M&A税務(8)自己株買いで株式取得する際の注意点とは

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中小企業の場合、オーナー一族で50%超の大半の株式を保有し、役員や従業員等の少数株主が残りの株式を保有しているケースが多くあります。

この少数株主からオーナー個人が株式を取りまとめる場合には、財産評価基本通達による原則的評価額(M&A前であればM&A価格)が適正価額とされ、譲渡企業株式の株価次第では、オーナー側で買取資金の準備が難しいケースも多くあります。

今回は、「自己株買いによる取りまとめの税務上の取扱い」について検討します。

税務上の取扱いリスク

同族株主のいる譲渡企業が少数株主から自己株買いにより譲渡企業株式を取得する場合には、同族株主以外からの買取りという位置付けとなり、配当還元価額を下限に、少数株主と譲渡企業との交渉による決定価格で買取りを行います。

実務的には、少数株主の取得価額が配当還元価額よりも大きい場合には、取得価額を下限に交渉する形になります。ただし、このような買取りを行う場合には、次のような税務リスクの検討が必要です。

1.譲渡企業の場合

自己株買いは資本等取引とされるため、譲渡企業に課税が生じるという条文根拠は見当たりません。

2.譲渡株主(少数株主)の場合

個人から法人へ譲渡するため、みなし譲渡課税(時価の2分の1未満での売買の場合、時価で譲渡したとみなして譲渡所得課税リスクの検討が必要です。

しかし、次の[参考通達等]によれば、配当還元価額を下限に交渉により決まった価格であれば、この価格を時価と説明できるといえます。

[参考通達等]
① 租税特別措置法通達37の10・37の11共-22に、法人が自己の株式を個人から取得する場合、「当該自己株式等の時価は、所基通59-6により算定するものとする。」とあります。
② 『十訂版法人税基本通達逐条解説』(髙橋正朗編著、税務研究会刊)の中で、「法人税基本通達9-1-14」の解説にも、「例えば、議決権割合が5%未満の小株主の有する非上場株式については、財産評価基本通達上いわゆる「配当還元方式」による評価が認められることがあるが、法人税においてもむろんこれによってよいことになる。」とあり、配当還元価額を時価として受け入れる考え方が示されています。

3.既存株主(自己株買いに応じないオーナー一族株主)の場合

オーナー一族の保有する株式価値が自動的に増額される結果となることが多く、「相続税法基本通達9-2(4)」が適用され、譲渡する少数株主からオーナー一族(既存株主)への贈与税課税リスクの検討が必要です。

しかし、過去において、株式を譲渡する少数株主と既存株主との間に親族関係がない事例で、前記[参考通達等]と下記[参考通達等]を根拠に、数件ほどこの方法で取りまとめた事例がありましたが、上記1(譲渡企業)2(譲渡株主)の課税とともに、この課税も生じませんでした。

また、『相続税法基本通達逐条解説(平成27年版)』(野原誠編、大蔵財務協会刊)以降の『相続税法基本通達逐条解説(大蔵財務協会刊)』では、 下記[参考通達等]①・②の文言が削除されているものの、この文言削除後においても同じ状況(株式を譲渡する少数株主と既存株主との間に親族関係がない状況)下で自己株買いにより取りまとめを行った場合に、この贈与税課税が適用された事例はないように思います。

[参考通達等]
『相続税法基本通達逐条解説(平成22年版)』(加藤千博編、大蔵財務協会刊)の「相続税法基本通達9-2」
①「その利益を受けさせることについての積極的な行為を判定することが必要であることから同族会社の場合に限定しているものであろう。」とあり、適用には、「積極性」を判定する必要があるとの考え方が示されています。
②「同族会社の場合に限ってこのみなす贈与の取扱いをすることとしているのは、 同族会社の行為計算を否認することができるものとする法(筆者注:「相法」)64 条の規定を前提としているものであるということができる。」とあり、適用には、主に同族間の恣意的な経済的価値の移転を前提としている考え方が示されています。

実行の際には、税務署に個別相談するのも良いと思います。慎重なご対応をおすすめします。

以上、「中小企業M&A株式譲渡の税務」(きんざい)より一部抜粋

文:村木 良平(税理士)