【8月M&Aサマリー】73件、海外案件が今年最多|オリンパスが4200億円超で科学事業売却

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オリンパスの技術開発センター(東京都八王子市)

2022年8月のM&A(適時開示ベース)は73件と前年同月を8件上回った。8月として70件を超えるのは2019年(同数の73件)以来3年ぶり。海外案件が今年最多の月間21件に上ったことが件数を押し上げた。1~8月累計は前年同期比15件増の588件と高水準を維持している。

一方、8月の取引金額は8379億円で、2月に次ぐ今年2番目のレベル。オリンパスが顕微鏡などの科学事業を4276億円で売却するのをはじめ、上位にエイチ・アイ・エス(HIS)、三井化学による大型の売却案件が目立った。

7月は件数、金額とも低調で“夏枯れモード”の様相を呈したが、8月は一転、大きく盛り返した格好だ。

海外案件、今年最多の21件

上場企業の適時開示情報のうち、経営権の移転を伴うM&A(グループ内再編は除く)について、M&A Online編集部が集計した。

8月のM&A73件の内訳は買収60件、売却13件(買収側、売却側の双方が発表したケースは買収側でカウント)。このうち海外案件は21件と4月(14件)を上回る今年最多で、2021年4月(28件)以来の高水準となった。その内容は日本企業が買い手となるアウトバウンド取引が11件、外国企業が買い手となるインバウンド取引が10件と両者がほぼ拮抗した。

海外案件は1~8月累計で前年比10件減の101件(アウトバウンド56件、インバウンド45件)。コロナ前の2019年と比べると26件下回る。主因はアウトバウンドの落ち込み。2019年の同期間はアウトバウンド98件に対し、インバウンド28件と日本企業による買いが圧倒的に優勢だったが、コロナ禍を境にアウトバウンドが失速状態に陥っている。

案件規模をみると、7月は2件にとどまっていた取引金額100億円超の大型案件が8件を数えた。買収、売却案件が各3件、TOB(株式公開買い付け)案件が2件。このうち買収はいずれも大手保険会社による海外案件だった。

オリンパス、HIS、三井化学が大型売却

金額トップはオリンパスの案件。祖業の顕微鏡や工業用内視鏡などを手がける科学事業を、米投資ファンドのベインキャピタルに4276億円で売却することを決めた。内視鏡事業、治療機器事業を中心とする医療分野に経営資源を集中させる。オリンパスは医療分野の基盤強化に向けて欧米企業の買収を加速しており、新たなM&A資金を確保することになる。

オリンパスは1919年に顕微鏡の国産化を目的に高千穂製作所として創業。その後、カメラや内視鏡に進出し、総合光学メーカーとして発展した。なかでも医療用検査機器の内視鏡は世界シェア7割以上を誇る看板製品に成長を遂げた。

カメラを中心とする映像事業は2021年1月、国内投資ファンドの日本産業パートナーズ(東京都千代田区)に売却し、撤退した。今回の科学事業については昨年12月、分社したうえで売却の方向で検討を進める方針を発表していた。

旅行大手のHISは傘下の大型リゾート施設「ハウステンボス」(長崎県佐世保市)を香港投資ファンドのPAGに売却を決めた。売却額は666億円。HISはコロナ禍による海外旅行需要の激減で経営が悪化し、2021年10月期まで2期連続の最終赤字に沈み、このままでは今期も赤字が避けられない状況にある。ハウステンボス売却による資金確保で経営立て直しを急ぐ構えだ。

ハウステンボスは1992年に開業したが、入場者数の低迷で2003年に会社更生法の適用を申請し、事実上経営破綻した。HISは2010年にハウステンボスを子会社化し、66.7%の株式を取得した。九州電力、JR九州など地元5社も出資し、再建を進めてきた。

三井化学はフェノール事業のシンガポール子会社を英国石油化学大手のINEOS(イネオス)に約450億円で売却する。資産を圧縮して財務負担を軽くするライトアセット化の一環としている。

生損保3社が海外で大型買収そろい踏み

海外企業の大型買収では生損保大手のそろい踏みとなった。国内保険市場の成熟に伴い、海外事業の展開を加速するのが狙いだ。

ニュージーランド2位の生命保険会社パートナーズ・グループ・ホールディングスを傘下に収めるのは第一生命ホールディングス。買収金額は約856億円。第一生命としてニュージーランドは9カ国目の進出国となる。隣国のオーストラリアでは2011年から合計約2300億円を投じて3つの生命保険会社を子会社化しており、オセアニア地域での相乗効果を見込む。

第一生命は2007年にベトナムの現地生保を買収したのを手始めに、海外で保険事業に乗り出した。最大市場の米国では2015年に約5800億円でプロテクティブを子会社化した。

三井住友海上火災保険(MS&ADインシュアランスグループホールディングス傘下)は米国の再保険仲介会社トランスバースを買収すると発表した。約542億円で全持ち分を取得する。再保険は保険金の支払いの一部を別の保険会社が引き受けるもの。自然災害やサイバーテロなどを取り巻くリスクの巨大化を背景に、拡大が続く再保険市場の成長を取り込み、米国事業の基盤拡大につなげる。

東京海上日動火災保険(東京海上ホールディングス傘下)は台湾4位の損保会社で合弁運営する新安東京海上の株式を追加取得し、子会社化する。持ち株比率を約49%から50%超に引き上げ、経営の主導権を握る。取得金額は約338億円。新安東京海上は新型コロナウイルス関連の保険支払いによる損失拡大で増資を通じたテコ入れが必要になっていた。

ヤマエ、「ピザハット」を子会社化

一般消費者に身近なフードサービスでも注目される動きがあった。

1つは、米国発の宅配ピザ「ピザハット」を国内で約500店舗展開する日本ピザハット・コーポレーション(横浜市。売上高209億円、経常利益13億円)をヤマエグループホールディングスが子会社化(8月31日付)する案件。ヤマエは九州を地盤とする食品卸大手。一般消費者向けのフードサービス領域に本格進出する。取得金額は非公表としている。

実は、日本ピザハットにとって親会社が変わるのは2度目。最初の親会社はケンタッキーフライドチキン(KFC)を運営する日本KFCホールディングスで、1991年にピザハット事業に乗り出した。2017年から投資ファンドのエンデバー・ユナイテッド(東京都千代田区)の傘下にあった。

国内の宅配ピザ市場で、ピザハットは同じく米国発祥のドミノ・ピザ、日本生まれのピザーラと並んで3強を形成するが、万年3位に甘んじている。

もう1つは、山崎製パンがパン・洋菓子製造の神戸屋(大阪市)から包装パン事業と総菜などのデリカ食品事業を取得する案件。取得金額は非公表。小麦などの原料価格の高騰などで事業環境が厳しさを増す中、選択と集中を進める神戸屋から譲渡の打診があったという。

神戸屋は1918年創業の老舗で、山崎製パン、フジパングループ本社、敷島製パンに続く業界4位。今後、冷凍パン事業、フレッシュベーカリー・レストラン事業に専念する。

◎8月M&A:金額上位(10億円以上)の案件

1 オリンパス 祖業の顕微鏡など科学事業を米投資ファンドのベインキャピタルに譲渡 4276億円
2 第一生命ホールディングス ニュージーランド生命保険大手パートナーズ・グループ・ホールディングスを子会社化 856億円
3 エイチ・アイ・エス 大型リゾート施設「ハウステンボス」(長崎県佐世保市)を香港投資ファンドのPAGに譲渡 666億円
4 MS&ADインシュアランスグループホールディングス 米国の再保険仲介会社トランスバースを子会社化 542億円
5 シノケングループ 国内投資ファンドのインテグラルと組んでMBOで株式を非公開化 533億円
6 三井化学 フェノール事業のシンガポール子会社を英国INEOSに譲渡 450億円
7 東京海上ホールディングス 台湾4位の合弁損保「新安東京海上」を子会社化 338億円
8 米ベインキャピタル ネット広告と恋活・婚活マッチングアプリのネットマーケティングをTOBで非公開化 119億円
9 小田急電鉄 JCBブランドのクレジット発行事業をジェーシービー(東京都港区)に譲渡 96.7億円

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ゴルフダイジェスト・オンライン 米国SkyTrakグループからゴルフ用弾道測定器事業を取得 92.8億円
11 大王製紙 紙製猫砂メーカー大手の大貴(東京都港区)を子会社化 74億円
12 資生堂 パーソナルケア製品の生産事業を英投資ファンドのCVCキャピタル・パートナーズに譲渡 60.7億円
13 メドピア CSO(医薬品販売業務受託機関)事業のEPフォース(東京都豊島区)を子会社化 50.2億円
14 デサント フランス発「ルコックスポルティフ」ブランドを取り扱う中国合弁会社を子会社化 35.5億円
15 SBIホールディングス アスコット傘下で不動産事業のTHEグローバル社を子会社化 30.8億円
16 AMGホールディングス 戸建分譲の川﨑ハウジング(熊本市)など2社を子会社化 27億円
17 イワキ ケミカルポンプ販売の中国企業「易威奇泵业国际贸易(上海)」など2社を子会社化 25.1億円
18 人・夢・技術グループ 建設コンサルタントのピーシーレールウェイコンサルタント(宇都宮市)を子会社化 22.1億円
19 日創プロニティ タイル製造のニッタイ工業(愛知県武豊町)など2社を子会社化 18.8億円

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萩原電気ホールディングス 大崎電気工業傘下でセンサー製造の大崎エンジニアリング(埼玉県入間市)を子会社化 17.9億円

文:M&A Online編集部