【12月M&Aサマリー】前年同月比4件減の74件、飯田グループがロシア企業を600億円買収

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飯田グループホールディングスのシンボルマーク(東京都武蔵野市で)

2021年12月のM&A件数(適時開示ベース)は前年同月比4件減の74件だった。前年同月比マイナスは2カ月連続だが、12月として過去10年で2020年と2019年(78件で同数)に次ぐ高い水準にある。前月(11月)比では3件減った。

1~12月の年間累計は877件と前年比28件の大幅増で、2年ぶりのプラスに転じるとともに、リーマンショック(2008年、870件)後の最多となった。(2021年の年間総括は改めて掲載します)

一方、12月の取引金額は1416億円(公表分を集計)。100億円を超える大型案件が3件にとどまり、7月(488億円)に次ぐ低調さだった。年間合計は8兆7121億円と前年を約2兆4500億円下回ったものの、過去10年で2018年(13.8兆円)、2016年(11.9兆円)、2020年(11.1兆円)に続く4番目の水準だった。

「1000億円超」5カ月ぶりにゼロ件

全上場企業に義務づけられた適時開示情報のうち、経営権の移転を伴うM&A(グループ内再編は除く)について、M&A Online編集部が集計した。

12月のM&A全74件の内訳は買収59件、売却15件(買収側と売却側の双方が開示した場合は買収側でカウント)。このうち海外案件は11件(買収8件、売却3件)だった。1000億円以上の大型案件は7月以来5カ月ぶりにゼロとなった。

そうした中、金額トップは飯田グループホールディングスが約600億円を投じて、ロシア最大級の林産企業を傘下に置く持ち株会社Russia Forest Products(RFP、英領バージン諸島)を買収する案件。木材の安定的な調達体制を確立し、中核である戸建分譲住宅事業の競争力向上につなげる。株式譲渡、第三者割当増資引き受けなどで株式75%を取得し、2022年1月14日付で子会社化する。

飯田グループは戸建分譲住宅で約3割の国内販売シェアを持つ業界最大手で、年間に4万6000戸以上を供給する。木材をめぐっては昨年、世界的な需要高まりを背景に「ウッドショック」と呼ばれる価格急騰が発生し、輸入材に頼る住宅業界は深刻な打撃を受けた。RFPはロシア極東のハバロフスク地方に約400万ヘクタール(九州の1.08倍)の林区を持つという。

金額2位は東和薬品が手がける案件。米投資ファンドのカーライル・グループ傘下で健康食品・医薬品受託製造の三生医薬(静岡県富士市)の全株式を476億円で取得する。三生医薬が持つ高い製剤技術や健康食品のノウハウを取り込み、健康関連事業の多角的な展開を目指す。

東急ハンズ、カインズの傘下へ

金額非公表ながら、注目される売却案件が目についた。東急不動産ホールディングスは完全子会社で生活雑貨大手の東急ハンズ(東京都新宿区)を、ホームセンター最大手のカインズ(埼玉県本庄市)に売却することを決めた。新型コロナ禍の影響で2年連続の最終赤字に陥るなど厳しい環境にあり、グループ内の経営資源による事業再構築では限界があると判断した。売却予定は2022年3月末。

東急ハンズは1976年に創業。DIY(日曜大工)の枠を超えて新たな生活様式を提案する小売業態の先駆者的存在として知られ、現在、国内海外合わせて86店舗を展開。カインズは地方の大型店を主力とし、都市型店舗の東急ハンズとの補完性が高いと期待している。

オリックスはクラウド会計ソフト「弥生シリーズ」で知られる弥生(東京都千代田区)を米投資ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)に売却する。オリックスは投資事業の一環として2014年に弥生を買収したが、一定の利益が見込めたことで、イグジット(出口=投資資金の回収)の段階と判断。売却額は2500億円程度とみられている。

生物顕微鏡や工業用顕微鏡など祖業である「科学事業」の売却を検討すると発表したのはオリンパスだ。科学事業の直近売上高は958億円。同社は内視鏡と治療機器を中心とする医療分野に経営資源を集中させる方針を打ち出しており、一昨年にはデジタルカメラなどの映像事業を国内投資ファンドの日本産業パートナーズ(東京都千代田区)に売却した。

ブリヂストンも多角化事業の見直しにアクセルを踏み込んでいる。防振ゴム事業を中国投資会社の安徽中鼎控股(集団)股份有限公司(安徽省)に、自動車用シートパッドやウレタンフォームなどの化成品ソリューション事業を国内投資ファンドのエンデバー・ユナイテッド(東京都千代田区)に売却することを決めた。売却完了は2022年7月~8月を見込む。

愛知・中京銀行が経営統合を発表

愛知県を地盤とする第二地銀の愛知銀行と中京銀行は2022年10月に共同持ち株会社を設立し、経営統合すると発表した。そのうえで両行は2年後に合併する予定。歴史的な低金利による預貸金利ザヤの縮小、人口減少などで経営環境が厳しさを増す中、持続的な収益基盤の確立を目指す。

こうした地銀再編の発表は2021年だけで4件目。青森銀行とみちのく銀行の統合(2022年4月予定)、福井銀行による福邦銀行の子会社化(2021年10月完了)、荘内銀行と北都銀行を傘下に置くフィデアホールディングスと東北銀行の統合(2022年10月予定)に続く。

◎12月M&A:金額上位案件(10億円超)

1 飯田グループホールディングス ロシア最大級の林業グループRussia Forest Productsを子会社化 600億円
2 東和薬品 米カーライル傘下で健康食品・医薬品受託製造の三生医薬(静岡県富士市)を子会社化 476億円
3 神戸製鋼所 銅管子会社のコベルコマテリアル銅管を三菱商事傘下の丸の内キャピタルに譲渡 120億円
4 三井住友建設 海上・水上杭工事のシンガポールAntara Kohを子会社化 76億円
5 トランスジェニック 検査・解析事業子会社のジェネティックラボ(札幌市)をEurofinsの傘下企業に譲渡 32.1億円

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アダストリア 外食のゼットンを第三者割当増資引き受けとTOB(株式公開買い付け)で子会社化 28.7億円
7 ラクスル ダンボール・梱包材の受発注サイト運営のダンボールワン(金沢市)を子会社化 20億円
8 鴨川グランドホテル MBO(経営陣による買収)で株式を非公開化 17億円

文:M&A Online編集部