大型M&Aが最高潮、12月だけで年間トップ10に4件ランクイン

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日本企業として今年2番目の大型買収を決めた昭和電工(東京・芝大門の本社)

年の瀬を迎えて、M&A市場が最高潮の盛り上がりを見せている。12月公表分だけで、今年の年間ランキングのトップ10に入る大型買収案件が4件に上り、9640億円で日立化成を子会社化する昭和電工をはじめ、アステラス製薬、いすゞ自動車、富士フイルムホールディングスと買い手には錚々たる顔ぶれが並ぶ。次点(11位)にはHOYAが食い込む。1年を締めくくる12月は例年、大型M&Aが集中するが、今年はその傾向が顕著に表れた形だ。

アステラス製薬が3200億円で先陣

先陣を切ったのがアステラス製薬。12月3日、米バイオテクノロジー企業のオーデンテス・セラピューティクスを買収すると発表した。買収金額は約30億ドル(約3200億円)で、この時点で今年5位にランクインする大型案件だった。

オーデンテスは2012年に設立した米ジャスダック上場の新興企業。アステラスはTOB株式公開買い付け)を行い、2020年1~3月の買収完了を見込む。今後の成長領域と位置づける遺伝子治療薬事業を強化するのが狙い。

HOYA…“幻のTOB”の可能性も

「すわっ、争奪戦か」。こんな声が飛び交ったのが東芝グループの半導体製造装置メーカー、ニューフレアテクノロジーに対するHOYAのTOB計画(13日発表)。実はニューフレアを巡っては東芝が親子上場解消の一環として完全子会社化を目的とするTOBを12月25日まで実施中で、HOYAが敵対的TOBを仕掛ける構図となったのだ。

HOYAは東芝のTOBが不成立になった場合に、2020年4月をめどにTOBを開始する予定。最大1477億円を投じて完全子会社化を目指す。その場合も、ニューフレアの株式52%強を保有する東芝がHOYAのTOBに応じることが前提条件となる。HOYAはニューフレア株の買付価格について、東芝側を1000円上回る1万2900円を提示した。

東芝のTOB実施中に対抗TOBを発表した理由について、2017年から協業に関する話し合いを複数回打診したにもかかわらず、回答がなかったためとしている。ただ、東芝のTOBが成立すれば、HOYAの案件は“幻のTOB”となる。

◎2019年M&A:金額上位10傑(青字は12月公表分)

1 アサヒグループHD、豪ビール大手カールトン&ユナイテッド・ブルワリーズを子会社化(1兆2096億円)
2 昭和電工、日立化成をTOBで子会社化(9640億円)
3 ソフトバンク、インターネット検索大手のヤフー(現Zホールディングス)を子会社化(4564億円)
4 ヤフー(現Zホールディングス)、衣料品通販サイトのZOZOをTOBで子会社化(4007億円)
5 東京センチュリー、米航空機リース大手のアビエーション・キャピタル・グループを子会社化(3213億円)
6 アステラス製薬、米バイオ企業のオーデンテス・セラピューティクスを子会社化(3200億円)
7 日本ペイントHD、豪の塗料最大手デュラックスグループを子会社化(3005億円)
8 いすゞ自動車、ボルボ子会社のUDトラックスを子会社化(※2500億円程度)
9      大日本住友製薬、欧州の創薬ベンチャーであるロイバント・サイエンシズ(英、スイスに本社)の新薬開発子会社5社を買収(2240億円)
10 富士フイルムHD、日立製作所から画像診断関連事業を取得(1790億円)
次点 HOYA、ニューフレアテクノロジーをTOBで子会社化(1477億円)

※いすゞ自動車の買収金額は未確定。事業価値に基づく。HDはホールディングス。

昭和電工が9640億円で日立化成を買収

ハイライトが訪れたのは18日、3件の大型M&Aが集中した。

昭和電工は日立製作所傘下で東証1部上場の日立化成をTOBで完全子会社化すると発表した。買収金額は9640億円。今年の日本企業がかかわるM&Aとして、豪ビール大手の約1兆2000億円で買収するアサヒグループホールディングスに次ぐ2番目の規模だ。

日立化成は1962年に日立から分離独立し、半導体や自動車電池などに使われる機能材料に強みがある。昭和電工は電子材料用高純度ガスやハードディスク、黒鉛電極などの製造を手がける。子会社化後、昭和電工の連結売上高は1兆7000億円規模となり、三井化学と入れ替わり、三菱ケミカルホールディングス、住友化学に続く化学業界3位に躍進する。

親会社の日立は51%強の全保有株式を約4900億円で売却する。同じ日、その日立は画像診断関連事業の売却も発表した。

買い手はヘルスケア事業の拡大を急ぐ富士フイルムHD。買収金額は1790億円で、日立が展開するCT(コンピューター断層撮影装置)、MRI(磁気共鳴画像装置)、超音波診断装置などの製品群を取り込む。富士フイルムHDは11月初めに、いったん合意しながらその後1年半にわたって混迷状態にあった米ゼロックスの買収を断念したが、M&A路線が健在なことを改めて印象づけた。

いすゞ、ボルボ子会社のUDトラックスを傘下に

もう一つは、いすゞ自動車。スウェーデンの商用車大手ボルボの子会社であるUDトラックス(旧日産ディーゼル工業、埼玉県上尾市)の買収で、2020年末までに完全子会社化を目指す。買収金額は今後精査するが、いすゞはUDトラックスの事業価値について2500億円程度と見積もっている。

乗用車だけでなく、商用車分野でも電動化や自動運転など「CASE」と呼ばれる先進技術への対応が急務で、協業を推し進める。UDトラックスは旧日産ディーゼル工業時代の2007年にボルボの傘下に入り、2010年に現社名に変更した。

ちなみに、昨年12月は買収金額1000億円超の案件は4件あり、このうち日立製作所がスイス重電大手ABBから送配電事業を取得(7140億円)、大正製薬ホールディングスが一般医薬品の仏UPSAの子会社化(1823億円)が年間ランキングの3位と9位に入った。

今年12月の1000億円超の大型案件はすでに5件と、月別でも10月の4件を上回る今年の最多。2019年も残すところ実質的に1週間だが、駆け込みでトップ10に食い込むM&A案件が出てくるのか。

文:M&A Online編集部