【2月M&Aサマリー】前年比17件減ながら4年連続で80件超え|ソフトバンクG、アームの4.2兆円売却断念

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東芝(東京・芝浦)

2022年2月のM&A件数(適時開示ベース)は前年同月比17件減の80件だった。過去10年で最多だった前年同月の97件に比べるとマイナス幅は大きいものの、80件を超えるのは4年連続で、高水準を堅持している。1~2月の累計は144件と前年同期を7件下回る。

取引金額は8615億円(公表分を集計)。なかでもソニーグループが米ゲーム開発会社バンジーを4140億円で買収する案件が突出した。経営再建中の東芝は空調子会社の東芝キヤリア(川崎市)を約1000億円で売却することを決めた。

ソニーグループ、東芝の巨額案件を含めて100億円を超えるM&Aは11件と、昨年8月(12件)以来5カ月ぶりに2ケタ台に乗せ、金額規模が膨らんだ。このうち4件は売却案件で、中核事業と非中核事業を選別する動きが続いている。

ソニー、米バンジーを4140億円で傘下に

上場企業の適時開示情報のうち、経営権の移転を伴うM&A(グループ内再編は除く)について、M&A Online編集部が集計した。

2月のM&A総件数80件の内訳は買収67件、売却13件(買収側、売却側の双方が発表したケースは買収側でカウント)。このうち国境をまたぐ海外案件は9件(買収4件、売却5件)だった。

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ソニーグループが4140億円を投じて全株式を取得する米バンジーは「ヘイロー」「デスティニー」などの世界的な人気ゲームシリーズを持つ。これにより、家庭用ゲーム機「プレイステーション」で楽しめるゲームの厚みが増す。ゲーム事業は今やソニーの稼ぎ頭で、同社のゲーム事業として今回のバンジー買収は過去最大のM&Aとなる。

金額2位は東芝。空調子会社の東芝キヤリアについて、東芝が出資する60%の株式のうち55%を合弁相手の米キヤリア・グローバルの傘下企業に約1000億円で売却する。東芝キヤリアは連結対象外となるが、売却後も東芝ブランドの空調システムを開発、製造、販売する。東芝では今後、照明事業やエレベーター事業の売却が取りざたされている。

ソフトバンクGの大型売却、地銀統合が白紙に

ソニー、東芝を差し置いて、日本企業による過去最大のM&A破談劇として話題をさらったのがソフトバンクグループだ。傘下の英半導体設計大手、アームの売却を取りやめると発表した。ソフトバンクGは2020年9月にアームを約4兆2000億円で米半導体大手のエヌビディアに売却することで合意したが、半導体市場への影響を懸念する各国独禁法当局の審査が難航していた。

ソフトバンクGは2016年に約3兆3000億円を投じてアームを買収した。売却が実現すれば、1兆円近い差益が見込まれていた。売却断念に伴い、アームの株式上場に方向を転換し、資金化を目指す。

2月はもう一つ、地銀をめぐるM&Aの破談があった。荘内銀行(山形県鶴岡市)、北都銀行(秋田市)を傘下に持つフィデアホールディングスと東北銀行(盛岡市)は今年10月に予定していた経営統合を中止すると発表した。東北全域(6県)に店舗網を持つ地銀グループが誕生する運びだったが、経営戦略の方向性やガバナンス体制で見解の相違があったとして、昨年7月の基本合意から半年余りで白紙撤回となった。

トヨタ車販売のATグループ、800億円超で非公開化

大型のMBO(経営陣による買収)を発表したのはトヨタ自動車販売店を運営するATグループ。創業家出身の山口真史社長が設立した買収目的会社がTOB(株式公開買い付け)を行い、完全子会社化する。買付代金は最大828億円で、投資ファンドが関与しないMBOとして過去最大となる。国内自動車市場の縮小やトヨタ自動車による「全車種併売化」のスタートを受け、傘下の4販売会社の統合などの経営改革を迅速に進めるには株式の非公開化が必要と判断した。

ATグループは1935年にトヨタ自動車の販売店第1号となった「日の出モータース」が前身。1948年に愛知トヨタ自動車に社名変更し、1961年に名古屋証券取引所2部に上場し、そのまま今日に至る。この間、2007年に持ち株会社に移行し、現社名となった。

ベネッセ、語学企業ベルリッツを売却

金額非公表ながら、一般の関心を集めた案件も目についた。

その一つは語学企業の米国子会社ベルリッツをカナダ企業に売却したベネッセホールディングス。ベネッセは1993年にベルリッツを子会社化(2001年に完全子会社化)して30年近くになるが、近年は業績不振が常態化。約178億円のベルリッツ向け貸出債権も放棄する。

進学塾「東進ハイスクール」で知られるナガセは、ブリヂストン傘下で九州を中心にスイミングスクール19校を展開するブリヂストンスポーツアリーナ(福岡県久留米市)を買収することを決めた。ナガセは首都圏や関西圏でイトマンスイミングスクール53校(うち直営35校)を運営している。

また、シューズ販売最大手のエービーシー・マート(ABCマート)は、セブン&アイ・ホールディングス傘下でスポーツ用品店9店舗を展開するオッシュマンズ・ジャパン(東京都新宿区)の子会社化を発表。新領域としてアウトドア、ランニング、フィットネス関連のウエア、グッズへの展開を検討していた。親会社のセブン&アイは構造改革として傘下の百貨店事業「そごう・西武」の売却を進めており、今回の一件も同じ流れにある。

◎2月M&A:金額上位案件(10億円以上)

1 ソニーグループ 米ゲーム開発会社バンジーを子会社化 4140億円
2 東芝 空調子会社の東芝キヤリア(川崎市)を合弁相手の米キヤリアに譲渡 1000億円
3 ATグループ MBOで株式を非公開化 828億円
4 日東電工 英包装・製紙大手のモンディから衛生材料事業を取得 804億円
5 村田製作所 通信部品開発・設計の米レゾナントを子会社化 336億円
6 日本ハム 水産子会社のマリンフーズ(東京都品川区)を双日に譲渡 265億円
7 清水建設 持ち分法適用関連会社で道路舗装大手の日本道路をTOBで子会社化 222億円
8 博報堂DYホールディングス ネットビジネス支援事業のソウルドアウトをTOBで子会社化 195億円
9 サントリー食品インターナショナル フレッシュコーヒー事業の豪州子会社をUCCに譲渡 185億円
10 アイ・オー・データ機器 MBOで株式を非公開化 142億円
11 資生堂 ヘアサロン向け業務用事業をドイツ化学大手ヘンケルに譲渡 123億円
12 デクセリアルズ 光半導体メーカーの京都セミコンダクター(京都市)を子会社化 88億円
13 互応化学工業 MBOで株式を非公開化 87.9億円
14 Jトラスト HSホールディングス傘下で証券業のエイチ・エス証券(東京都新宿区)を子会社化 55.7億円
15 丸和運輸機関 EC物流のファイズホールディングスをTOBで子会社化 43億円
16 アルテサロンホールディングス MBOで株式を非公開化 25.4億円
17 ニューラルポケット 屋外電子看板販売のネットテン(大阪市)を子会社化 24.1億円
18 佐渡汽船 みちのりホールディングス(東京都千代田区)の出資を受け、同社の子会社に 15億円

文:M&A Online編集部