【6月M&Aサマリー】74件、4カ月連続で前年比プラス|JSRが9000億円規模の買収受け入れ

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9000億円規模の買収提案を受け入れたJSRの本社が入るビル(東京・東新橋)

2023年6月のM&A件数(適時開示ベース)は前年より1件多い74件だった。前年比プラスは4カ月連続。国内、海外案件がともに堅調に推移した。上期(1~6月)の累計は501件と前年を43件上回り、年間1000件の大台をうかがう勢いだ。

6月の取引金額(公表分を集計)は1兆1449億円。月間1兆円を超えるのは3月、5月に次ぐ今年3度目。半導体材料大手のJSRが官民ファンドの産業革新投資機構(JIC)による買収提案を受け入れる案件が9000億円規模に上り、金額を押し上げた。

上期全体で5兆円を突破

上場企業に義務付けられている適時開示情報のうち、経営権の異動を伴うM&A(グループ内再編は除く)について、M&A Onlineが集計した。

6月の総件数74件の内訳は買収56件、売却18件(買収側と売却側の双方が発表したケースは買収側でカウント)。このうち国境をまたぐ海外案件は12件で、日本企業が買い手のアウトバウンド取引10件、外国企業が買い手のインバウンド取引2件だった。

海外案件の1~6 月累計は94件(アウトバウンド62件、インバウンド32件)と、前年72件(アウトバウンド38件、インバウンド34 件)を22件上回り、コロナ禍で落ち込んだ海外案件の持ち直し傾向が持続している。内容的にも前年はアウトバウンドとインバウントがほぼ拮抗していたのに対し、日本企業が買い手に回るアウトバウンドの復調ぶりが顕著だ。

上期全体の取引金額は5兆2250億円。6月末、JSRがJICによる買収提案を受け入れて株式を非公開化することを発表し、一気に5兆円を突破した。JICはTOB(株式公開買い付け)を行い、最大9039億円を投じてJSRの全株式取得を目指す。

上期時点で5兆円を超えるのは2018年(9兆6419億円)、2021年(5兆3834億円)に次ぐ。また、前年は10月末に5兆円に届いており、今年は4カ月ペースが速い。

JSRは半導体の基板(ウエハー)上に微細回路を形成する際に欠かせないフォトレジストと呼ばれる感光樹脂の世界的メーカー。成長資金を確保し、国際競争力を高めるとともに、業界再編の加速につなげる狙い。同社へのTOBは12月下旬に始まる予定。

JSRの旧社名は日本合成ゴム。1957年に合成ゴムの国産化を目的に官民の出資で発足した国策会社をルーツとし、1969年に純民間会社に移行した。半導体材料には1970年代に進出。2022年には祖業の合成ゴム事業をENEOSに売却し、半導体材料事業やライフサイエンス事業に注力する姿勢を鮮明している。

ゼンショー、海外で持ち帰りすし大手を買収

外食大手のゼンショーホールディングスは、北米と英国で持ち帰りすし(テイクアウト)店を約3000店舗展開するスノーフォックス・トップコ(英領ガーンジー。売上高522億円)を約874億円で買収することを決めた。ゼンショーとして過去最大のM&A。2018年に、持ち帰りすし店を北米を中心に運営する米国アドバンスド・フレッシュ・コンセプツを約288億円で傘下に収めたが、今回、これを大きく上回る。

ゼンショーは牛丼店「すき家」などで知られるが、国内市場の成熟化に伴い、海外展開にアクセルを踏み込んでいる。なかでも、持ち帰りすしをめぐっては今年5月にドイツのスシ・サークル・ガストロノミーを買収したばかり。スシ・サークスは持ち帰りすし約220店舗のほか、回転ずし7店舗を持つ。

三井物産は米化学大手セラニーズ傘下で、機能性食品素材を製造するオランダのニュートリノバ・ネザーランドを買収する。株式の70%を約660億円で取得する。ニュートリノバは食品・飲料などに使われるアセスルファムカリウム(高甘味度甘味料)などの世界的大手で、直近売上高は約240億円。主力製品のアセスルファムカリウムは砂糖の200倍の甘味を持つため、カロリーや糖質を減らした製品設計に役立つという。

外食・フードサービスが急伸

外食・フードサービスを対象とするM&Aが急伸した。6月はゼンショーの大型海外買収をはじめ大小6件を数え、これを含めて上期累計は14件と前年の年間17件に早くも迫った。

ラーメン専門店「らあめん花月嵐」を展開するグロービート(東京都杉並区)を傘下に収めたのは人材派遣・紹介中堅のフルキャストホールディングス。80億1000万円で全株式を取得した。フルキャストにとっては畑違いの新業態への進出となる。「らあめん花月嵐」の国内店舗はフランチャイズを含めて199店舗(4月末)で、中国上海市、タイ、台湾にも店舗を持つ。

フジオフードグループ本社は海鮮丼などの丼専門店「ザ・どん」を13店舗運営する子会社のどん(大阪市)の全株式を譲渡した。譲渡先は非公表。グループにおける中長期な相乗効果を検討した結果という。フジオグループは「まいどおおきに食堂」「手作り居酒屋かっぽうぎ」などを10数ブランドの飲食店を手がけている。

また、ジェイグループホールディングスは和食店を経営するスペイン子会社「KAKEHASHI」(カタルーニャ州)を経営陣に譲渡した。2019年にKAKEHASHIを子会社化したが、コロナ禍の影響で業績が低迷していた。ジェイグループは東海地区を地盤とし、居酒屋「芋蔵」などを展開する。

ほかに、串カツ田中ホールディングスの譲渡案件、トップカルチャーの買収案件があった。

M&A専門業者の買収も

6月はM&A専門業者をターゲットとした案件も散見された。ネットメディア運営などのエキサイトホールディングスは、IT業界に特化したM&Aマッチングサービスを手がけるM&A BASE(東京都中央区)の全株式を取得し、子会社化。M&Aアドバイザリー(助言)・仲介に参入する。

M&A仲介のスピカコンサルティング(東京都港区)を買収することになったのは不動産投資サイトを運営するGA technologies。今年3月に参入したM&A仲介事業の基盤強化を狙いとする。

◎6月M&A:金額上位(10億円以上、HDはホールディングスの略)

1 JSR 産業革新投資機構のTOBを受け入れ、株式を非公開化 9039億円
2 ゼンショーHD 北米・英国で持ち帰りすし店展開のスノーフォックス・トップコを子会社化 874億円
3 三井物産 米化学品大手セラニーズ傘下で機能性食品素材製造のオランダ「ニュートリノバ」を子会社化 660億円
4 TBSホールディングス 個別指導塾「スクールIE」など運営のやる気スイッチグループホールディングスを子会社化 287億円
5 塩野義製薬 感染症治療薬開発の米国キューペックス・バイオファーマを子会社化 143億円
6 レンゴー 包装フィルム子会社のサン・トックスと三井化学傘下の三井化学東セロを経営統合 108億円
7 フルキャストHD ラーメン店「らあめん花月嵐」運営のグロービート(東京都杉並区)を子会社化 80.1億円
8 ブリヂストン トラック・バス用ラジアルタイヤ生産の中国子会社を現地社に譲渡 56.3億円
9 エクサウィザーズ 営業支援・Webサービス開発のスタジアム(東京都港区)を子会社化 27億円
10 CIJ ソフト開発の日伸ソフトウェア(東京都港区)を子会社化 23.4億円
11 PCIホールディングス 通信・インターネット事業子会社のりーふねっと(大阪市)を経営陣に譲渡 19.4億円
12 ベクトル 転職メディア運営のビジコネット(東京都港区)を子会社化 17.9億円
13 ロングライフHD MBO(経営陣による買収)で株式を非公開化 15.1億円
14 レスターHD 半導体・電子部品商社の台湾WPGの日本法人「AITジャパン」(東京都品川区)を子会社化 13.7億円
15 EMシステムズ JMDC傘下で薬局向け業務システム開発のユニケソフトウェアリサーチ(東京都港区)を子会社化 13.4億円
16 レカム マレーシアのエレクトロニクス専門商社SLWEを子会社化 12.1億円
17 リネットジャパングループ 貧困層向け小口金融のカンボジア子会社を五常・アンド・カンパニー(東京都渋谷区)に譲渡 10.6億円

文:M&A Online