているため、多くの企業がM&Aによって成長していこうとしていると分析しました。
M&Aが増えているもう一つの要因は後継者問題。30年前の経営者の平均年齢が52歳だったのが、今は60歳になっており、経営者が高齢化しています。これに加え価値観も変わってきており、身内が後を継ぐ割合が20年前は8割だったのが、今は5割に下がっているそうです。この二つの要因によってM&Aが増えてきたといいます。
荒井社長はこうした現状を踏まえ、全国展開する際に各地の同業者を繰り返しM&Aすることで成長した企業や、新規事業に参入する際にM&Aを活用した企業の事業構造や成長過程などを詳しく紹介。M&Aを成長戦略に組み込むのは1社のM&Aだけではなく、繰り返しM&Aを実施する必要性を強調しました。
まとめとして買い手にとって重要なポイントは①希望条件を狭くしすぎない、②小さく始めて大きく育てる、③買収してからが本番と心得る、④一つのM&Aで満足しないこと、⑤買収しないリスクも考える-の5点を挙げました。
また、いい会社を買収するために必要なこととして①能動的な活動、②安定的な経営基盤、③豊富な資金力、④素早い決断―の4点を挙げました。
最後に資金面、人事面で後ろ盾となってくれる企業の傘下に入って、継続して社長として残り、企業の成長を目指している経営者の事例を紹介し「成長戦略というと買う方ばかりに頭がいくが、新しい株主さんの持っている経営資源をうまく利用させてもらって成長するという考えもある」と締めくくりました。
第2部はタカラ物流システム/タカラ長運の元代表取締役会長の大谷將夫氏による講演。大谷さんは1959年に宝酒造に入社し、営業部長などを経て、2000年にタカラ物流システムの社長に就任しました。その後、相手先企業から支援を要請されたのをきっかけに、2006年に長崎県の運送会社を子会社化し、自らが子会社の社長となって再建に乗り出しました。
当時、この子会社は業績が悪化しており、社員の新規採用を長い間実施していないことも加わり、社内の雰囲気は暗く活気がなかったそうです。大谷さんは「ここが一番の底。これから右肩上がりにできる」と考え、現地に定住し、人を大切にする経営姿勢を貫き再建に取り組みました。
そこで大谷さんが最初に行ったのが社員の意識改革。元気がない、積極性がない状況を変えることに注力しました。具体的な対策として実施したのが、経営方針発表会や体育大会、慰安旅行、新年会などで、さらに労働組合と対立関係を作らないための労使協調路線を作り、会社の業績内容をすべてオープンにしたほか、幹部社員をはじめとする社員の昇給や昇格などを次々に実施しました。
その行動の背景には「再建する時は社長の敵となる人を一人も作らない」という戦略があったそうです。
また当時この子会社には10の事業部門がありましたが、9事業部門が赤字でした。それぞれの事業部門には100ほどの問題があり、全体では1000もの問題がありました。これを2年ほどの間に一つひとつ解決していったそうです。こうした取り組みでほとんどの事業部門が8カ月で黒字化した結果、1年目で1億円、2年目に1億6000万円の利益を計上できました。
大谷さんは2014年にタカラ物流システムと子会社の経営から退いたあと、コンサルティングなどを行っており、2019年には大谷経営塾を設立しました。1940年生まれの大谷さんですが、活躍の場はまだまだ多そうです。
第3部ではストライクの渋谷大業務支援部長が「成功するM&Aのポイント」について解説しました。
M&Aの成功についてはいろいろな意見があるそうですが、渋谷部長は「関係者が実施してよかったと思えるM&Aにする必要がある」とし、具体例として後継者問題の解決、成長のための新たな経営資源の獲得、グループ入りによる経営の安定化などを挙げました。
さらに、従業員にとっては雇用の安定や新たなキャリアパスの獲得。取引先にとっては安定した取引の実現などがあるそうです。
これら成功を実現するためのポイントとしては、売却を検討している企業にとっては、M&Aのための準備として経営承継のための準備や企業価値を把握する必要があること。
さらに売り時を逃さないためには、会社の業績や社長の健康状態の把握、業種ごとのタイミングを探ることが重要としました。また良いアドバイザーに依頼することも成功にかかわる要因となるため、実績のある信頼できる担当者への依頼が大切だそうです。
一方、買収を検討している企業にとってはM&Aのための準備として、M&Aの目的の明確化とゆとりのある買収資金の確保が重要で、経営者の判断としては、意思決定は迅速かつ明確にし、買わないリスクも考えることを挙げました。
また基本的な姿勢として懐を深くして、重箱のすみをつつくようなことはせず、相手を尊重することが重要との認識を示しました。
下の表のようにセミナーはまだまだ続きます。「M&Aによって成長を目指す」戦略を描いている経営者の方は会場に足を運んでみてはいかがでしょうか。
開催地 | 日程 | 会場 |
---|---|---|
大阪 | 7月9日 | ホテルグランヴィア大阪 |
博多 | 7月10日 | ホテル日航福岡 |
大宮 | 7月11日 | パレスホテル大宮 |
静岡 | 7月12日 | ホテルセンチュリー静岡 |
熊本 | 7月17日 | ホテル日航熊本 |
函館 | 7月18日 | ホテル函館ロイヤル |
横浜 | 7月19日 | 横浜ベイシェラトンホテル |
新潟 | 7月23日 | ANAクラウンプラザホテル新潟 |
船橋 | 7月24日 | 船橋グランドホテル |
立川 | 7月25日 | パレスホテル立川 |
仙台 | 7月26日 | ホテルメトロポリタン仙台 |