2021年(暦年)のM&A件数(適時開示ベース)は877件と前年を28件上回り、2年ぶりに増加に転じるとともに、リーマンショック(2008年、870件)後の最多となった。コロナ禍をバネに、M&A市場は活況を取り戻した格好だ。国内案件が高水準で推移し、前年に大きく落ち込んだ海外案件も復調に向かった。
取引金額100億円を超える大型M&Aは海外案件を中心に74件と前年の51件から5割近く増え、コロナ前の2019年(70件)を上回った。金額首位は日立製作所が米IT企業のグローバルロジックを約1兆400億円で買収する案件で、年間を通じて唯一の1兆円超のM&Aだった。
上場企業の適時開示情報のうち、経営権の異動を伴うM&A(グループ内再編は除く)について、M&A Online編集部が集計した。
2021年は年明けに新型コロナウイルス感染拡大の防止に向けた2回目の緊急事態宣言が出た。1月のM&A件数は前年同月を20件下回る54件と、5年ぶりにマイナスで滑り出したものの、その後、反転。夏場の4回目の緊急事態宣言では21都道府県に対象が拡大し、減速感が多少見られたものの、失速することなく、年間877件まで件数を伸ばした。
2021年のM&A戦線で最も注目されたのは前年50件近く減った海外案件の行方。結果は160件と2020年(148件)比8%増にとどまり、コロナ前の2019年(196件)にほど遠い。100億円超の大型M&Aでは海外案件が牽引役となっているが、それ以下のゾーンで件数を最も稼ぐ中・小型案件について戻りが鈍いのが実情だ。
国内、海外を問わず、上場企業による子会社・事業の売却が引き続き増加した。その数は299件で、過去10年で最多となり、全M&A件数の34%を占めた。主力事業への経営資源の集中に伴い、非中核事業や不採算事業を切り離す動きが広がった。
とりわけ、海外案件では売却のウエートが一段と高まった。全160件の海外案件のうち、外国企業が買い手となるインバウンド(Out‐In)取引は67件で、20年50件、19年44件に比べ大幅増加。構成比も19年22%、20年34%、21年42%とコロナ前のほぼ倍に増えた。2021年は1000億円を超える売却が6件あったが、いずれも海外案件。
資生堂は「TSUBAKI」「UNO」などのブランドで知られる日用品事業を英投資ファンドに1900億円で売却した。日用品事業はホームセンター、量販店などを主要販路とするため、価格競争が激しく、採算がとりにくい分野。スキンケア(肌の手入れ)事業に経営資源を集中させる方針を打ち出しており、売却のタイミングをうかがっていた。
一方、2021年の取引金額は8兆7121億円。前年を約2兆4500億円下回ったが、過去10年では18年(13.8兆円)、16年(11.9兆円)、20年(11.1兆円)に続く4番目の水準。20年はソフトバンクグループによる英半導体設計大手アームの4.2兆円売却(現在も売却手続き中)、セブン&アイ・ホールディングスによる米コンビニ大手スピードウェイの2.2兆円買収という2案件だけで全体の6割近くを占めており、これを考慮すれば、21年の方が粒ぞろいだったといえる。
実際、100億円超の案件は20年比23件増の74件で、2017年(74件)と並ぶ4年ぶりの高水準。このうち1000億円超の案件をみても、20年の12件から19件に増えた。
パナソニックはほぼ10年ぶりに大型買収を手がけた。サプライチェーン(供給網)向けソフトウエア開発の米ブルーヨンダーを約7800億円で完全子会社化した。パナソニックは2020年に20%出資(約860億円)しており、買収総額は8600億円に上る。
顧客企業のデジタル変革を支援するDX(デジタルトランスフォーメーション)関連は世界的に大型M&Aの主戦場の一つ。日立が米グローバルロジックを1兆円超で買収したのも同じ流れにある。
金額トップ10に2件ランクインしたのはENEOSホールディングス。太陽光発電など再生可能エネルギーの新興企業「ジャパン・リニューアブル・エナジー」(東京都港区)を2000億円で子会社化する一方、英国の石油資源開発子会社JXNEPUKを1900億円規模で売却すると発表した。石油依存の事業構造を転換し、脱炭素化の取り組みを加速する狙いがある。
片倉工業のMBO(経営陣による買収)は買付代金が最大714億円に上り、投資ファンドが関与しない過去最大のMBOとして注目された。同社は祖業の製糸事業の縮小に伴い、不動産や医薬品、機械関連などへの多角化を進めてきた。株式の非公開化で一連の構造改革を加速する狙いだったが、MBOが不成立に終わり、一転、上場継続することになった。
◎2021年M&A:金額上位30(月は開示ベース)
| 1 | 日立製作所 | 米IT企業のグローバルロジックを子会社化 | 1兆400 億円 |
3月 |
| 2 | 三菱UFJフィナンシャル・グループ | 傘下の米地銀MUFGユニオンバンクを米地銀最大手USバンコープに譲渡 | 8800億円 | 9月 |
| 3 | 米ベインキャピタル | 国内投資ファンド2社と組んで、日立金属をTOBなどを通じて買収 | 8100億円 | 4月 |
| 4 | パナソニック | サプライチェーン・ソフトウエア企業の米ブルーヨンダーを子会社化 | 7800億円 | 4月 |
| 5 | ルネサスエレクトロニクス | アナログ半導体大手の英ダイアログ・セミコンダクターを子会社化 | 6262億円 | 2月 |
| 6 | ブリヂストン | 米国建材子会社ファイアストン・ビルディング・プロダクツをスイス企業に譲渡 | 約3500億円 | 1月 |
| 7 | 米インベスコ・グループ | 不動産投資信託のインベスコ・オフィス・ジェイリート投資法人を対抗TOBで非公開化 | 2002億円 | 6月 |
| 8 | ENEOSホールディングス | 米ゴールドマン・サックス傘下の再エネ企業、ジャパン・リニューアブル・エナジーを子会社化 | 2000億円 | 10月 |
| 9 | ENEOSホールディングス | 英資源開発子会社のJXNEPUKを現地社に譲渡 | 約1900億円 | 11月 |
| 10 | 米スターウッド・キャピタル・グループ | [不成立]不動産投資信託のインベスコ・オフィス・ジェイリート投資法人をTOBで非公開化 | 1665億円 | 4月 |
| 11 | 資生堂 | 日用品事業を英投資ファンドのCVCキャピタル・パートナーズに譲渡 | 1600億円 | 2月 |
| 12 | 日本ペイントホールディングス | フランスの建築用塗料メーカー、クロモロジーを子会社化 | 1509億円 | 10月 |
| 13 | クボタ | インドのトラクターメーカー大手、エスコーツを子会社化 | 1406億円 | 11月 |
| 14 | 住友金属鉱山 | チリ「シエラゴルダ銅鉱山」の権益持ち分を豪資源大手South32に譲渡 | 1349億円 | 10月 |
| 15 | 帝人 | 武田薬品工業から2型糖尿病治療薬事業を取得 | 1330億円 | 2月 |
| 16 | 三菱HCキャピタル | 海上コンテナリース大手の米CAIインターナショナルを子会社化 | 1219億円 | 6月 |
| 17 | SBIホールディングス | 新生銀行(旧日本長期信用銀行)をTOBで子会社化 | 1164億円 | 9月 |
| 18 | ENEOSホールディングス | JSRからタイヤ素材のエラストマー事業を取得 | 1150億円 | 5月 |
| 19 | ソニーグループ | 米ゲーム事業を米ゲーム会社のスコープリーに譲渡 | 1100億円 | 10月 |
| 20 | 三菱ケミカルホールディングス | 結晶質アルミナ繊維事業を米アポロ・グローバル・マネジメントに譲渡 | 850億円 | 9月 |
| 21 | 資生堂 | 米国で展開する化粧品「ベアミネラル」など3ブランドを米投資ファンドAdventに譲渡 | 770億円 | 8月 |
| 22 | 第一生命ホールディングス | 豪生保のウエストパック・ライフを子会社化 | 740億円 | 8月 |
| 23 | 片倉工業 | [不成立]MBOで株式を非公開化 | 714億円 | 11月 |
| 24 | 米フーリハン・ローキー | M&A助言国内最大手のGCAをTOBで子会社化 | 681億円 | 8月 |
| 25 | EPSホールディングス | MBOで株式を非公開化 | 625億円 | 5月 |
| 26 | 飯田グループホールディングス | ロシア最大級の林業グループを傘下に置く持ち株会社Russia Forest Products(英領バージン諸島)を子会社化 | 600億円 | 12月 |
| 27 | 日本アジアグループ | 傘下の国際航業(東京都千代田区)とJAG国際エナジー(同)を米カーライル・グループに譲渡 | 585億円 | 8月 |
| 28 | 住友商事 | チリ「シエラゴルダ銅鉱山」の権益持ち分を豪資源大手South32に譲渡 | 578億円 | 10月 |
| 29 | JSR | EUV(極端紫外線)用メタルレジストメーカーの米Inpriaを子会社化 | 565億円 | 9月 |
| 30 | 野村総合研究所 | DXサービス大手の米Core BTSを子会社化 | 523億円 | 11月 |
文:M&A Online編集部