【1月M&Aサマリー】5年ぶりに件数減少|ブリヂストンの米子会社売却が金額突出

alt
3500億円規模に達する米国子会社売却を発表したブリヂストン(東京・京橋の本社)

2021年1月のM&A件数(適時開示ベース)は前年同月を21件下回る53件となり、1月として2016年以来5年ぶりに減少した。新型コロナウイルス感染拡大の第3波で年明けに緊急事態宣言が再度発令され、M&A取引にも最終合意に向けた作業遅延などの形で影響が及んだ可能性がある。

個々の案件ではブリヂストンによる米建材子会社の売却案件が約3500億円と突出したが、これ以外に取引金額が100億円を超えるのは帝人によるTOB(株式公開買い付け)案件の1件だけ。100億円未満~10億円超の案件も5件にとどまり、金額面でも低調ぶりが目立った。

緊急事態宣言の再発令、落ち込みを増幅か

全上場企業に義務づけられた東証適時開示情報のうち、経営権の移転を伴うM&A(グループ内再編は除く)について、M&A Online編集部が集計した。

1月のM&Aの総開示件数53件の内訳は買収36件、売却17件(買収側と売却側の双方が開示した場合は買収側でカウント)。このうち海外案件は8件(買収6件、売却2件)だった。

月間53件のM&A件数は1月として過去10年間で2020年(74件)、19年(61件)に次ぐ3番目の水準(18年も同数の53件)。例年、年の始まりである1月の件数はさほど多いわけではないが、前年はコロナ禍の前だったことに加え、今年は再度の緊急事態宣言が重なり、落ち込みが増幅したと見られる。前月(2020年12月)と比べると25件減った。

2020年のM&A件数は849件を数え、過去10年で最多だった2019年(853件)に迫った。新型コロナの逆風下、海外案件が低調に推移しながらも、これを国内案件が補い、最終的に高水準を維持する展開となった。こうした中、2021年を占ううえで1月の動向が注目されていた。

10億円超は前年15件から7件に半減

一方、1月の取引金額は約3870億円で、前年同月(2484億円)を1400億円近く上回った。ただ、ブリヂストンが屋根材製造の米子会社ファイアストン・ビルディング・プロダクツをスイス建材メーカーのラファージュホルシムに約3500億円(約34億ドル)で売却する案件が大部分を占める。

ブリヂストンは建材事業について、主力のタイヤ・ゴム事業との相乗効果が乏しいことなどから売却に動いた。売却完了は今年上期を見込む。売却益として約2000億円を計上する。

帝人は約216億円を投じて、富士フイルムホールディングス傘下で再生医療製品開発のジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(ジャスダック上場)をTOBで子会社化する。バイオ医療領域の事業拡大を狙いとする。

こうした100億円超の大型案件は2件どまり(前年1月は4件)。さらに10億円超の案件でみると、前年1月の15件から今年は7件(ブリヂストン、帝人を含む)に激減し、案件小型化は明らかだ(一覧表)

金額3位につけるのはオリンパス。医療用蛍光イメージング(視覚)システムを開発・製造するオランダのクエスト・フォトニック・デバイセズの全株式を約46億円で取得する。蛍光イメージングは外科手術時、通常の白色光の下では観察が難しい組織や病変を可視化する技術で、クエストはこの分野のリーディングカンパニーという。

オリンパスは昨年12月に約312億円を投じ、米医療機器メーカーVeran Medical Technologiesを傘下に収めたばかり。成長分野と位置づける医療機器事業の基盤拡充にアクセルを踏み込んでいる。

歯愛メディカル、電力小売り子会社を譲渡

1月は売却案件が全体の約3分の1に上ったが、なかでも目を引いたのが歯愛メディカルによる電力小売り子会社ワンレクトホールディングス(金沢市)の譲渡だ。昨年末から続く寒波や発電燃料不足の影響で電力需給がひっ迫したことで電力の卸売価格が急騰し、自前で発電所を持たない「新電力」の経営環境が不透明感を増していることが背景にある。

歯愛メディカルは昨年7月に新電力の石川電力(金沢市)と福井電力(福井市)を傘下に持つワンレクトを買収したが、わずか半年で手放す。譲渡先はワンレクトの経営陣。歯愛メディカルは歯科診療用品の通販大手だが、経営多角化のため2016年に新電力事業に参入。歯科医院、クリニックを中心に全国1万3000件を超える契約先を持つ。

IMAGICA GROUPは字幕・吹替の米子会社SDI Media Group(ロサンゼルス)をスウェーデンの同業大手IYUNO Media Groupに譲渡することを決めた。動画配信プラットフォームとの競争激化を受けた構造改革の一環。

レオパレス21は、ベトナムの不動産子会社を中和石油(札幌市)に譲渡する。賃貸アパート事業の施工不良問題による業績悪化を受け、不採算事業の整理を進めている。

技術者派遣のビーネックス・夢真が4月に合併

技術者派遣大手のビーネックスグループ(東証1部)と夢真ホールディングス(ジャスダック)は2021年4月に合併すると発表した。ビーネックスは機械・電機・電子系、夢真は建設(施工管理)系を主戦場とし、顧客の重複がほとんどなく、統合効果が大きいと判断した。近年の経営統合は共同持ち株会社を設立し、その下にぶらさがるパターンが主流だが、本体同士が直に一体となる合併は珍しい。

一方、事業統合の中止もあった。AGCとセントラル硝子は2019年12月に基本合意して協議を進めてきた国内建築用ガラスの事業統合を白紙に戻すと発表した。2020年12月中の統合完了を目指していたが、条件面で最終的に折り合うことができなかった。

1月だけで海外を含めて4件のM&Aを発表した技術系・製造系派遣大手のアウトソーシング。豪州では政府や自治体など公共セクター向けに強みを持つ人材サービス会社を傘下に収める。同社は昨年に国内外で5件のM&Aを手がけたが、新年早々から猛ダッシュとなった。

◎1月M&A:金額上位10案件

1 ブリヂストン 米国建材子会社ファイアストン・ビルディング・プロダクツをスイス企業に譲渡 約3500億円
2 帝人 再生医療製品開発のジャパン・ティッシュ・エンジニアリングをTOBで子会社化 216億円
3 オリンパス オランダの医療機器メーカー、クエスト・フォトニック・デバイセズを子会社化 46億円
4 オーテック 放射冷暖房システム設計・施工のインターセントラル(東京都中央区)を子会社化 35.7億円
5 東京エネシス 日立プラントコンストラクション(東京都豊島区)から火力発電設備の設計・施工事業を取得 22億~28億円
アイカ工業 台湾DCMコーティング・レジンからオーバープリントワニス用UV硬化型コーティング剤事業を取得 14.3億円
7 ビーネックスグループ システム開発のアロートラストシステムズ(大阪市)を傘下に置く持ち株会社を子会社化 13.7億円
8 土木管理総合試験所 熱流体解析ソフト開発のアドバンスドナレッジ研究所(東京都新宿区)を子会社化 9.3億円
9 きずなホールディングス 葬儀葬祭業の備前屋(岡山県瀬戸内市)を子会社化 3.2億円
10 日本創発グループ 広告子会社のダンサイエンス(東京都中央区)を経営陣に譲渡 1.9億円

文:M&A Online編集部