2024年第1コーナーも活況続くM&A、ルネサス・積水ハウス・三浦工業が米国で最大規模の買収

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ルネサスエレクトロニクスの武蔵事業所(東京都小平市)

2024年第1四半期(1~3月)のM&A件数(適時開示ベース)は315件と前年を40件、率にして14.5%上回るハイペースで推移した。国内、海外案件がいずれも増勢を保ち、2年連続の年間1000件の大台達成に向けて好発進した形だ。

一方、取引金額は前年比0.7%減の2兆5969億円とほぼ横ばい。金額トップはルネサスエレクトロニクスが8900億円を投じて米ソフトウエア企業を買収する案件で、これを含めて4件あった1000億円超の大型M&Aはいずれも米国企業が対象だった。

8四半期連続で前年を上回る

上場企業に義務付けられている適時開示情報のうち経営権の異動を伴うM&A(グループ内再編は除く)について、M&A Onlineが集計した。

月別のM&A件数をみると、1月99件(前年93件)、2月98件(同77件)、3月118件(同105件)。3月まで6カ月連続で前年を上回る。また、四半期別では2022年第2四半期(4~6月)以来、8四半期連続で前年比プラスとなり、日本企業が事業ポートフォリオの最適化に向けてM&Aにアクセルを踏み込んでいる様子がうかがえる。

1~3月の総件数315件の内訳は日本企業同士の国内案件255件(前年221件)、国境をまたぐ海外案件60件(同54件)。海外案件では3分の1にあたる22件が現地子会社などの売却で、海外事業を整理する動きが件数を押し上げた。

2023年のM&A件数は119件増の1068件と、2007年(1169件)以来16年ぶりに年間1000件の大台に乗せた。今年もこの先、余程の失速がない限り、1000件突破が有力視される。

取引金額は1月1兆128億円、2月1兆777億円、3月5063億円。100億円超の案件は21件を数え、このうち4件が1000億円を上回った。前年の第1四半期は東芝の非公開化を目的とする2兆円規模のTOB(株式公開買い付け)が突出したが、今年は着実に金額が積み上がった。

適時開示ベース ※2024年は1~3月

ルネサス、ソフトウエアで初の大型買収

ルネサスエレクトロニクスは、プリント基板設計用ソフトウエアを手がける米国アルティウムの全株式を8900億円で取得する。ルネサスのM&Aとして過去最大で、今年下期の買収完了を見込む。

ルネサスはこれまで欧米の半導体メーカーの買収を重ねてきた。2021年にアナログ半導体の英国ダイアログ・セミコンダクターを約6200億円、2019年には通信用半導体の米国インテグレーテッド・デバイス・テクノロジーを約7300億円で傘下に収めたが、今回のようなソフト分野での大型買収は初めて。

アルティウムは半導体を取り付けて配線するプリント基板を設計する最先端ソフトをクラウド上で提供する世界的大手。顧客へのサポート体制を拡充し、競合する半導体メーカーとの差別化を目指す。

積水ハウスも過去最大の買収を決めた。全米11位の戸建住宅メーカー、MDCホールディングスを約7300億円で子会社化する。MDCはコロラド州を本拠とし、16州で年間約9700戸を供給する。

積水ハウス、米国市場で5位に浮上へ

積水ハウスは2017年に米国の戸建住宅市場に進出し、年間供給戸数は約5500戸。これにMDCの1万戸近くが加わり、年間供給数が1万5000戸余りに膨らむ結果、積水ハウスはグループ全体で全米5位に浮上する見通しだ。

国内住宅市場が縮小する中、中長期的な成長の柱に位置付けるのが米国、オーストラリアを中心とする海外市場の開拓。2026年1月期までに海外で1万戸供給(米国で9000戸)を目標としてきたが、前倒しで達成する運びとなった。

セブン&アイ・ホールディングスは傘下の米国「セブン・イレブン」を通じて、テキサス州に本拠を置くスノコからコンビニ・ガソリンスタンドの一部、204店舗を約1370億円取得すると発表。スノコから2018年に約3600億円でガソリンスタンド併設型コンビニ1030店舗を手に入れており、追加取得となる。

1000億円超はもう1件あり、舞台はやはり米国。三浦工業が同業のボイラメーカー大手、米国クリーバーブルックスを買収する。三浦工業として過去最大のM&Aで、米国で省エネ・環境保全関連の事業拡大を加速する。

「100億円超」21件中、9件がTOB

TOB案件は金額100億円超の全21件中、9件を占め、しかも5件がMBO(経営陣による買収)を目的とするものだった。MBOは非公開化によって株式市場から退場することを意味する。

その1つがキャンプ用品大手のスノーピーク。山井太会長兼社長が米投資ファンドのベインキャピタルと組んでTOBを開始した。買付金額は最大340億円。

主力のアウトドア市場ではコロナ禍の収束に伴う需要の一巡に加え、海外ローカルブランドや異業種の参入で競争が激化しており、中長期的な視点から事業構造の改革を進めるためには非公開化が望ましいとの判断だ。

ローランドDGをめぐり争奪戦

TOB戦線では対象企業の同意を得ないまま、買収を「予告」するケースが3月中、2件立て続けに起きた。

業務用プリンター大手のローランド ディー.ジー.(DG)に対して対抗TOBの予定を発表したのはブラザー工業。ローランドDGをめぐっては約620億円規模のMBOが進行(買付期間は4月12日まで)しているが、新たな買収者として名乗りを上げたのだ。

ブラザーは5月中旬をめどにTOBを始める予定。ローランドDGはブラザーのTOBに賛成か反対かの意見表明をまだ行っていない。

陸運のAZ‐COM丸和ホールディングスは同業のC&Fロジホールディングスに5月初旬をめどにTOBを始めると発表。買付代金は最大651億円に上る。ただ、こちらも買収相手の同意を得ていない段階での公表となった。

両社をめぐっては、AZ‐COM丸和がかねて経営統合を提案していたが、C&Fロジが難色を示し、協議が中断していた経緯がある。

「同意なき買収」が流行に?

昨年末から年明けにかけて、福利厚生代行のベネフィット・ワンをめぐる争奪戦が繰り広げられたのは記憶に新しい。先にTOBを実施中のエムスリーに対し、第一生命ホールディングスが対抗TOBの予定を発表した。最終的にベネワンが第一生命の提案に賛同し、第一生命がTOB(3月に成立)に勝利した。

経産省は昨年8月に公表した「企業買収における行動指針」の中で、真摯な買収提案について合理的な理由なく阻んではならないことを明示した。これと軌を一にして、同意を得ないまま買収を提案する動きが広がりつつある。

◎2024年1~3月:M&A金額上位(100億円超、HDはホールディングスの略)

1 ルネサスエレクトロニクス プリント基板設計ソフトウエアの米国アルティウムを子会社化 8900億円
2 積水ハウス 戸建住宅メーカーの米国MDCホールディングスを子会社化 7320億円
3 セブン&アイ・HD 米コンビニ大手のスノコから追加で事業を取得 1374億円
4 三浦工業 米ボイラメーカー、クリーバーブルックスを子会社化 1161億円
5 オリックス 個人向けローン事業のオリックス・クレジット(東京都港区)をNTTドコモに譲渡 792億円
6 東京センチュリー NTTデータグループ傘下で米国でデータセンター事業展開のNTT Global Data Centersを子会社化 693億円
7 AZ‐COM丸和HD C&FロジホールディングスをTOBで子会社化へ 651億円
8 ブラザー工業 ローランド ディー.ジー.を対抗TOBで子会社化へ 640億円
9 ローランド ディー.ジー. 米投資ファンドのタイヨウ・パシフィック・パートナーズと組んでMBOで株式を非公開化 620億円
10 カゴメ トマト加工品大手の米国インゴマー・パッキングを子会社化 360億円
11 スノーピーク 米投資ファンドのベインキャピタルと組んでMBOで株式を非公開化 340億円
12 三菱商事 ベトナム不動産開発事業の投資子会社ディーアールアイ・オーシャンパーク(東京都千代田区)を大成建設などに譲渡 284億円
13 オリエントコーポレーション 個品割賦事業のイオンプロダクトファイナンス(東京都千代田区)を子会社化 250億円
14 ペイロール 米投資ファンドのTAアソシエイツと組んでMBOで株式を非公開化 240億円
15 ウェルビー 国内投資ファンドのポラリス・キャピタル・グループと組んでMBOで株式を非公開化 240億円
16 サワイグループHD 後発医薬品メーカーの米国子会社アップシャー・スミス・ラボラトリーズなどを台湾社に譲渡 227億円
17 コニカミノルタ 創薬支援の米国Invicroを現地社に譲渡 173億円
18 焼津水産化学工業 いなば食品(静岡市)のTOBを受け入れて株式を非公開化 154億円
19 メドレー グッピーズをTOBなどで子会社化 118億円
20 東洋製罐グループHD ホームケア製品など受託充填のマレーシア「プレミア・センター・グループ」を子会社化 110億円
21 アオキスーパー MBOで株式を非公開化 107億円

文:M&A Online