現物出資によるM&Aとは何ですか?

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会社を買収したいときには、支配権を獲得することになります。支配権を獲得するためには、会社の株式を何らかの形で取得しなければなりません。

この株式取得方法の1つに、現物出資があります。この記事では、M&A手法の一形態のうち、現物出資について取り上げてみたいと思います。

現物出資とは?

現物出資とは、その名のとおり現物を出資することをいいます。お金ではなく不動産や有価証券などの現物そのものを出資することにより株式取得をするということです。

現物出資は、金銭的価値に変換することができる財産であれば基本的にはどのような財産でもすることができます。不動産や有価証券以外にも、商品、債権、機械装置、特許権などの財産による出資が考えられます。

会社分割や合併は権利義務を包括的に承継するのに対し、現物出資は権利義務を個別に承継します。

現物出資は検査役の調査が必要

現物出資の「現物」は株式の対価となるため、現物の金銭的価値を知る必要があります。財産の価格は会社定款に記載されますが、価格が過大に評価されないように、出資される財産については検査役の調査が必要です。

会社は、定款に現物出資などの変態設立事項がある場合には、裁判所に検査役の選任を申し立てなければなりません(会社法第33条)。検査役は、現物財産の価格を調査して、その結果を裁判所に報告します。

ただし、次のいずれかに該当する場合は検査役の調査が不要とされます(会社法第33条第10項第1~3号)。
①現物出資財産の総額が500万円以下の場合
②現物出資財産が市場価格のある有価証券である場合
③現物出資財産の価額の相当性を弁護士、公認会計士、税理士等の照明を受けた場合(不動産の場合は、さらに不動産鑑定士による鑑定評価が必要)

現物出資の検査役の調査は手間がかかるので、できれば省略できるようにしたいものです。

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できれば省きたい検査役の調査

現物出資に関する税金

どの手法を利用する場合でも、税負担についての理解が必要です。現物出資する場合の税金にはどのようなものがあるのか見ていきましょう。

(1)所得税、法人税
個人が現物出資する場合は、現物出資財産を時価で譲渡したとして含み益に所得税が課税されます。

法人が現物出資する場合は、組織再編成税制が適用されることになります。適格現物出資とされる場合には、課税が繰り延べられ、非適格現物出資とされる場合には時価譲渡として含み益に法人税が課税されます。

適格現物出資とは、現物出資する法人に株式のみが交付される現物出資で、次のどれかに該当する現物出資です。
①100%の資本関係がある会社間の現物出資
②50%超の資本関係がある会社間の現物出資
③共同で事業を営むことを目的とした現物出資

出資といえども、会社に現物が譲渡されることに変わりはありませんので、出資時に含み益があれば課税が発生することがありますのでご注意ください。

(2)消費税
現物出資は、資産の譲渡として消費税の課税対象となります。現物財産が消費税の課税対象となる資産であれば、消費税も課税されます。合併や分割などの組織再編成は非課税ですので、両者の違いに留意する必要があります。

(3)登録免許税、不動産取得税
現物出資する財産が不動産であるときは、登録免許税と不動産取得税も発生します。不動産取得税には現物出資により法人を新設する場合の特例があり一定の要件を満たすときには非課税となります。

現物出資としてのDES

買収したい会社に、オーナーからの役員借入金が残っているケースが中小企業ではよくあります。そんなときは、役員借入金をDESにより資本金へ振り替えてから、M&Aに入っていくことが考えられます。

DESとは、Debt Equity Swapの略称で、債務(Debt)と資本(Equity)を交換する(Swap)ことをいいます。これにより、オーナーの会社に対する貸付金を株式に変えることができます。

DESには、「現物出資型」と「金銭出資型(疑似DES)」があります。現物出資型はすでに貸し付けている債権を資本化する手法です。それに対して、金銭出資型は、債権者が金銭出資をしたあとにその金銭で借入金を返済する手法です。これにより、DESと同じような効果が得られるため、「疑似DES」と呼ばれます。

DESのうち金銭出資型による場合には、お金が実際に動きますので準備が必要となる点に注意してください。また、税務上の難しい論点も色々とあるので、DESを行う場合には、必ず税理士等の専門家に相談することをおすすめします。

税務署
現物出資する場合の税金にも注意しよう

文:藤本江里子/編集:M&A Online編集部