【2月M&Aサマリー】95件、13年ぶりの高水準|ルネサスが英半導体を6000億円超で買収

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英半導体大手を6000億円超で買収するルネサスエレクトロニクス(写真は武蔵事業所、東京都小平市)

2021年2月のM&A件数(適時開示ベース)は前年同月を14件上回る95件と、2月として2008年(95件)と並ぶ13年ぶりの高水準を記録した。年明け1月は53件で前年同月比21件の大幅減だったが、急反転した。

一方、取引金額は約1兆1700億円と2008年2月の3倍の規模で、この間の最高となった。ルネサスエレクトロニクスが英半導体大手を6000億円以上で買収する案件を筆頭に、100億円超の大型M&Aが11件を数えた。

首都圏や関西など10都府県で緊急事態宣言の延長と時期が重なったが、M&A市場の健在ぶりを示した格好だ。

90件台は「リーマン・ショック前」以来

全上場企業に義務づけられた東証適時開示情報のうち、経営権の異動を伴うM&A(グループ内再編は除く)について、M&A Online編集部が集計した。

2月のM&Aの総開示件数95件の内訳は買収77件、売却18件(買収側と売却側の双方が開示した場合は買収側でカウント)。このうち海外案件は16件(買収13件、売却3件)だった。

M&A件数が月別で90件を超えるのはリーマン・ショック前の2008年3月(111件)以来。2月単月としても13年ぶりの高水準で、同年2月と同数で並んだ。また、コロナ禍が本格化する以前だった昨年2月の件数も81件とハイレベルにあったが、これを大幅に上回る結果となった。

最大案件はルネサスエレクトロニクスによる英ダイアログ・セミコンダクターの買収。約6157億円を投じて全株式を年内に取得する。IoT(モノのインターネット)分野、自動車分野に代表される高成長市場向け製品の提供を拡大する。

ルネサスはここ数年来、海外半導体メーカーの買収を活発化している。2017年に米インターシルを約3200億円、19年に米インテグレーテッド・デバイス・テクノロジーを約7300億円で傘下に収めた。

100億円超の大型案件復調、2ケタに

ルネサスの巨大案件が寄与し、2月の取引金額は1兆1717億円(前年2月は2943億円)に膨らんだ。ルネサス以外にも、資生堂と帝人が1000億円超の案件をそれぞれ手がけた。これら1000億円超の3案件を含めて100億円超の大型案件は11件に達し、2019年12月(10件)以来1年2カ月ぶりの月間2ケタとなった。半数近い5件はTOB(株式公開買い付け)・MBO(経営陣による買収)絡みだった。

資生堂は「TSUBAKI」「SENKA」などのブランドでヘアケア・スキンケア商品を展開するパーソナル事業を欧州系大手投資ファンドのCVCキャピタル・パートナーズに約1600億円で売却する。パーソナル事業は日本をはじめ中国、アジアで展開するが、ドラッグストアや量販店を主要販路とするため、価格競争が激しく、収益力が課題となっていた。

帝人は1330億円を投じて、武田薬品工業から2型糖尿病治療薬4製品の製造販売承認と特許などの関連資産を取得することを決めた。ブランド力のある糖尿病治療薬を取り込み、医薬品事業の基盤を強化する。

スーパー関連で国内外で4件のM&A

業種で目立ったのがスーパーマーケット関連だ。パン・パシフィック・インターナショナルホールディングスは米国の高級スーパーチェーン「Gelson's」の持ち株会社を傘下に収めると発表した。海外事業をドン・キホーテなどのディスカウント店事業、ユニーなどの総合スーパー事業に続く新たな収益の柱に育てる構えだ。

能登地区の地場スーパーのサン・フラワー・マリヤマ(石川県輪島市)を吸収合併するのはクスリのアオキホールディングスで、ドラッグストアでの食品販売を強化するのが狙い。山口県の丸久と大分県のマルミヤストアを母体(2015年に経営統合)とするリテールパートナーズは大分県宇佐市でスーパー2店舗を取得する。

一方、弁当店「ほっかほっか亭」を展開するハークスレイはベーカリーショップ子会社を、スーパーの万代(大阪市)に売却することを決めた。

一般にも大きな関心を集めたのが吉野家ホールディングス(HD)傘下の京樽(東京都中央区)を巡るM&A。回転寿司最大手のスシローグローバルホールディングスが4月1日付で全株式を取得する。スシローはテイクアウト(持ち帰り)需要の取り込みや首都圏での基盤拡充につなげる。

京樽は主力の持ち帰り寿司チェーンのほか、回転寿司「海鮮三崎港」、寿司専門店「すし三崎丸」などを展開し、国内290店舗を持つ。吉野家HDは2011年に京樽を完全子会社化したが、コロナ禍を受けてグループの事業構成を見直すことにした。

前澤氏・堀江氏がかかわる案件も

2月は著名人がかかわる案件もあった。その一人がファッション通販最大手ZOZOの創業者、前澤友作氏。エアトリがクラウド選挙活動支援ツール「スマート選挙」を展開する子会社のセンキョ(東京都港区)を前澤ファンド(東京都港区)に売却した。同ファンドは前澤氏の個人資産をもとに設立され、社会課題の解決や趣味の追求を目指す起業家などへの出資を目的とする。

もう一人がホリエモンこと元ライブドア社長の堀江貴文氏。INCLUSIVEは「堀江貴文のブログでは言えない話」の発信・運営を手がけるSNSメールマガジン(東京都港区)を買収することになったが、2億円を超える買収資金の大部分を堀江氏自身が用立てる(第三者割当増資引き受け)構図で、その意図が憶測を呼んでいる。

◎2月:金額上位のM&A

ルネサスエレクトロニクス アナログ半導体大手の英ダイアログ・セミコンダクターを買収で合意 6157億円
2 資生堂 パーソナルケア事業を欧州投資ファンド大手のCVCキャピタル・パートナーズに売却 1600億円
3 帝人 武田薬品工業から2型糖尿病治療薬事業を取得 1330億円
4 MBKパートナーズ 介護事業のツクイホールディングスをTOBで子会社化 490億円
5 ソニー 米音楽出版社コバルト・ミュージックから音楽配信サービス「AWAL」事業を買収 452億円
6 オリンパス イスラエルの医療機器メーカー、Medi-Tateを子会社化 272億円
7 シティインデックスイレブンス MBOを実施中の日本アジアグループを対抗TOBで子会社化→3月3日にTOB撤回 264億円
8 日本エスコン 第三者割当増資を行い、中部電力に傘下入り。中部電の持ち株比率は33%から51%余りへ 204億円
9 サカイオーベックス MBOで株式を非公開化 176億円
10 ユニゾン・キャピタル 精神科領域の訪問看護事業を手がけるN・フィールドをTOBで子会社化 155億円
11 東海東京フィナンシャル・HD エース証券(大阪市)をTOBで子会社化 113億円
12 ユニマット・リタイアメント・コミュニティ ユニマットライフ(東京都港区)のTOBを受け入れ、株式を非公開化 60.7億円
13 全国保証 筑波銀行傘下の筑波信用保証(茨城県つくば市)を子会社化 56.5億円
14 アルフレッサホールディングス 第一三共から長期収載品11製品の製造販売承認を取得 47億円
15 ビーイング MBOで株式を非公開化 44.9億円
16 大成 MBOで株式を非公開化 43.4億円
17 UTグループ 製造業向け人材サービスのスリーエム(愛知県豊橋市)を子会社化 33.4億円
18 ポーラ・オルビスホールディングス パーソナライズサプリメント「FUJIMI」ブランド展開のトリコ(東京都新宿区)を子会社化 33.3億円
19 アイカ工業 マレーシアのホットメルト接着剤メーカーのアドテックを子会社化 29.5億円
20 サンゲツ 壁紙製造のウェーブロックインテリア(東京都中央区)を子会社化 23.9億円

文:M&A Online編集部