M&Aの相続対策で有効な手立ての一つが「持ち株会社」。上手に活用するためのポイントとは?
後継者不在で将来M&Aの可能性がある場合、持ち株会社方式にしておけば、キャピタルゲイン(株式売却益)は持ち株会社の収入となる。
個人でキャピタルゲインを得た場合、譲渡所得税20.315%の分離課税になる一方、持ち株会社はキャピタルゲインに法人税は33.6%の課税関係になる。
持ち株会社の方が一見不利に見えるが、対策は十分実行可能だ。例えば、キャビタルゲインを原資に役員退職金を支給し、収入と相殺できれば、法人税などはゼロになり、大きな税効果を得られる。
また、後継者の存在があっても、息子などの同族ではなく、非同族である場合、持ち株会社は有効だ。
本業の事業法人は持ち株会社の傘下になるため、 本業の事業法人の社長を非同族の後継者が務めたとしても、 経営支配権は創業家にある。本業の事業法人の社長はいわば “雇われ社長” に過ぎない。
つまり、所有と経営の分離を追求しながら、本業の事業法人を運営できるのだ。 この形態であれば、 持ち株会社は本業の事業法人から株主配当を得ることができる。
そして、本業の事業法人が持ち株会社の完全子会社に該当すれば、 受取配当金が100%益金不算入(法人税などがゼロ) となり、持ち株会社で税効果を得ることができる。
もし新事業承継税制を活用し、自社株を無税で非同族の後継者に承継すれば、 株主配当などの創業者利益を完全に放棄することになりかねない。持ち株会社形式であれば、創業者利益を永統的に確保できるシステムを手にできるのだ。
例えば、オーナー経営者の子供が1人しかおらず、その子供は本業にノータッチだったとする。そうすると、その子供が本業の社長に就任することは不可能だろう。
しかし、持ち株会社の社長であれば、本業についての立ち入った判断能力がそれほど必要とされるわけではないので、たとえ本業には詳しくなくても十分に務められる可能性がある。
では、この相続後もいろいろメリットがある持ち株会社であるが、どのように作れば良いのか。持ち株会社を新設する際に多用されるのは「株式移転」。株式移転とは、本業の事業法人の株式を新しく設立した法人に取得させる方法になる。この際、課税関係が生じない設計にするには、以下の適格要件を満たす必要がある。
1.完全親会社の株式のみが交付されること(現金で支払わないこと)
2.完全支配、または支配関係にある会社間で行われていること
既存の法人の子会社化を通じ、持ち株会社の形態にする場合は「株式交換」が使われる。
適格要件については株式移転と同じ考え方だが、株式交換と株式移転は親会社が既存の法人か、新設の法人かという点で異なるため、 注意が必要となる。
次に、持ち株会社を作った後、 どのように運営していくかが重要になる。
前述のように、毎決算期に本業の事業法人(子会社)から株主配当を得ることができるが、利益配分のルールをあらかじめ決めておくのが大事なポイントになる。特に子会社の社長として非同族の人間を指名する場合、ウィンウィンの良好な関係性を長期にわたって築くためにも不可欠だ。
子会社が内部留保を積み増していけるように例えば、税引後利益の15%のみを株主配当にあてるという方法がある。
さらに「利益の三分法」という考え方もある。税引後利益の最初の 3分の1を株主配当、次の3分の1を子会社社長に対する還元(社用車購入や退職金積立目的の経営者保険加入など)、最後の3分の1を子会社の内部留保にするというものだ。
こうすれば、子会社の社長のモチベーションも上がるとともに、持ち株会社で創業者利益を安定的に確保できる。持ち株会社(創業家) と子会社(非同族の社長)との間でウィンウィンの組織体制を築くことが可能になるわけだ。
また、本業の事業法人(子会社) が自社ビルを保有する場合、持ち株会社に売却することを検討した方が得策。持ち株会社は子会社から家賃収入を得ることもできる。
ここで具体例を一つ紹介したい。某百年企業の4代目社長は子どもがいなくて、後継者問題を抱えていた。そんなときに、大手企業から M&Aの話が舞い込んできた。
ただ普通に会社を売却するだけでは、キャピタルゲインを一時金で受け取るだけで終わってしまう。そこで、M&Aの話を本格的に進める前のインフラ整備として、株式移転の手法で持ち株会社を設立し、自社ビルを持ち株会社へ売却した。
そのうえで、M&A交渉に臨み、従来からの自社ビルの継続使用に加え、創業家の法人(旧持ち株会社)に毎月テナント家賃を支払うことを会社売却の付帯条件にした。その結果、M&A後も家賃収入という創業者利益の永続的な確保の実現につながる。
持ち株会社経営は、どんな時代が来ても、誰が後継者になっても、自社が永続する企業体として長寿企業の道を歩んでいける可能性を秘めている。
文:M&A Online編集部