2020年9月のM&A件数(適時開示ベース)は前年同月比8件減の61件だった。前年を下回るのは2カ月連続。前月比では7件減った。新型コロナの状況下、1~9月の累計件数では前年と同水準を維持しているものの、足元では一服感が広がってきた形だ。
そうした中、傘下の英半導体設計大手、アーム(ARM)を4.2兆円で売却するソフトバンクグループ(SBG)の案件は日本企業によるM&Aとして歴代2位となった。
例年、10~12月(第4四半期)は年間を通じて最もM&Aが集中する。今年もそのセオリーが当てはまるのか、コロナ感染の収束が見通せない中、今後3カ月の動向が注目される。
全上場企業に義務づけられた東証適時開示情報のうち、経営権の異動を伴うM&A(グループ内再編は除く)について、M&A Online編集部が集計した。
9月のM&Aの総開示件数61件の内訳は買収45件、売却16件(買収側と売却側の双方が開示した場合は買収側でカウント)。このうち海外案件は9件(買収4、売却5件)だった。
月間のM&A件数は前月(8月)に4月以来4カ月ぶりに前年を下回った。9月も前年に届かず、2カ月連続でマイナスとなったものの、9月を過去10年でみると、今年の61件は5番目で一定の水準を保っている。
また、1~9月の累計は605件で、前年同期(604件)と同水準を維持している。今年のM&A市場は新型コロナの逆風下、国境を超える海外案件が低調ながら、国内案件が底堅く推移し、件数を押し上げてきた。前年は最終的に年間841件と過去10年で最多を記録したが、9月末時点で今年もハイレベルにある。
件数にややかげりが出る中、金額面は小型化の傾向が続いている。9月の取引金額10億円超のM&Aは13件。3カ月連続で10件以上となったが、コロナ以前の月間20件前後にはほど遠い。
ただ、単発では前月に続き、9月も金額が突出する超大型案件が発生。SBGは9月14日、傘下の英半導体設計大手アームの全株式を、米半導体大手のエヌビディアに最大400億ドル(約4.2兆円)で売却すると発表した。
8月にはセブン&アイ・ホールディングスが米コンビニ大手スピードウェイを2.2兆円で買収することを決めたばかり。この結果、1~9月までの取引金額は9兆6860億円に跳ね上がり、前年同期(4兆7600億円)の2倍に達する。
SBGは2016年9月にアームを約3.3兆円で買収した。今回の売却で9000億円規模の差益を得ることになる。売却完了は2022年3月ごろを見込む。
そのSBGはさらにもう1件の売却を発表した。2014年に約1100億円で買収した携帯端末卸販売の米ブライトスターがそれだ。相手は米投資ファンド。売却金額は明らかにしていない。
金額2位はMBO(経営陣が参加する買収)を通じて株式を非公開化するキリン堂ホールディングスの案件で、最大338億円。現経営陣と協力して米投資ファンドのベインキャピタルがTOB(株式公開買い付け)を行う。ドラッグストア業界の成長が鈍化する中、株価動向にとらわれず、大胆な事業構造改革をやりやすくする。
TOBはほかに2件あった。うち1件はMBOを目的とする川金ホールディングスで、買付金額は最大約77億円。家電量販店最大手のヤマダホールディングス(旧ヤマダ電機)は注文住宅のヒノキヤグループを子会社化する。約126億円で50.1%の株式取得を目指す。
「暮らしまるごと」を旗印とするヤマダはM&Aをテコに、住宅そのものやリフォーム、住宅設備など事業領域を急ピッチで広げている。
TOBを巡っては、NTTが約4.2兆円の巨費を投じて上場子会社のNTTドコモを完全子会社する発表(9月29日)があったが、こちらはグループ内再編であることから、今回の集計には含まれない。
三菱UFJリースと日立キャピタルは2021年4月に合併することで合意した。合併新会社の総資産は10兆円超となり、三井住友ファイナンス&リース(約6兆3000億円)を抜き、業界首位のオリックス(約13兆円)に迫る。
現在業界3位の三菱UFJリースは総資産が約6兆3000億円。一方、日立キャピタルは総資産3兆7000億円の業界6位。両社は2016年に資本業務提携し、環境・エネルギーといった海外インフラ投資などで協業を進めてきた。新型コロナの影響でリース事業を取り巻く環境が厳しさを増す中、経営基盤強化に向けて統合に踏みだす。
出版分野で耳目を集めるM&Aがあった。ビーグリーが出版社5社を傘下に持つNSSK-CC(東京都港区)の全株式を取得し、子会社化することを決めた。取得金額は約53億円。
5社の中核企業である、ぶんか社(東京都千代田区)は女性向け漫画・雑誌をはじめとする総合出版社で、売上規模は約45億円。NSSK-CCは投資ファンド、日本産業推進機構(東京都港区)の系列企業。
ビーグリーはコミック配信サービス「まんが王国」で知られるが、コンテンツ販売の強化とともに、成長が続く電子書籍市場での事業拡大につなげる。
◎9月:金額上位(10億円超)のM&A案件、HDはホールディングス
1 | ソフトバンクグループ、傘下の英半導体設計大手アームの全株式を米半導体大手エヌビディアに売却(4.2兆円) |
2 | キリン堂HD、MBOを通じて株式を非公開化(338億円) |
3 | フェローテックHD、半導体ウエハー製造の中国子会社「杭州中欣晶圓半導体」を現地の地方政府などに譲渡(296億円) |
4 | ヤマダHD、注文住宅を主力とするヒノキヤグループの子会社化を目的にTOBを実施(126億円) |
5 | 小林製薬、一般医薬品メーカーの米Alvaを子会社化(114億円) |
6 | 川金HD、MBOを通じて株式を非公開化(76.8億円) |
7 | カナモト、建設機械レンタルなどの豪Porter Plant Groupを構成する持ち株会社と事業会社の計5社を子会社化(57億円) |
8 | ビーグリー、「ぶんか社」「海王社」など出版社5社を傘下に持つNSSK-CC(東京都港区)を子会社化(53億円) |
9 | SHIFT、ERP(統合基幹業務)システム導入・支援のホープス(東京都中野区)を子会社化(30.5億円) |
10 | NECキャピタルソリューション、NEC傘下の米販売金融会社NEC Financial Servicesを子会社化(26.3億円) |
11 | バンダイナムコHD、家庭用ゲームコンテンツ企画・開発のカナダReflector Entertainmentを子会社化(18.6億円) |
12 | フリービット、薬局向けサービス子会社のフリービットEPARKヘルスケア(東京都渋谷区)を日本事業承継アントレプレナーズ(東京都渋谷区)に譲渡(18.1億円) |
13 | MonotaRO、工業用間接資材販売のインドEmtex EngineeringからEコマース事業を取得(15.6億円) |
文:M&A Online編集部