【12月M&Aサマリー】10件増の84件、金額は年間最高|武田薬品が5000億円超で米社買収

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武田薬品工業の本社(東京・日本橋本町)

2022年12月のM&A件数(適時開示ベース)は84件と前年同月を10件上回り、5カ月連続で増加した。国内案件が増勢を維持し、海外案件も年間2番目の高水準で推移した。1~12月累計は前年比72件、率にして8.2%増の949件で、前年(877件)に記録したリーマンショック(2008年)後の最多を大幅更新した。

一方、12月の取引金額(公表分を集計)は9943億円と1兆円に迫り、月別で年間最高だった。武田薬品工業が約5485億円を投じて米国の創薬企業を買収する案件が金額を押し上げた。ただ、年間累計は前年比24%減の6兆5612億円。2015年(6兆1831億円)以来の低水準で、件数が積み上がった割に金額は伸び悩んだ。

武田、シャイアー以来の大型買収

上場企業に義務づけられた適時開示情報のうち経営権の異動を伴うM&A(グループ内再編は除く)について、M&A Online編集部が集計した。

12月のM&A84件の内訳は買収65件、売却19件(買収側、売却側の双方が発表したケースは買収側でカウント)。84件のうち国境をまたぐ海外案件は18件で、年間を通じて8月(21件)に次ぐ件数を稼いだ。

12月の金額首位は武田薬品。米国の創薬企業ニンバス・セラピューティクスの子会社「ラクシュミ」を40億ドル(約5485億円)で買収する案件は2022年全体でもトップに立つ。ラクシュミは皮膚病の一種の乾癬(かんせん)や炎症性腸疾患などの免疫疾患に有効性が期待される新薬候補を持つ。2023年3月末までに買収完了を見込む。武田は2019年1月に6兆2000億円でアイルランド製薬大手のシャイアーを買収したが、これ以来の大型M&Aとなる。

武田はシャイアー買収で膨らんだ有利子負債を圧縮するため、ここ数年はビタミン剤「アリナミン」や風邪薬「ベンザ」で知られる大衆薬事業を2000億円超で売却するなど、非中核事業の切り離しに専念していた経緯がある。

日本製鉄、1300億円超で日鉄物産を子会社化

日本製鉄は系列専門商社の日鉄物産をTOB(株式公開買い付け)で子会社化すると発表した。買付代金は最大約1366億円。日鉄は日鉄物産株の35%強(間接所有を含む)を所有する筆頭株主。TOBを通じて、第2位株主の三井物産の所有分20%を除く約45%の株式を買い付け、所有割合を80%とする。

国内需要の減少や顧客企業の現地生産拡大、中国との競争激化など鉄鋼業界を取り巻く市場環境の変化に対応し、国内外の需要家との直接の接点を増やすなど、製造から流通にいたるサプライチェーン(供給網)全体での競争力強化につなげる。2月下旬をめどにTOBを始める。

日鉄はインド、ASEAN(東南アジア諸国連合)などの需要地で一貫生産体制の構築に向けて、近年、M&Aにアクセルを踏み込んでいる。2019年12月に欧州鉄鋼最大手のアルセロール・ミタルと共同で、インド5位の鉄鋼メーカーを約7700億円で買収(日鉄は4割出資)。さらに2022年2月にタイの電炉大手を約880億円で傘下に収めた。

TKP、レンタルオフィス事業を三菱地所に売却

貸会議室最大手のティーケーピー(TKP)は大型売却を発表した。レンタルオフィス子会社の日本リージャスホールディングス(東京都新宿区)の全株式を三菱地所に2月1日に売却する。2019年5月に日本リージャスを400億円超で買収したが、新型コロナ禍が主力の貸会議室事業を直撃する中で、重荷になっていた。売却金額は企業価値381億円に財務的調整を行ったうえで確定する。

2022年の上場企業で年間最多(適時開示ベース)となる6件目のM&Aを決めたのはヨシムラ・フード・ホールディングスだ。ホタテを中心にサケ、イクラ、カニなど水産品製造加工のマルキチ(北海道網走市)の株式70%を取得し、子会社化する。取得金額は21億6800万円。

ヨシムラ・フードは中小食品会社を次々に傘下に収め、その数は20社を超える。食品業界に特化する形で後継者難や単独での成長に限界がある中小のM&Aを繰り返し、グループ全体で相互補完・相互成長する独自のビジネスモデルを作り上げている。2022年はほかに、削り節製造の林久右衛門商店(福岡市)、生ラーメン製造の丸太太兵衛小林製麺(札幌市)、栗菓子製造の小田喜商店(茨城県笠間市)などを子会社化した。

三菱電機と三菱重工業は発電機事業の統合に向けて検討に入ると発表した。2024年4月に両社で統合新会社の設立を目指すが、三菱電機が過半出資して経営の主導権を握る方向。統合するのは主に火力発電に使われるタービン発電機と関連設備の製造・販売・保守で、集約により競争力を高める。新会社の売上高は数百億円規模となる見込み。

◎2022年12月M&A:金額上位(10億円以上)

1 武田薬品工業 米創薬企業ニンバス・セラピューティクスの子会社「ラクシュミ」を買収 5485億円
2 日本製鉄 日鉄物産をTOBで子会社化 1366億円
3 ノジマ 伊藤忠商事傘下で携帯販売大手のコネクシオをTOBで子会社化 854億円
4 大和ハウス工業 ホテル運営子会社の大和リゾートを恵比寿リゾート(東京都港区)に譲渡 556億円※
5 ジーエヌアイグループ 米国の医薬企業Catalyst Biosciencesを子会社化 386億円
6 ティーケーピー レンタルオフィス子会社の日本リージャスホールディングス(東京都新宿区)を三菱地所に譲渡 381億円※
7 ENEOSホールディングス 傘下のJX金属を通じてタツタ電線をTOBで子会社化 281億円
8 イビデン プリント配線板製造の中国子会社「揖斐電電子」を現地社に譲渡 177億円
9 住友林業 戸建賃貸住宅事業の米国Southern Impression Homesを子会社化 112億円
10 三菱HCキャピタル 不動産融資のダイヤモンドアセットファイナンス(東京都千代田区)をキーストン・パートナース(東京都千代田区)に譲渡 64億円
11 AGC 建築用・産業用ガラス製造の中国子会社「艾杰旭特種玻璃」を現地社に譲渡 60億円
12 オリンパス 内視鏡検査向けクラウドAI開発の英国Odin Medicalを子会社化 55億円
13 ヨシムラ・フード・ホールディングス ホタテなど水産品製造加工のマルキチ(北海道網走市)を子会社化 21.6億円
14 トヨタ紡織 自動車用シート部品メーカーのトヨタ車体精工(愛知県高浜市)を子会社化 20億円
15 じげん 旅行サービスのティ・エス・ディ(東京都渋谷区)を子会社化 17.8億円
16 オカダアイヨン 米国TT&Eグループから解体用建機の販売・修理・リース事業を取得 17.5億円
17 ベクトル デジタルマーケティング事業のキーワードマーケティング(東京都中央区)を子会社化 11.8億円

※企業価値を表す。有利子負債などの調整を行ったうえで取引金額を確定

文:M&A Online編集部