海外M&Aに異変! 日本企業が買い手の「アウトバウンド型」が大失速

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2022年上期…海外M&Aの主役を務めたソニーグループと日立物流(いずれも都内の本社前)

日本企業の海外M&Aに異変が起きている。2022年もほぼ前半戦を終えたが、日本企業が買い手となるアウトバウンド型取引はここまで35件(適時開示ベース、6月24日時点)と前年を3割下回る。一方、外国企業が買い手となるインバウンド型取引は32件と前年並みで、アウトバウンド型と僅差で並ぶ。昨年まで日本企業による買収が圧倒的に優勢だったが、今年は形勢が逆転しかねない状況なのだ。

ウクライナ危機による地政学リスクの高まりや急激な円高が足かせになり、日本企業の海外M&A投資に急ブレーキがかかっている。また、過度な円安の定着は今後、「日本買い」を招くリスクをはらむ。

アウトバウンドとインバウンドがほぼ拮抗

2022年のM&A件数は433件(6月24日時点)で、前年(431件)と並ぶ横ばい圏。ただ、内訳をみると、国内M&Aが前年比20件増の366件と好調をキープしているのに対し、海外M&Aは同18件減の67件と下降線をたどり、好対照をなす。

海外M&Aはコロナ禍初年の2020年に大きく落ち込み、昨年来、回復途上にあった。しかし、今年に入り、ロシアのウクライナ侵攻、それに急激な円安が続き、経済環境が一変。国境をまたぐ海外M&Aに慎重姿勢が一気に広がった形となっている。

海外M&Aが低調に推移する中、その最大の要因となっているのが日本企業による買収案件、つまりアウトバウンド型の不振だ。この結果、アウトバウンド型が35件(前年50件)、外国企業が買い手となるインバウンド型が32件(同35件)と上期段階ながら、両者がほぼ拮抗するという前例のない展開となっている。

海外M&A、初の主客転倒を許すか?

日本企業による海外企業の買収が本格化したのは1990年代。以来、アウトバウンド型が終始、インバウンド型を圧倒してきた。過去10年の海外M&Aの件数をみても、コロナ前までアウトバウンド型がインバウンド型の概ね3倍で推移している。

コロナ禍を境に、日本企業の間で中核事業と非中核事業を選別する動きが加速したのに伴い、外国企業が買い手となるインバウンド型のウエートが次第に増しているが、それでも2020年、21年はアウトバウンド型の優位は揺るがなかった。

それが一転したのが2022年。新型コロナによる行動制限が解除され、経済活動が再開されたにもかかわらず、海外M&Aは牽引役のアウトバウンド型が失速し、低空飛行を余儀なくされているのが現下の情勢だ。

ウクライナ危機は出口がいぜん見えず、円安も日米の金利差などから容易に解消に向かう状況にない。こうした中、アウトバウンド型が不振を脱することができなければ、インバウンド型との主客転倒を許す前代未聞の事態も予想されるだけに、下期の動向ががぜん注目される。

◎2022年上期:主なアウトバウンド型M&A(金額上位)

買い手 内容 金額 発表
1 ソニーグループ 米国ゲーム開発会社バンジーを買収 4140億円 2月
2 横浜ゴム スウェーデンの農機タイヤメーカー、トレルボルグを買収 2672億円 3月
3 日本製鉄 タイの電炉メーカー大手のGスチールとGJスチールを買収 880億円 1月
4 日東電工 英国包装・製紙大手のモンディから衛生材料事業を買収 804億円 2月
5 積水ハウス 米国の戸建住宅会社チェスマー・ホームズを買収 687億円 6月

◎2022年上期:主なインバウンド型M&A(金額上位)

買い手 内容 金額 発表
1 米ベインキャピタル 日立物流をTOBで非公開化 4442億円 4月
2 米KKR 不動産運用の三菱商事・ユービーエス・リアルティ(東京都千代田区)を買収 1157億円 3月
3 米キヤリア 東芝の空調子会社、東芝キヤリア(川崎市)を買収 1000億円 2月
4 アクゾ・ノーベル(オランダ) 関西ペイントからアフリカの塗料子会社2社を買収 585億円 6月
5 米クロスビー 吊り具メーカーのキトーにTOBを行い、経営統合 564億円 5月

文:M&A Online編集部