【3月M&Aサマリー】93件の高水準|海外案件に異変、「米国企業」買収がゼロに

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約2700億円の大型買収を決めた横浜ゴム…同社の平塚製造所(神奈川県平塚市)

2022年3月のM&A件数(適時開示ベース)は93件と、過去10年間で最多だった前年の94件にわずかに及ばなかったものの、2年連続で90件台を記録し、高水準を維持した。1~3月累計は237件で、前年同期を8件下回った。

海外案件では異変があった。3月に11件あった海外案件のうち、日本企業による米国企業の買収は2020年6月以来のゼロに。年明けからの急速な円安ドル高の進行に伴い、日本企業が米国を中心とする海外M&A投資に慎重姿勢を強めている様子がうかがえる。

横浜ゴム、スウェーデンの農機用タイヤを買収

上場企業の適時開示情報のうち、経営権の移転を伴うM&A(グループ内再編は除く)について、M&A Online編集部が集計した。

3月のM&A総件数93件の内訳は買収71件、売却22件(買収側、売却側の双方が発表したケースは買収側でカウント)。このうち国境をまたぐ海外案件は11件(買収5件、売却6件)だった。

一方、3月の取引金額は5189億円。横浜ゴムが約2672億円を投じて、農業機械用タイヤを手がけるスウェーデンのトレルボルグ・ホイール・システムズを買収する案件が突出した。横浜ゴムとして過去最大のM&Aとなる。

消費財である乗用車用タイヤは世界的に競争が激化しているのに対し、安定収益が見込める産業用タイヤへの事業シフトを進めているが、なかでも農機用タイヤを重点分野と位置付けている。2016年に、オランダの農機用タイヤメーカーであるアライアンスタイヤグループを約1350億円で買収しているが、欧州大手のトレルボルグを取り込み、成長加速につなげる。

金額2位は三菱商事。上場REIT(不動産投資信託)運用の合弁子会社である三菱商事・ユービーエス・リアルティ(MC‐UBSR、東京都千代田区)の全保有株式51%を、米投資ファンドKKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)に1157億円で売却すると発表した。不動産運用事業に関しては今後、私募REIT、私募ファンドなどを成長領域とする。

米国関連は「売却」で辛うじて1件

3月は海外案件で目を引いたのは米国関連のM&Aが1件にとどまった点だ。三菱商事がMC‐UBSRを1100億円超で米投資ファンドに売却する案件が辛うじてあったものの、日本企業による買収案件は皆無だった。

米国関連のM&Aは例年、海外案件全体の約4割を占め、今年も1月3件(うち買収1件)、2月4件(同2件)で推移していたが、3月は急ブレーキがかかった格好だ。年初来の円安進行で、日本企業にとって買収金額に割高感が出ていることが影響している可能性もある。

ロシアのウクライナ侵攻で緊張が高まっている欧州関連のM&Aは4件で、スウェーデン、ドイツ、アイルランド、オーストリアが各1件だった。

1~3月の取引金額は累計1兆6341億円。日立製作所による米IT企業の1兆円買収があった前年同期に比べると、約1兆1000億円下回る。

大豊建設、麻生が「ホワイトナイト」に

金額3位、4位に入ったのが建設関連。前田建設工業を中心とするインフロニア・ホールディングスは、海洋土木大手の東洋建設をTOB(株式公開買い付け)で完全子会社化すると発表した。買付代金は最大約580億円。現在、東洋建設株の20%余りを保有し、持ち分法適用関連会社としている。

インフロニアは昨年10月、前田建設、前田道路、前田製作所の上場3社が経営統合して発足した。港湾・海上分野の技術・ノウハウに強みを持つ東洋建設を傘下に取り込み、港湾インフラのコンセッション(民間事業者による公共施設運営)事業、洋上風力発電などへの展開を加速する。

一方、大豊建設は九州の有力企業グループでセメント、医療事業などを手がける麻生(福岡県飯塚市)の傘下に入ることを決めた。大豊建設は旧村上ファンド系投資会社の持ち株比率が4割近くに達し、経営の主導権を事実上奪われる事態に陥っていた。

麻生は総額403億円の第三者割当増資を引き受け、大豊建設株の50%超の株式を取得し、子会社化する。大豊建設は調達した資金をもとに自社株買いを行い、これに旧村上ファンド系が応じる予定。

大豊建設の「ホワイトナイト」(白馬の騎士)として登場した麻生は、麻生太郎元首相・現自民党副総裁の身内企業。2018年には特殊土木の日特建設をTOBで子会社化している。

マミヤ・オーピー、ゴルフ事業を入れ替え

3月は同一企業で複数のM&Aを発表したケースがメディアスホールディングス、マミヤ・オーピー、メディカルネット、インターライフホールディングスの4社を数えた。

このうち、マミヤ・オーピーは「Kasco」ブランドのゴルフ用品を製造する子会社のキャスコ(香川県さぬき市)をゴルフ場経営のKST(埼玉県美里町)に譲渡する一方、ゴルフシャフト製造のシャフトラボ(東京都千代田区)を子会社化した。競争力を持つシャフト事業に経営資源を集中させるのが狙い。

◎3月M&A:金額上位(10億円以上)

1 横浜ゴム スウェーデンの農機用タイヤメーカー、トレルボルグ・ホイール・システムズを子会社化 2672億円
2 三菱商事 不動産運用子会社の三菱商事・ユービーエス・リアルティ(MC‐UBSR、東京都千代田区)を米KKRに譲渡 1157億円
3 インフロニア・ホールディングス 海洋土木の東洋建設をTOBで子会社化 579億円
4 大豊建設 九州の企業グループ「麻生」(福岡県飯塚市)の傘下に 403億円
5 鹿島 シンガポールの不動産企業セントラル・キャピタルを子会社化 145億円

6

オンワードホールディングス グアム島のホテル子会社「オンワードビーチリゾートグアム」を星野リゾートに譲渡 61億円

7

Abalance 太陽光発電事業の日本未来エナジー(仙台市)など2社を子会社化 34.7億円

8

OCHIホールディングス 建設コンサルタント業の日本調査(東京都板橋区)を子会社化 21.6億円

9

AI inside AI関連コンサルティング・ソフト開発のairforce solutions(東京都千代田区)を子会社化 16.6億円

10

INCLUSIVE ブランディング事業や老舗料亭運営などのオレンジ(東京都港区)を子会社化 16.5億円

11

プロトコーポレーション アドベンチャー傘下で金券ショップ運営のコスミック流通産業(横浜市)など2社を子会社化 15.7億円

12

LITALICO

介護保険請求ソフト開発のプラスワンソリューションズ(沖縄県浦添市)を子会社化 11.9億円

文:M&A Online編集部