2021年10月のM&A件数(適時開示ベース)は70件で前年同月と同数だった。10月として過去10年で2018年(81件)、2019年(74件)に続く高い水準。前月比では13件減った。1~10月の累計は前年同期を37件上回る727件で、このままのペースでいけば、年間件数は2008年の870件を超え、リーマン・ショック後の最高となる公算が大きい。
10月の取引金額は8012億円。1000億円超の大型M&Aは国内の再生可能エネルギー企業を約2000億円で買収するENEOSホールディングスの案件を筆頭に4件に上り、今年最多だった。
全上場企業に義務づけられた適時開示情報のうち、経営権の異動を伴うM&A(グループ内再編は除く)について、M&A Online編集部が集計した。
10月の70件の内訳は買収57件、売却13件(買収側と売却側の双方が開示した場合は買収側でカウント)。このうち海外案件は13件(買収9件、売却4件)だった。
金額面でとくに注目されるのは1000億円を超える大型案件の動向(一覧表を参照)。月間4件に達するのは2019年12月(6件)以来、ほぼ2年ぶり。内容は買収、売却が各2件で、M&Aをテコに事業ポートフォリオ(構成)の見直しを積極的に進めている様子がうかがえる。
また、1000億円超の4案件を含めて、10月として取引金額が100億円を超えたのは9件。1~10月累計だと、100億円超は海外案件を中心に64件と前年同期(46件)を4割上回るハイペースで推移しており、M&A意欲の旺盛さがより鮮明となっている。
金額首位は、米ゴールドマン・サックス(GS)傘下で、太陽光発電など再エネ企業のジャパン・リニューアブル・エナジー(JRE、東京都港区)を子会社化するENEOSホールディングスの案件。約2000億円を投じて2022年1月末までに全株式を取得する。ENEOSは2022年度末までに国内外での再エネ事業の発電容量を現在の10万キロワット台から100万キロワット超に拡大することを目指しており、脱炭素化の取り組みを加速する狙いだ。
JREは2012年に設立し、全国40数カ所で太陽光を中心に陸上風力、バイオマスの再エネ事業を展開。2021年9月時点の発電容量は約38万キロワットで、建設中を含めると約71万キロワットに達する。
ENEOSは9月初め、GSと組んで上場子会社で道路舗装最大手のNIPPOをTOB(株式公開買い付け)を通じて非公開化する計画を発表した。親子上場の解消で得られる約1900億円の資金をJREの買収に充てる。
欧州の塗料メーカーをターゲットに2件の大型案件を発表したのは日本ペイントホールディングス。フランスのクロモロジーを約1509億円、スロベニアのJUBを約254億円で傘下に収める。いずれも2022年上期中の買収完了を見込む。
国内企業同士では電通グループがネット広告大手のセプテーニ・ホールディングスを子会社化する案件が最大。約326億円の第三者割当増資を引き受け、現在19%余りの持ち株比率を約52%に引き上げる。100円ショップ業界第3位のキャンドゥをTOBなどで子会社化するのはイオン。約160億円をかけ、最大51%の株式取得を目指している。
業種でM&Aが動きが目立ったのは再エネ関連だ。ENEOSの大型案件以外に4件あった。
Abalanceは太陽光発電事業を手がけるカンパニオソーラー(大阪府吹田市)、ジャパン・ソーラー・パワー(高知市)の2社の子会社化を発表した。Abalanceは祖業のソフト開発から太陽光発電に事業の軸足を移している。また、リサイクル事業のエンビプロ・ホールディングスはバイオマス燃料を製造・販売する富士見BMS(静岡県富士市)の子会社化を決めた。
一方、ウインテストは太陽光発電の運転管理・保守点検(O&M)サービス子会社のオランジュ(横浜市)を売却した。FIT(再生エネルギーの固定価格買取制度)売電単価の下落や、太陽光発電所の新設件数の減少などで、O&M需要が低迷しており、主力の半導体検査装置事業に経営資源を集中する。
◎10月M&A:金額上位一覧(10億円以上)
1 |
ENEOSホールディングス | 米ゴールドマンサックス傘下の再エネ発電企業、ジャパン・リニューアブル・エナジー(東京都港区)を子会社化 | 2000億円 |
2 | 日本ペイントホールディングス | フランスの建築用塗料メーカー、クロモロジーを子会社化 | 1509億円 |
3 | 住友金属鉱山 | チリ「シエラゴルダ銅鉱山」の権益持ち分を豪資源大手South32に譲渡 | 1349億円 |
4 | ソニーグループ | 米ゲーム事業を米ゲーム会社のスコープリーに譲渡 | 1100億円 |
5 | 住友商事 | チリ「シエラゴルダ銅鉱山」の権益持ち分を豪資源大手South32に譲渡 | 578億円 |
6 | ルネサスエレクトロニクス | イスラエルのアナログ半導体企業セレノを子会社化 | 359億円 |
7 | 電通グループ | ネット広告大手のセプテーニ・ホールディングスを子会社化 | 326億円 |
8 | 日本ペイントホールディングス | スロベニアの塗料メーカー JUBを子会社化 | 254億円 |
9 | イオン | 100円ショップ大手のキャンドゥをTOBなどで子会社化 | 211億円 |
10 | 日本郵政 | 「かんぽの宿」32施設を米投資会社フォートレスなど4者に譲渡 | 88億円 |
11 | キングジム | 生活家電など企画・製造のライフオンプロダクツ(大阪市)を子会社化 | 36.7億円 |
12 | フジシールインターナショナル | スイス子会社PAGOのタッグラベル事業を現地社に譲渡 | 34億円 |
13 | アジアゲートホールディングス | 不動産事業のNC MAX WORLD(東京都中央区)を子会社化 | 30.6億円 |
14 | ソラスト | 介護事業のプラス(岐阜県各務原市)を子会社化 | 28億円 |
15 | 丸一鋼管 | 鋼管メーカーの米Geneva Structural Tubesを子会社化 | 25.5億円 |
16 | 三井物産 | 冷凍洋菓子製造の五洋食品産業をTOBで子会社化 | 13.8億円 |
17 | システムリサーチ | ソフト開発のゼネラルソフトウェア(東京都千代田区)を子会社化 | 11.9億円 |
文:M&A Online編集部