【2月M&Aサマリー】77件、高水準をキープ|気がかりな「新型コロナ」の行方

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独系のアリアンツ生命(東京・赤坂)を子会社化し、イオングループが生保に参入

2020年2月のM&A件数は適時開示ベースで、前年同月を1件下回る77件だった。2月として2010年以降の過去10年間で前年に次ぐ2番目の高水準。1月は過去10年間の最多(69件)で滑り出しており、年明け後も産業界のM&A意欲は依然おう盛だ。

ただ、新型コロナウイルスの感染拡大で中国景気が減速し、世界経済に不透明感が強まる中で、今後、国内M&A市場への影響が懸念される。

「1000億円超」はゼロ、MBOが3件相次ぐ

全上場企業に義務づけられた適時開示情報のうち、経営権の移転を伴うM&A(グループ内再編は除く)について、M&A Online編集部が集計した。

2月に開示されたM&Aの総件数77件の内訳は買収65件、売却12件(買収側と売却側の双方が開示したケースは買収側でカウント)。このうち海外案件は買収14件、売却2件。取引金額1000億円を超える大型M&Aは1月に続き2カ月連続でゼロだった。

金額トップは、調剤薬局事業や医業支援の総合メディカルホールディングス(HD)がMBO(経営陣による買収)を受け入れて非公開化する案件。投資会社のポラリス・キャピタル・グループ(東京都千代田区)がTOB株式公開買い付け)を行い、全株取得を目指す。買付代金は最大763億円。

この2月は総合メディカルHDに、住宅用照明器具のオーデリック(東証1部)、住宅用給排水器具のミヤコ(ジャスダック)を加え、MBOが3件に上った。いずれも創業者(家)の意向によるもので、所有と経営を一つにする狙いが込められている。抜本的・機動的な意思決定を可能にする経営体制を構築するという。

上場廃止による非公開化は敵対的買収を回避する究極の選択肢とされるが、一方で、コーポレートガバナンス(企業統治)や経営監視機能の低下につながる懸念も指摘されている。

MBOについては1月に2件発表があり、2月の3件を合わせて今年すでに5件。昨年1年間の6件に早くも並ぶ勢いとなっている。MBOに必要な代金はオーデリックが306億円、ミヤコが約20億円。

大王製紙、ブラジルの衛生用品大手を584億円で傘下に

海外案件では、大王製紙が丸紅と共同でブラジルの衛生用品メーカー大手、Santherを584億円で買収する案件が最も大きい。Santherは衛生用紙、ベビー用紙おむつ、生理用ナプキンなどを手がけ、売上高は約385億円。大王が51%、丸紅が49%を出資する特別目的会社が6月末に全株式を取得する。

ブラジルは人口増加や経済発展に伴い、衛生用品市場の高成長が見込まれている。大王は現地での大人用おつむへの参入や病院・クリニック向け製品の強化を進める。併せて、大王は約30億円を投じて、トルコの衛生用品メーカー、ウゼンの子会社化を発表した。

イオン、生命保険に参入

イオンフィナンシャルサービスはドイツ保険大手、アリアンツグループの日本法人、アリアンツ生命保険(東京都港区)を子会社化する。36億円で第三者割当増資を引き受け、株式の60%を3月末に取得する。イオンフィナンシャルは傘下にイオン銀行をはじめ、クレジットカード、住宅ローン、保険代理店などの子会社を持ち、新たに生命保険事業への参入を果たす。

アリアンツ生命は2008年に営業開始したが、販売低迷で12年以降、新規契約の取り扱いを中止し、既契約(2万件以上)の保全・管理に専念していた。イオングループ入りに伴い、新規営業を再開する方向と見られる。

資産管理会社が注目を集める?

2月は資産管理会社が一つのキーワードとなった。

一眼レフ用交換レンズ大手のタムロンは、同社創業家の資産管理会社であるニューウェル(さいたま市)の全株式を取得して子会社化する。ニューウェルはタムロン株式の約19%を保有する筆頭株主で、取得金額は144億円8200万円。株主・投資家への公平性や取引の透明性の確保の観点から、3月末に開く定時株主総会での承認を前提する。

同じく筆頭株主が保有株を放出するケースが発生したのは、エイチ・エス証券などを傘下に持つ澤田ホールディングス。投資ファンドのMETA Capital(東京都港区)はTOBで澤田HDの株式50.1%を約208億円で取得し、子会社化する予定で、澤田HD会長で筆頭株主の澤田秀雄氏(所有割合26.8%)と同氏の資産管理会社(同2.7%)はTOBに応募する意向。ただ、会社側(澤田HD)はTOBの賛否について「留保」の意見を表明しており、曲折も予想される。

米国関連は異例のゼロ

国・地域別に海外M&Aをみると、全16件中、7件がアジア。英国、ドイツ、カナダは各2件あったが、米国は珍しくゼロだった。

電炉大手の共英製鋼は、カナダのMCアルタスチールの電炉事業を約155億円で買収することを決めた。2016年に米BDビントンを買収したのに続き、北米での電炉製造拠点を手に入れる。共英製鋼は国内鉄鋼需要の縮小に対応し、海外進出を加速中で、アジアではベトナムに足場を築いている。

ツムラは、漢方製剤用原料の主要な調達先である中国の天津盛実百草中薬科技有限公司(盛実百草)を子会社化する。株式80%を約187億円で3月中に取得する予定。原料生薬の安定調達や中国での事業拡大が狙い。

国内の事業会社同士では、さつまいも加工卸販売のポテトかいつか(茨城県かすみがうら市)を139億円を投じて子会社化するカルビーの案件が最大規模。

DeNAとタクシー最大手の日本交通ホールディングス(東京都港区)はタクシー配車アプリ事業を4月1日に統合すると発表した。また、三菱マテリアルと宇部興産は2022年4月をめどにセメント事業を統合することで基本合意した。

RVH、美容脱毛「ミュゼプラチナム」など2社売却へ

売却案件で耳目を集めたのはRVH。美容脱毛サロンを展開するミュゼプラチナム(東京都渋谷区)、エステティックサロン「たかの友梨ビューティクリニック」を運営する不二ビューティ(東京都港区)の美容サロン子会社2社を手放す。両社は連結売上高の約85%を占めており、譲渡によって売上高(2019年3月期587億円)は激減する。

RVHは4月に開く臨時株主総会特別決議の対象議案として2社の譲渡を付議する。譲渡先はG.Pホールディングス(東京都新宿区)。同社は高野(たかの)友梨氏が代表を務め、実は譲渡対象2社のうち、不二ビューティの元親会社

経営再建中の三井E&Sホールディングス(旧三井造船)は、子会社が大分市内で手がける太陽光発電事業を譲渡する。持ち分の51%を放出するが、譲渡先、譲渡額は非公表。同じく再起を期す千代田化工建設も子会社が展開するIT事業をTISに約4億円で譲渡を決めた。

◎2月のM&A:取引金額上位(10億円以上)

<買収案件>
1 総合メディカルホールディングス、MBOで非公開化(763億円)
2 大王製紙と丸紅、ブラジルの衛生用品メーカーSantherを買収(584億円)
3 オーデリック、MBOで非公開化(306億円)
4 META Capital、澤田ホールディングスをTOBで子会社化(208億円)
5 ツムラ、漢方製剤用原料を生産する中国「盛実百草」を子会社化(187億円)
6 共英製鋼、カナダのMCアルタスチールから電炉事業を取得(155億円)
7 タムロン、創業家の資産管理会社ニューウェル(さいたま市)を子会社化(144億円)
8 カルビー、さつまいも加工卸販売のポテトかいつかを子会社化(139億円)
9 博報堂DYホールディングス、台湾広告大手GROWWW MediaをTOBで子会社化(67億円)
10 イオンフィナンシャルサービス、独系のアリアンツ生命保険(東京都港区)を子会社化(36億円)
11  ソラスト、大分県の介護サービス大手の「恵み会」を子会社化(33.7億円)
12 生化学工業、カナダの医薬品製剤開発・製造受託Daltonを子会社化(33.2億円)
13 大王製紙、トルコ衛生用品メーカーのウゼンを子会社化(30億円)
14 三井金属鉱業、JX金属との銅精錬事業見直しに伴い日比製煉(東京都品川区)を子会社化(28億円)
15 三菱ガス化学、持ち分法適用関連会社の日本ユピカをTOBで子会社化(25.5億円)
16 ミヤコ、MBOで非公開化(19.8億円)
17 アインホールディングス、病院内売店を運営するシダックスアイ(東京都調布市)を子会社化(15億円)
18 全国保証、東和銀行傘下の東和信用保証(前橋市)を子会社化(13.6億円)
19 G-7ホールディングス、ミニスーパー「miniピアゴ」運営の99イチバ(横浜市)を子会社化(12.6億円)
20 UTグループ、ベトナムの人材派遣会社Green Speed Joint Stock Companyを子会社化(12.3億円)
<売却案件>
1 RVH、ミュゼプラチナムと不二ビューティの2美容子会社をG.Pホールディング(東京都新宿区)に譲渡(78億円)
2 リアルワールド、子会社が手がけるポイントサービス「Gendama」をサイブリッジグループ(東京都港区)に譲渡(36億円)
3 デサント、オフロードシューズ「イノヴェイト」製造の海外子会社(英国王室属領国マン島)を創業者に譲渡(10億円)

文:M&A Online編集部