【8月M&Aサマリー】62件、4カ月連続で減少|「100億円超」は今年最多

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スキンケア領域への経営資源集中を進める資生堂(東京・銀座)

2021年8月のM&A件数(適時開示ベース)は前年同月比6件減の62件となり、5月から4カ月連続で前年を下回った。4カ月連続の減少は昨年8~11月以来。1~8月の累計は前年同期比12件増の571件で、4月までの“貯金”が奏功し、2008年(602件)以来13年ぶりの高水準を保持している。前月(7月)比では同数だった。

月間の取引金額は5092億円。1000億円を超える大型案件はなかったものの、100億円以上は計12件と海外案件を中心に今年最多を記録し、2月(11件)以来の2ケタに乗せた。

海外案件数は今年2番目

全上場企業に義務づけられた適時開示情報のうち、経営権の異動を伴うM&A(グループ内再編は除く)について、M&A Online編集部が集計した。

8月のM&A62件の内訳は買収54件、売却8件(買収側と売却側の双方が開示した場合は買収側でカウント)。このうち海外案件は17件(買収12件、売却5件)で、4月の28件に次いで今年2番目(2月も同数)だった。

月間の取引金額5092億円は今年4番目。金額上位には海外案件が並び、100億円以上の12件中、9件(米国7件、豪州、インド各1件)を占めた。一方、1000億円を超える大型案件は昨年8月から今年6月まで11カ月連続で毎月1~3件発生していたが、7月に途絶え、8月もゼロだった。

1年前の昨年8月はセブン&アイ・ホールディングスが米コンビニ大手のスピードウェイを2.2兆円で買収する巨大案件があり、月間の取引金額は3.8兆円に膨らんだ。

資生堂、770億円で海外事業売却

金額トップは、資生堂が米子会社を通じて展開するファンデーションや口紅などの高価格帯化粧品「ベアミネラル」「バクサム」「ローラメルシエ」の3ブランドを米投資ファンドのAdventに770億円で売却する案件。スキンケア領域に経営資源を集中する事業構造改革の一環で、今年2月には「TSUBAKI」などのブランドで知られるパーソナルケア事業を英投資ファンドに約1600億円で売却することを発表している。

第一生命ホールディングスは豪州金融大手のウエストパック銀行グループ傘下の生命保険会社、ウエストパック・ライフを約740億円で子会社化することを決めた。第一生命による豪生保の買収は3社目となる。

日本企業をターゲットにする大型買収もあった。米有力投資銀行のフーリハン・ローキーはM&A助言で国内最大手のGCAにTOB(株式公開買い付け)を実施し、最大681億円を投じて全株式の取得を目指す。GCAは日本における独立系M&A助言会社の草分け的存在だが、米企業の軍門に下る形だ。フーリハンは日本・アジアで実績を持つGCAを取り込み、アジアでのプレゼンス(存在感)を拡大する。

国内企業間で最も金額が大きかったのは日本エスコンの案件で、関西を地盤に不動産賃貸業を手がけるピカソ(大阪市)とそのグループ会社7社の全株式を299億円で取得し子会社化する。

隣接する建設業でも比較的大型の案件があった。新日本建設は元東証一部上場の中建設会社、冨士工(東京都中央区)を150億円で傘下に収める。冨士工は2001年に民事再生手続きを申請し、上場廃止した経緯がある。

H2O、関西スーパーの統合発表

阪神阪急百貨店を運営するエイチ・ツー・オーリテイリング(H2O)は関西地盤の中堅スーパー、関西スーパーマーケットと2022年2月に経営統合すると発表した。スーパー事業を運営する中間持ち株会社を設け、H2O傘下のイズミヤ(大阪市)、阪急オアシス(同)と関西スーパーを配置する。3社合計の売上高は3700億円を超え、関西トップのスーパーの地位を確立する。

ただ、この経営統合発表を受け、首都圏を拠点とするオーケー(横浜市)が関西スーパーの買収を目指す方針であることが報じられた。オーケーは沈黙を守っているが、H2Oとの争奪戦に発展する可能性もある。

MBO(経営陣による買収)の公表は8月中、オーダースーツのオンリー、電材商社の愛光電気、カード製造のカーディナルの3件。今年に入って累計15件を数え、すでに前年の年間11件を上回り、2011年(21件)以来の20件台に乗せる勢いとなっている。

GFA、「焼肉」で飲食へ本格参入

コロナ禍に苦しむ外食では3件の動きがあった。食肉小売りの黒沼畜産(山形県中山町)が東京都内で経営する山形牛の焼肉店「まっしぐら」を買収するのはGFA。GFAは投資事業を主力とするが、コロナ後を見据え、飲食業界に本格参入する機会を探っていた。

WDIは明治13(1880)年に創業した東京・浅草の老舗すき焼き店「ちんや」のブランドを取得。ちんやは店舗老朽化やコロナ禍に伴い8月15日に営業休止した。また、DDホールディングスは米ハワイに2011年に設立した飲食店子会社を売却し、海外飲食事業から撤退を決めた。

◎8月M&A:金額上位(10億円超)

社名 内容 金額
1 資生堂 米国子会社を通じて展開する化粧品「ベアミネラル」など3ブランドを米投資ファンドAdventに譲渡 770億
2 第一生命HD 豪生保のウエストパック・ライフを子会社化 740億
3 米フーリハン・ローキー M&A助言国内最大手のGCAをTOBで子会社化 681億
4 日本アジアグループ 傘下の国際航業(東京都千代田区)とJAG国際エナジー(同)を米カーライル・グループに譲渡 585億
5 大和ハウス工業 戸建住宅・宅地分譲の米CastleRockを子会社化 448億
6 ブリヂストン 車両運行管理サービスの米アズーガ・ホールディングスを子会社化 428億
7 楽天グループ 通信ネットワーク用ソフトウエア企業の米アルティオスター・ネットワークスを子会社化 400億
8 日本エスコン 不動産賃貸のピカソ(大阪市)、優木産業(同)などを子会社化。 299億
9 新日本建設 中堅建設会社の冨士工(東京都中央区)を子会社化 150億
ベネフィット・ワン JTB傘下で福利厚生代行サービスのJTBベネフィット(東京都江東区)を子会社化 150億
11 ビザスク 業界有識者と顧客のマッチングサービスを手がける米Coleman Researchを子会社化 118億
12 テクノプロ・HD ソフトウエア開発のインドRobosoft Technologiesを子会社化 120億
13 オンリー MBOで株式を非公開化 36.9億
14 日本化学工業 ケミカルフィルター製造子会社の日本ピュアテック(名古屋市)をミラプロ(山梨県北杜市)に譲渡 35億
15 ファーマフーズ 医薬品メーカーの明治薬品(東京都千代田区)を子会社化 15億~23億
16 テクノホライゾン 自動はんだ装置メーカーのアポロ精工(静岡県御殿場市)を子会社化 19億円
17 愛光電気 MBOで株式を非公開化 18.8億
18 プレイド 顧客体験・従業員体験マネジメントサービスのEmotion Tech(東京都千代田区)を子会社化 16.7億
19 カーディナル MBOで株式を非公開化 11.1億

文:M&A Online編集部