いまさら聞けない組織再編とは

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いまさら聞けない組織再編とは

平成13年度に導入された組織再編税制は、平成29年度、30年度の税制改正を経て、今まで指摘されていた問題点の多くが修正され、とりあえずひと通り完成したと言われています。

組織再編税制が施行されてから20年近くが経過し、今では大企業のみならず中小企業でも利用されるようになりました。

そこで、いまさら感はありますが、今回は組織再編税制の基礎の基礎を解説し、「そもそも組織再編とは何なのか?」や「組織再編税制は何のためのものなのか?」を理解していただこうと思います。

組織再編税制が導入された背景

平成3年にバブル経済が崩壊して以降、日本は「失われた20年」といわれる経済の長期後退局面に突入していきました。多くの企業が倒産していく中、企業の経営効率を向上させ、後継者不足を解消するための事業承継を効果的に進めるために導入されたのが「組織再編税制」だったのです。

そもそも「組織再編」って?

ところで、そもそも「組織再編」とは何のことを指すのでしょうか?

一般的には企業組織の効率化のために、会社の組織を大きく変更することを「組織再編」といいます。主に組織を分割(分社化)・合併することを指しますが、会社法ではもう少し細かく規定しています。

会社法上の「組織再編」は、

・組織変更
・合併
・会社分割
・株式交換 及び 株式移転

の4種類に分類されています。

〇4つの組織再編行為

組織変更 法人としては同一でありながら株式会社から持分会社、持分会社から株式会社へ会社組織を変更することをいいます。
合併 2社以上の会社が契約を結び、その全部(又は一部)の会社が消滅するとともに、消滅した会社の権利や義務が存続会社(もしくは新設会社)に承継されることをいいます。
 
会社分割 事業で有している権利や義務の全部(又は一部)を切り離し、他の会社に承継させることをいいます。
株式交換 及び 株式移転 完全親会社・子会社の関係を作るために、完全子会社となる会社の株式を完全親会社となる会社が取得することをいいます。

組織再編を行うのは何のため?

会社が新規事業に参入する場合や競争力を強化する場合など、さまざまな局面において会社組織そのものを適正なものに作り替えてしまった方が、経営上、有利に働くことがあります。

どの手法を用いて組織再編を行うかは、再編する側のニーズによって変わります。

〇スキーム別のメリット

合併 管理部門などの統合によるコストダウンやノウハウや技術の共有にともなうシナジー効果が起こりやすい
会社分割 企業再生などのスキームを組みやすく、転籍する従業員に対する個別の同意も不要で、権利や義務の全てを包括的に継承することができる
株式交換 組織統合が不要で子会社の全株式を取得できるため、手続きにかかる時間が早く株式交換によるシナジー効果が早期に見込める
株式移転 株式交換と同様、早期のシナジー効果が期待できる上に、課税の繰り延べもできる

では次に、組織再編における税金(組織再編税制)について考えてみましょう。

組織再編税制とは

組織再編を促進させるために新たに創設・整備されたのが「組織再編税制」です。

組織再編と法人税

ひとつの会社を2つに分割する場合や、2つあった会社をひとつにまとめると一体何が起こるでしょうか?

答えは「資産の移動」です。

組織再編に伴い会社が所有している資産が移動すると、移動前の資産は「簿価」で計上されていますが、移動後の資産は「時価」で承継されます。この差額(譲渡損益)に対して課税されるのが、法人税です。

では、株式交換などにより完全子会社を取得した場合はどうなるでしょうか?

完全子会社となった会社の資産は、完全親会社には移動しません。しかし合併の場合と同じく、完全親会社は完全子会社を取得したとみなされるため、完全子会社の資産も「時価」で評価しなければなりません。含み益があれば当然、課税対象になります。

条件さえ合えば納税額が0円に?

組織再編に対する課税の考え方は、上記で述べた通りですが、組織を作り替えるだけで課税対象となってしまうのでは、組織再編が全く進みません。

そこで、ある一定条件(「税制適格要件」といいます)を満たした場合には、譲渡損益の繰り延べや被合併会社の繰越欠損金、すなわち過去の税務上の累積赤字の承継が認められることになりました。

この、組織再編税制で優遇措置を受けるための「税制適格要件」とは、具体的に何を指すのでしょうか?

論点が複雑になるためポイントだけをお話しすると、組織再編後に会社の支配関係が維持されているものは「適格」となります。そして、その関係が強ければ強いほど適格であるために満たさなくてはならない要件は少なくなります。

逆に組織再編後に会社の支配関係が薄くなればなるほど、適格を満たすための要件は増え、最終的には要件を満たすことが難しく「不適格」となってしまいます。

組織再編税制は、一歩間違うと租税回避のスキームとして利用される恐れがあります。

実態は単なる会社の売買(M&A)であっても、組織再編のように見せかけて組織再編税制を利用できるようになってしまうと税の不均衡が起きてしまい、本来払うべき税金が0円で済んでしまう可能性があります。そうした問題を防ぐために、税制適格要件はかなり細かく規定されているのです。

ITの加速により、世界はより狭くなり、ビジネスのスピードも加速しています。刻々と変わる外部環境に対応していくためには、組織そのものを状況に合わせて再編していくことが求められています。

組織再編税制はそのようなニーズを満たすために作られたものであり、要件さえ満たせば税務上の優遇措置を受けることが出来るのです。

文:M&A Online編集部