【M&Aサマリー4月】7カ月連続で増加、国内案件で1年ぶりに「1000億円」出現

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東証「適時開示」ベースで、2019年4月のM&Aは前年同月比16件増の67件と、昨年10月以降7カ月連続で前年を上回った。前月(3月)比では15件減った。海外M&Aが23件と全体の3分の1を占め、なかでも売却案件が中国を中心に9件に上った。

金額トップは豪州の塗料メーカー最大手デュラックスの買収を発表した日本ペイントホールディングス(HD)の3005億円。日本企業によるM&A案件として今年最大となる。また、日本電産が発表したオムロンオートモーティブエレクトロニクス(愛知県小牧市)の買収は国内企業同士として1年ぶりの1000億円を超えるM&Aとなった。

海外子会社売却9件と突出

東証適時開示は全上場企業に義務付けられた「重要な会社情報の開示」をいい、このうち経営権の異動を伴う案件(グループ内再編は除く)についてM&A online編集部が集計した。

4月のM&Aの総開示件数67件の内訳は買収51件、売却16件(買収側と売却側の双方が開示したケースは買収側でカウント)。海外案件をみると、買収が14件と2ケタを維持する一方、これまで毎月数件ペースで推移してきた現地子会社の売却が9件と突出した。

売却案件の国・地域は中国5件(香港含む)、台湾、インド、ベトナム、ドイツ各1件で、中国を中心にアジアが大半を占めた。中国進出の日本企業による現地子会社の売却は1~3月は各月1件だったが、4月は5件に跳ね上がった。

具体的にはTSIホールディングス(レディースアパレル)、ヤマト インターナショナル(アパレル)、タマホーム(注文住宅)、KTC(作業用工具)、日東紡(繊維)がそれぞれ現地子会社を売却した。人件費上昇や人民元高の進行など競争力低下に伴う収益悪化を主な理由としている。

日本ペイント、豪とトルコの同業大手を傘下へ

日本ペイントHDが3005億円(37億5600万豪ドル)を投じて完全子会社化する豪デュラックスの買収は、今年に入ってトップだった第一生命ホールディングスの1300億円(米生保グレートウェストの保険事業の一部を取得、1月発表)を大きく上回った。豪証券取引所に上場するデュラックスは建築用塗料に強みを持ち、売上高は約1480億円。8月中に買収完了を見込む。

豪社を約3000億円で買収へ

日本ペイントHDはこれまで欧米や中国の有力塗料メーカーを相次ぎ買収し、グローバル展開を進めてきた。2017年には約700億円で米ダン・エドワーズを傘下に収めたが、今回の豪社買収は同社として過去最大。買収金額は連結売上高(2018年12月期6276億円)の5割近くに相当する。

同社は別にもう1件の海外M&Aを発表した。トルコの建築用塗料大手、ベテックボイヤ(売上高約330億円)を6月に買収する。ただ、買収金額は非公表。

リログループ、カナダ社を230億円で子会社化

海外買収で日本ペイントHDに次ぐのがリログループ。カナダのリロケーション大手、ブルックフィールドRPSを5月中に買収することを発表した。買収額は230億円。

ブルックフィールドは世界8カ国14カ所に拠点を構え、海外赴任に伴う移転・引っ越しや留守宅管理などのリロケーション事業をグローバルに手がける。リログループは同社の子会社化により、北米をはじめ欧州、アジアでのサービス体制を確立し、日本企業の世界展開を後押しする。

◎M&A:金額上位案件(10億円以上)

<買収案件>
1 日本ペイントホールディングス、豪州の塗料最大手デュラックスを子会社化(3005億円)
2 日本電産、車載電装部品メーカーのオムロンオートモーティブエレクトロニクス(愛知県小牧市)を子会社化(約1000億円)
3 コーナン商事、LIIXIL系の建築資材卸売、建デポ(東京都千代田区)を子会社化(240億円)
4 リログループ、カナダのリロケーション大手ブルックフィールド RPSを子会社化(230億円)
5 バンドー化学、整形外科向け医療機器メーカーのAimedic MMT(東京都港区)を子会社化(105億円)
6 丸全昭和運輸、港湾運送の国際埠頭(横浜市)を子会社化(74億円)
7 西尾レントオール、大型発電機レンタルのシンガポールUNITED POWER&RESOURCESを子会社化(46.1億円)
オイシックス・ラ・大地、「ビーガン食」料理キット宅配の米Three limesを子会社化(23.5億円)
ダイサン、足場工事のシンガポールMiradorグループ3社を子会社化(17.4億円)
10 ヨシムラ・フード・ホールディングス、冷凍水産加工のシンガポールPACIFIC SORBYを子会社化(16.2億円)
11 長野計器、スイスの温度測定機器メーカーRueger Holdings SAを子会社化(11.3億円)
<売却案件>
1 FHTホールディングス、子会社のエリアエナジーが運営する5カ所の太陽光発電所をコマネチ(東京都港区)に譲渡(27億円)

日本電産、オムロン子会社を買収「車載」強化

日本電産が約1000億円で買収するオムロンオートモーティブエレクトロニクス(OAE)はオムロンの子会社。国内M&Aで1000億円級の大型案件は、伊藤忠商事が昨年4月、ユニー・ファミリーマートホールディングス(9月1日にファミリーマートに社名変更予定)の子会社化を目的に1200億円でTOB株式公開買い付け)を発表して以来1年ぶり。

OAEは1983年にオムロン車載電装事業部として発足し、2010年に分社した。日本電産は自社のモーター事業と組み合わせ、CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)に代表される自動車業界の技術革新やビジネスモデルの変革への対応力を強化する。10月をめどに買収を完了させる。

4月は100億円超のM&Aが5件あり、うち3件が日本電産を含めて国内企業同士の案件。ホームセンター大手のコーナン商事はLIXIL系の建築資材卸売の建デポ(東京都千代田区)を6月に子会社化する。投資ファンドのユニゾン・キャピタルと建材・住宅設備最大手のLIXILが保有する全株式(約98%)を240億円で取得する。

コーナンは重点出店エリアの首都圏での事業基盤を拡充する。建デポは建築・土木や電気工事などのプロ向け会員制卸売66店舗を持ち、関東を地盤とする。コーナンは全国356店舗(2月末)を展開するが、首都圏では40店強にとどまる。

バンドー化学は整形外科向け医療機器メーカーのAimedic MMT(東京都港区)の全株式を投資ファンドのポラリス・キャピタル・グループから105億円で取得し、子会社化する。バンドーは伸縮性ひずみセンサーを活用した医療・ヘルスケア機器事業の育成に取り組んでいる。

オイシックス、米国で事業展開へ

海外買収をみると、14件中、シンガポール3件、米国、トルコ、中国各2件などの順。

シンガポールでは、西尾レントオールが大型発電機レンタルを手がけるUNITED POWER&RESOURCES(買収額46.1億円)、ダイサンが足場工事のMirador(同17.4億円)、ヨシムラ・フード・ホールディングスが冷凍水産加工のPACIFIC SORBY(同16.2億円)をそれぞれ子会社化する。

オイシックス・ラ・大地はビーガン(絶対菜食主義者)食料理キットの宅配サービスを展開する米Three Limesを23.5億円で買収することを決めた。オイシックスは会員制食品宅配の国内最大手。買収を足がかりに米での事業展開に乗り出す。

トルコでは日本ペイントHDのほか、博報堂DYホールディングスが現地デザインコンサルティング会社であるAtölye( アトリエ)の子会社化を発表した。

組織運営コンサルティング業務の識学は2月に東証マザーズに上場したばかりだが、同社初のM&Aを発表した。M&A仲介のTIGALA(東京都港区)から月額制M&A法人コンサルティング事業を6月に買収する。

ユナイテッド、仮想通貨参入を中止

主な売却案件はどうか。FHTホールディングスは子会社を通じて北海道や宮崎県など5カ所で運営する太陽光発電所を、情報処理業務などのコマネチ(東京都港区)に27億円で売却する。

また、ユナイテッドは仮想通貨関連事業への参入を準備中だった子会社のコイネージ(東京都渋谷区)を、投資会社のコイネージ投資(同)に売却した。金額は非公表。ユナイテッドは2017年にコイネージを設立したが、仮想通貨をめぐる事業環境の悪化を受けて、参入準備を中止した。

アジア開発キャピタルは中国在住の顧客を対象とする越境EC(電子商取引)サイト「銀聯在線商城日本館」の管理・運営事業を、ECサイト制作のCreative Forest(東京都中央区)に3000万円で譲渡することを決めた。

文:M&A online編集部