みなさん、こんにちは。MAOです。M&A Online編集長からの「M&Aをもっと身近にせよ」とのミッションを遂行すべく、M&Aをはじめとするビジネスや経済について体当たりで探っていきます!
経済や数字に疎いMAOにとっては、かなりチャレンジングなことだけど、みなさんと一緒に勉強していけたらと思っているのでどうぞ宜しくお願いします。
今回は「はじめての会社分析」と題し、会社にまつわる数字の見方を公認会計士の花房幸範先生と三木孝則先生のお二方に伺ってきました。
MAO:有価証券報告書や決算短信など、会社の数字って色んな形で出ていて、どれのどこを見ていいのか分かりません。そもそも、これらの違いは何なのですか?
花房先生:いわゆる決算書というのは、企業の健康診断書や成績表といわれ、現在の状況を表すものです。形は色々ありますが、税務申告書などを除けば出てくる数字は基本的には同じ で、書類の名前が違うだけですよ。
三木先生:載っている情報の量、細かさが違うだけで、基本的にはどれを見ても同じものです。
MAO:そうなんですね。では、それらの決算書の中でビジネスマンとして会社分析をする際に見ておくべきものは何ですか?
花房先生:基本は、貸借対照表(BS)と損益計算書(PL)ですね。最近はキャッシュフロー計算書があったり、BSとPLに株主資本等変動計算書も加えて財務三表と言ったりもしますけども、基本は昔からあるBSとPLで十分です。
三木先生:有価証券報告書などの決算書は数字が細かいので、いきなりそういうものを見るよりも、まずは分析したい企業のウェブサイトを見て決算説明会の資料を見るのも有効です。
花房先生:決算説明資料はだいたい決算短信を発表すると同時にリリースしています。それを見ると売上が伸びた理由など決算書の数字に対する説明がついているので、参考になりますね。
三木先生:ただし気をつけないといけないのが、それらの資料というのは、その企業なりの見方をしているということ。企業が主張したいことやいい点を前面に押し出しているので少し偏った見方になってしまう危険性があります。一方、決算書というのは様式やルールが決まっていて中立の立場で作られています。企業の主張を読み取った上で、決算書という数字で裏付ける。私たちもいつも二刀流のやり方で会社を見ています。
MAO:BSやPLの中で重要な数字は何になるんでしょうか?
花房先生:一番大事な指標は売上と利益です。企業というのは営利目的なので、最終的には稼がないといけませんよね。売上は会社が稼ぐ規模感、どれぐらいの収益力があるかを見ます。そこから、人件費や設備投資などの費用を差し引いて残るのが利益です。
MAO:たしか、利益にも色んな利益がありますよね?
花房先生:そうですね。単純に売上から仕入れの原価を差し引いたものが売上総利益、いわゆる粗利ですね。そこからさらに固定費を引いたものが営業利益。これが企業の稼ぐ力です。そこから配当金の収入や利息の支払いなど財務的な収益・費用を引くと、経常利益が出ます。「経常(けいつね)」ってやつですね。そして最後に税金を支払って残るのが純利益です。
MAO:決算書の種類と同じくらい、利益にも色々あるんですね。いっぱいあるとどうしても混乱しがちなのですが、会社分析をする上で特に見ておくべき利益はどれですか?
三木先生:この中で特に一つに絞るとしたら、営業利益ですかね。会社の主たる業務でどのくらい稼いでいるかが分かる指標ですので。
MAO:一つならMAOでもおぼえられそう! どのくらいの期間を見ておけばいいんでしょうか?
三木先生:だいたい、3~5年ですかね。長ければいいというものでもないです。10年も経つと会社の中身も変わってしまいますから。
MAO:それならそんなに気の遠くなる話じゃないですね。早速今度やってみます!
三木先生:どういう立場で会社を分析するかによっても注目するポイントは変わってきます。例えば、就活生なら一人当たりの売上や一人当たりの利益。自分が入社したら、どれくらいの売上を上げて利益を出さないといけないのかということが分かります。株を買いたい投資家であれば、利益の金額そのものというよりも利益率や株主資本利益率。銀行などお金を貸す立場であれば、貸借対照表で自己資本比率を見て借金が多すぎないかチェックするなど、目のつけどころが変わってきますね。
MAO:業種によっても変わるんでしょうか? 主な業種で決算書に表れる特徴があれば教えてください。
花房先生:そうですね。自動車メーカーやプラントなど昔から続く重厚長大産業は、まず最初に大きな設備投資をします。最初からお金があるわけではないので、お金を借りて工場を建ててモノを作る。そのため、固定資産や借入が多くなります。
一方で、現代のビジネスの主流であるITやサービス業などは、基本的にはシステムと人が揃えば成り立つもの。大きな工場などはいらないので、資産の中で固定化しているものが比較的少ないんです。そのかわり人件費が多くなりますが、利益率が高いという特徴があります。
三木先生:それと、不況の時に耐える力が強い会社か、好況の時にどれくらい成長する伸びしろがあるのかという視点もありますね。これは固定費、変動費という部分に関わってきます。例えば、売上100に対して仕入れ値が30くらいで商売できている会社で最終利益が少ないのであれば、固定費が大きいことが分かります。固定費は売上に左右されずに必ずかかるものなので、そういう会社は不況で売上がガタッと落ちるとあっという間に赤字になってしまう傾向にありますね。逆に商社のように粗利率は低いが、コストのほとんどが材料費や仕入れなど売上に比例する変動費で占められているので、売上が落ちてもそこまで大赤字になることはありません。
花房先生:最近は人材派遣も変動比率(変動費÷売上高)が高いですね。ある人材派遣会社は売上の7割は派遣の人たちの給与。売上が増えればその分人件費が増えますが、変動費なので売上が減っても損をするわけではないんです。
三木先生:巨大な工場を持つ会社と人材紹介ビジネスの会社を比べてみると分かりやすいと思います。
花房先生:比較することは重要。経営者や会計のプロでもない限り、決算書を見て会社の絶対評価をするのは難しいので、まずは同じ業種や業界の他社と比較してみて、その違いがどこから来ているのかを分析してみるといいでしょう。
MAO:日本の会社と海外の会社を比較しようという場合は、何か決算書に違いはあるのですか?
三木先生:国によってというよりも、いくつかある会計基準によって、粗利や経常利益などの段階利益を出すか出さないかというのが少しずつ違います。ただ、最後の合計を出す部分は同じで、小計を何段階設けるのかの違い。基本的な会計の仕組みは変わりません。売上、営業利益、純利益の3つはほぼ出ています。
花房先生:数字って共通指標。国や言語が違っても、決算書を見れば日本の会社と海外の会社を比較することもできます。そういう意味では数字は英語以上に共通言語ですよね。
三木先生:過去に「ビジネスモデル分析術2」という著書で、 米国の大手携帯電話会社AT&Tとソフトバンクを比べたことがあります。ちょうどソフトバンクが米国の携帯事業会社スプリントを買収した直後くらいです。
【AT&T】貸借対照表(2012年12月31日)より一部抜粋
| (資産の部) |
(単位:億円) |
| I. 流動資産(8.3%) | 19,659 |
| 現金預金 | 4,215 |
| 売掛金 | 10,958 |
| その他 | 4,486 |
| II.固定資産(91.7%) | 216,111 |
| 有形固定資産 | 95,036 |
| のれん | 60,409 |
| ライセンス | 45,326 |
| その他 | 15,339 |
| 資産合計 | 235,770 |
【ソフトバンク】貸借対照表(2013年3月31日)より一部抜粋
| (資産の部) | (単位:億円) |
| I.流動資産(39.7%) | 25,912 |
| 現金預金 | 13,691 |
| 売上債権 | 6,622 |
| その他 | 5,599 |
| II.固定資産(60.2%) | 39,248 |
| 有形固定資産 | 16,576 |
| のれん | 7,344 |
| ソフトウェア | 3,837 |
| 投資有価証券 | 8,706 |
| その他 | 2,785 |
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III.繰延資産(0.1%) |
89 |
| 資産合計 | 65,249 |
出典:望月実、花房幸範、三木孝則「ビジネスモデル分析術2」
両社の貸借対照表の資産部分を比べてみると、AT&Tは現金や売掛金などの流動資産が約10%で固定資産が約90%、対するソフトバンクは流動資産約40%に固定資産が約60%。アンテナをたくさん立てる携帯電話会社は設備会社なので固定資産が大きくなるものですが、アメリカの方がその傾向が強いことがうかがえます。MAOちゃん、これはなぜだと思いますか?
MAO:えーっと、アメリカの方が日本よりも国土が広いから? アンテナをたくさん立てないといけない……とか?
三木先生:そうです。国の広さ、周波数を買うための支出が大きいことがアメリカの特徴なんです。このことから、ソフトバンクがアメリカでAT&Tの背中を追うためには、たくさんの投資が必要になることが分かり、ソフトバンクはこれから多くの資金を調達しなければならないということが何となく見えてきますよね。
MAO:おおー。会社分析っぽい! 私もそんなコメントがさらりとできるようになりたいです。こういう会社のストーリーを考えたり、仮説を立てたりする際のポイントって何かあるんでしょうか?
三木先生:私たちも会社分析にはけっこう時間を使います。会社の姿って、決算書の数字だけを見るのではなく、会社のウェブサイトを見たり、経営者が言っていることを聞いたりして、ストーリーとして全体が合ってはじめて見えてくるもの。そこで、経営者の発言と決算書の数字の流れがかみ合っていなかったら、きちんとジャッジしていかないといけません。そこから会社の本気度や本当にやりたいことが見えてくるのだと思います。
MAO:ありがとうございました! 次回は就活や自分が働いている会社の財務状況を知るために役立つ決算書の見方を聞いちゃいます。お楽しみに~!
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花房先生と三木先生も書かれた本 「ビジネスモデル分析術」 「ビジネスモデル分析術2」では、 具体的な企業を挙げて、会社分析をしています。 日本と海外の企業も比較しているので、勉強になりますよ! |
まとめ:M&A Online編集部
花房 幸範(はなふさ・ゆきのり) |
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アカウンティングワークス株式会社 代表取締役株式会社ビズサプリ 公認会計士 学歴:1998年 中央大学商学部会計学科卒業 職歴:1997年10月より、中央青山監査法人にて5年間、現場責任者として上場会社・外資系企業の会計監査の他、IPO支援・財務デューデリジェンス等に従事。 2002年10月より5年間、日本アジアホールディングズ(株)(現日本アジアグループ(株))の財務経理部長として資金調達、決算業務を主軸に、企業買収とその後の事業再生に携わる。 2007年から2年間、中小のコンサルティング会社にて主に製造業、金融業、小売業等の連結決算支援、内部統制構築・整備支援、業務改善支援等に従事し、2009年10月より独立。アカウンティングワークス㈱の代表取締役として、現在に至る。決算開示支援、業務改善、M&A支援等の会計コンサルティングを幅広く行うとともに、セミナー・執筆等も実施。特にM&A、連結会計、ワークシートを活用した業務効率化の導入支援に強みを持つ。 主な著書: •有価証券報告書を使った決算書速読術(阪急コミュニケーションズ) •最小限の数字でビジネスを見抜く 決算書分析術(阪急コミュニケーションズ)(阪急コミュニケーションズ) |
三木 孝則(みき・たかのり) |
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株式会社ビズサプリ
CEO 公認会計士
学歴:1998年 東京大学経済学部経営学科卒業 職歴:1997年10月より青山監査法人に5年勤務。多様な業種(製造業、サービス業、ホテル業、保険業等)における財務諸表監査(日本基準、米国基準、IAS(現IFRS)等)を経験する。その他、システム監査やデューデリジェンスにも従事。 その後、2003年1月から監査法人トーマツに転職し、エンタープライズリスクサービス部にて7年9カ月勤務。国内外の企業の内部監査や内部統制の導入コンサルティングやコソーシング、リスクマネジメント、システムに関わる業務改善等に主任として従事。また、一連のテーマに関する社内外のセミナー講師や機関紙の執筆等に関わる。専門家としてのコンサルテーションのみならず、複雑な環境下でのプロジェクトマネジメントや改善策の導入支援に強みを持つ。 2010年10月より独立し、株式会社ビズサプリを設立。IFRS導入支援やIPO支援等のコンサルティングを展開しつつ、現在に至る。 資格:公認会計士、公認内部監査人(CIA)、公認情報システム監査人(CISA)、TOEIC900点 主な著書: •統制環境読本(翔泳社) •I FRS決 算書分析術(阪急コミュニケーションズ) •ビジネスモデル分析術(阪急コミュニケーションズ) |