クラウドファンディングのMakuakeが方針転換で収益性急悪化

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サイバーエージェント<4751>の子会社で、クラウドファンディング事業を行うマクアケ<4479>の業績が冴えません。

2022年9月9日に2022年9月期の業績予想の下方修正を発表。売上高を従来予想の10.6%減となる42億円、6,500万円としていた純利益を3億5,000万円の純損失(前年同期は2億4,600万円の純利益)に修正。マクアケは上場してから一度も赤字を出していませんでしたが、突然の赤字転落となりました。

方針転換に伴う人員強化をしており、人件費が膨らんでいます。それが広告費の抑制へと直結し、結果として流通取引総額が縮小するという悪循環を招いている可能性があります。

この記事では以下の情報が得られます。

・クラウドファンディングのビジネスモデルと市況
・マクアケが赤字に陥っている理由

健全化を図ったことが流通取引総額減少を招く

マクアケは購入型クラウドファンディングを主軸として事業を展開しています。ビジネスモデルは比較的単純で、クラウドファンディングプラットフォームに発案者の企画内容を掲載して、支援者を募集。集まった支援金の20%を手数料として徴収するモデルです。

そのため、購入型クラウドファンディングは、流通取引総額をできるだけ大きくすることが事業拡大の最大のポイントです。しかし、マクアケの流通取引総額は2021年9月期3Qを境に減少に転じました。

■マクアケ流通取引総額の推移

※2022年9月期第3四半期決算説明資料より

マクアケの流通取引総額が減少した要因は2つあると考えられます。1つはコロナ禍をきっかけとして飲食店、宿泊業などを中心に購入型クラウドファンディングを駆け込み寺として利用しましたが、それが一服したこと。もう1つはマクアケが審査基準を厳しくする方針転換を行ったことです。

矢野経済研究所(東京都中野区)の「国内クラウドファンディング市場の調査」によると、2021年度の国内クラウドファンディングの新規プロジェクト支援額は1,642億2,100万円。前年度比11.1%もの減少となりました。2020年度はコロナによって支援額は前年度比17.8%増加。その反動減に見舞われました。

しかし、マクアケの流通取引総額減少の要因はそれだけではありません。

2022年3月1日に基本方針を発表。その中で、「海外商品において日本市場独占契約を締結せず、日本市場での流通を実施すること」や、「商品を製造委託する場合において、実行者が創出をした「アタラシイ」が認められない商品でプロジェクトを実施すること」を禁止しました。

この背景には、中国で発売されていた製品が、新たに開発されたように装って資金調達しているケースが目立っていたことがあります。プロジェクト説明で新規で開発した商品と書いてあるにも関わらず、越境ECサイトなどで同様の商品が販売されているといったSNS上の口コミを後を絶たなくなりました。

その対策としてマクアケは、日本市場独占契約を締結しない商品や、「アタラシイ」が認められないものを排除したのです。

審査基準が上がったためにプロジェクト数が制限されます。それが結果として流通取引総額の減少を招きました。痛みを伴いつつ、クラウドファンディングプラットフォームの健全化を図ったのです。

しかも、この方針転換は人件費増という別の痛みも伴いました。

マクアケは2022年9月期2Qの人件費が3億6,200万円となり、前年同期間比で70.7%も増加しています。人件費の増加についてマクアケは、「オペレーション改善を目的とした人材採用に積極的な先行投資を進めた」と説明しています。審査等にかかわる人員を強化したのです。これがマクアケ最大の赤字要因です。

しかも、この人員強化は会社の成長を左右する流通取引総額の増加への貢献度が低いという特徴があります。

※2022年9月期第2四半期決算説明資料より

流通取引総額の増加につながらない人件費増加が痛手に

下のグラフは人件費と広告費が販管費に占める割合を4半期ごとに表したものです。2022年9月期2Qから人件費が膨らみ、宣伝広告費を抑制していることがわかります。

※決算説明資料より筆者作成

マクアケの広告の費用対効果(流通取引総額÷宣伝広告費)は、2022年9月期第3四半期までの累計で18倍。2021年9月期が16倍でした。なお、コロナ前の2019年9月期は100倍を超えていました。購入型クラウドファンディングは競争が激化し、レッドオーシャン化しています。

競合のCAMPFIRE(東京都渋谷区)は2021年3月期に20億1,100万円の純損失を計上しました。2020年3月期は6億4,400万円の純損失でした。赤字額が大幅に拡大しています。CAMPFIREは融資型クラウドファンディングに新規参入し、事業の幅を広げました。そのため、人件費や広告宣伝費が会社全体の収益を圧迫したものと予想できます。

CAMPFIREは融資型の「CAMPFIRE Owners」を運営する子会社CAMPFIRE SOCIAL CAPITAL(東京都渋谷区)、およびCAMPFIRE SOCIAL BANK(東京都渋谷区)の株式を、2022年8月にSOCIAL COMMON CAPITAL(東京都渋谷区)に譲渡。CAMPFIREは貸金業の登録を終了し、購入型クラウドファンディングに経営資源を集中します。

競合の様子を見ても、マクアケが広告の費用対効果をかつてのように引き上げるのは難しいでしょう。

人件費が上がった2022年9月期2Qから四半期単体での赤字が出ています。広告費を絞り込めば流通取引総額が減少して人件費が重荷となり、赤字が膨らむ可能性があります。

マクアケは2020年9月期4Qに広告費を5億2,500万円(2022年9月期3Qの1.9倍)かけましたが、このときの費用対効果は10倍。広告費を単純に引き上げたからといって、流通取引総額がその分増えるわけではありません。

そうなると、マクアケは広告費や人件費、その他諸経費の微妙な匙加減で赤字体質を解消するほかないことになります。プラットフォームの健全化を進めたマクアケが、極めて難しい局面に立たされました。

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