【4月M&Aサマリー】50件、4年ぶりの低水準|コロナの影響くっきり

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独メーカーを200億円近くで買収する東海カーボンの本社(東京・北青山)

新型コロナウイルスの影響がM&A市場に数字となって表れてきた。2020年4月のM&A件数(適時開示ベース)は50件と前年同月を17件下回り、4月として2016年(同数の50件)以来の低い水準となった。3月比では36件の大幅減少。1~3月期は前年同期比10件増の232件と2009年以来11年ぶりの高水準を記録したが、一転、急ブレーキがかかった形だ。

M&A取引を巡っては、コロナ禍で仕掛かり案件の資産査定などに遅れが生じているうえ、緊急事態宣言の延長を受けて新規案件着手も様子見の状態が継続することが予想される。

前月から4割以上の件数ダウン

全上場企業に義務づけられた適時開示情報のうち、経営権の異動を伴うM&A(グループ内再編は除く)について、M&A Online編集部が集計した。

4月に開示されたM&A総件数50件の内訳は買収41件、売却9件(買収側と売却側の双方が開示したケースは買収側でカウント)。このうち海外案件は10件で、買収6件、売却4件(いずれも現地子会社が対象)だった。

例年、4月のM&Aは年度初めということから、さほど多いわけではない。逆に年度末の3月は年間1~2位を争うほど件数が積み上がる傾向にある。

2019年は3月82件、4月67件だったが、今年は3月86件、4月50件と30件を大きく超える開きとなり、4割以上ダウンした。コロナ問題が影響していると見られ、3月までのM&Aは予定通りに取引を完了したものの、4月以降については着手済み案件の進捗遅れや計画発表を手控える動きが広がった可能性が高い。

実際、コロナを理由として買収日程を延期する動きが出ている。ネットメディア運営のポートは4月21日、5月1日に予定していたリブセンスからの新卒就活生向け情報サイト「就活会議」の事業取得を一時的に延期することを決定。

同27日には、ヨシムラ・フード・ホールディングスがわかめ製品などの加工・販売を手がける香の芽本舗(島根県出雲市)の全株式取得の実行日を当初の5月1日から6月1日に1カ月延期すると発表した。

100億円超は1件だけ、案件サイズも小粒

4月は件数の減少もさることながら、案件サイズもぐっと小さくなった。取引金額100億円以上は1件だけ。10億円以上も4件にとどまり、最近では2018年6月(5件)以来の1ケタとなった。

金額トップは東海カーボンがフランスの炭素黒鉛製品メーカーCarbone Savoieを買収する案件。約197億円を投じて、同社の持ち株会社(パリ)の全株式を7月に取得する。欧州での事業展開を拡大する狙い。Carbone Savoieは1897年に設立し、120年の業歴を持つ。主力のアルミ精錬用電極は自動車や航空機の軽量化ニーズに加え、建材、飲料容器用などに安定した需要が見込まれている。

金額2位はミトコンドリア関連疾病などの創薬ベンチャー、英ナンナ・セラピューティクスを4月19日に買収したアステラス製薬。全株式を約15億8000万円で取得。今後、開発の進捗に応じて最大約75億円を追加で支払う取り決めで、総額は90億円規模となる。

野村総合研究所は豪金融大手のCBA銀行グループ傘下で証券管理などのバックオフィス業務を手がける豪Australian Investment Exchangeを約60億円で傘下に収めることを決めた。

国内企業同士では、三井E&Sホールディンス(旧三井造船)傘下で木質バイオマス発電事業の市原グリーン電力(千葉県市原市)を子会社化するタケエイの案件が最も大きかった。関連企業の株式取得を合わせて総額は約53億円。

◎4月M&A:金額上位(公表分のみ)

1 東海カーボン、炭素黒鉛製品メーカーの仏Carbone Savoie を子会社化(197億円)
2 アステラス製薬、創薬ベンチャーの英ナンナ・セラピューティクスを子会社化(90億円)
3 野村総合研究所、証券取引管理などバックオフィス業務を手がける豪Australian Investment Exchangeを子会社化(60.2億円)
4 タケエイ、バイオマス発電事業の市原グリーン電力(千葉県市原市)を子会社化(53億円)
5 SHIFT、パソコンのリユース事業などのエスエヌシー(大阪市)を子会社化(9.0億円)
6 INEST、ウォーターサーバー・新電力販売のPatch(東京都新宿区)を子会社化(5.3億円)
7 マーケットエンタープライズ、旺方トレーディング(鳥取市)から中古農機具の買取・販売・輸出事業を取得(2.4億円)
8 ビーロット、不動産ファンド事業を手がけるLCパートナーズ(東京都港区)を子会社化(2億円)
9 ミズノ、スポーツ記念品・観戦グッズ製造のシャープ産業(神戸市)を子会社化(1.3億円)
10 YE DIGITAL、工場自動化に関する事業を安川電機に譲渡(9000万円)
11 アイスタディ、グラフィックソフト開発のイーフロンティア(東京都港区)を子会社化(8100万円)
12 アイスタディ、介護事業者向けASPシステム提供のケア・ダイナミクス(東京都港区)を子会社化(7300万円)
13 大幸薬品、感染管理事業の台湾Fortune River Biotechからクレベリン事業を取得(5000万円)
14 高島屋、発酵惣菜など食品子会社のフードアンドパートナーズ(東京都港区)を貝印(東京都千代田区)に譲渡(4000万円)
15 アミタホールディングス、産業廃棄物リサイクルの台湾子会社の台灣阿米達を現地社に譲渡(1700万円)

トラック・農機具などリユース関連が4件

動きが目立った業種をみてみよう。

まずドラッグストア。業界で首位を争うウエルシアホールディングはクスリのマルエ(前橋市、売上高127億円。58店舗)、ツルハホールディングスはJR九州傘下のJR九州ドラッグイレブン(福岡県大野城市、売上高519億円。228店舗)の子会社化を発表した。取得金額はいずれも非公表。今年に入り、ウエルシアは初めて、ツルハは2件目のM&Aとなる。

中古品のリユース関連は4件あった。TRUCK-ONEは東南アジアに中古トラックを販売するSUN AUTO(北九州市)の子会社化、マーケットエンタープライズは旺方トレーディング(鳥取市)から中古農機具の買取・販売・輸出事業を取得することを決めた。

ヤマノホールディングスは和装品リサイクルショップ112店舗(うちフランチャイズ64店舗)を運営する東京山喜(東京都江戸川区、民事再生法を適用申請中)の事業取得に関する検討に入ると発表。また、BuySell Technologiesはバンク(東京都渋谷区)から財布やバッグ、スマートフォンなどリユース品の即時買取アプリ「CASH」事業を取得した。

グルメ杵屋、ラーメン・中華「雪村」を傘下に

外食では、グルメ杵屋がラーメン店など経営の雪村(茨城県土浦市)とセントラルキッチン運営のゆきむら亭エフシー本部(同)を子会社化。雪村は1979年に創業し、茨城県南部でラーメン「ゆきむら亭」、つけ麺「吉右衛門」、中華料理「ゆきむら」、唐揚げ「鶏一番」など35店舗を経営し、セントラルキッチン方式による地域集中出店を強みとする。

香川県や福岡県、大分県で喫茶店やレストランを経営するエージーワイ(愛媛県今治市)を子会社化したのは、ありがとうサービス。ありがとうサービスはブックオフやモスバーガーなどのフランチャイズ展開を主力とする。

文:M&A Online編集部