M&A仲介3社の決算書分析-日本M&Aセンター、M&Aキャピタルパートナーズ、ストライク

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M&A仲介3社の決算書分析

当サイトでは、従前からM&A戦略を展開している企業やその対象企業の分析記事を公開しているが、今回は、そのような企業をサポートしているM&A仲介会社の決算がどのようになっているのかにスポットを当ててみたい。

近年、特に件数が増加している中小企業のM&Aに強い日本M&Aセンター<2127>、M&Aキャピタルパートナーズ<6080>、ストライク<6196>の上場企業3社における決算内容を概観してみよう。

売上190億円を突破!好調が止まらない日本M&Aセンター

日本M&Aセンターの業績は好調のひと言に尽きる。同社が16年3月期に策定した中期経営計画では19年3月期の経常利益100億円達成を目標とし、その足掛かりとして17年3月期の経常利益80億円を予想していたが、ふたを開けてみると、それを大きく上回る経常利益90億円を記録した。この増益ペースは実に7年連続となる。

日本M&Aセンター(単位:百万円)

決算 2013年3月期 2014年3月期 2015年3月期 2016年3月期 2017年3月期
売上高 7,214 10,547 12,227 14,778 19,069
経常利益 3,437 5,496 6,310 7,116 9,070
当期利益 2,074 3,344 3,950 4,840 6,174

・上記表における業績は子会社の経営プランニング研究所、企業評価総合研究所などを含む連結数値であるが、内訳としては大半が親会社単体のものと考えて良い。

日本M&Aセンターのビジネスモデルはバイサイド(買い手)とセルサイド(売り手)の両方から仲介手数料を収受する方式だ。M&A仲介では、バイサイドかセルサイドのどちらかに付いて、片側からのみ手数料を受け取ることも多い。両サイドから手数料をもらう方式は、利益相反が生じやすい「双方代理」になるため好ましくないという考え方も存在する。しかし、収益性という点では、不動産業界の「両手仲介」と同様、魅力的なビジネスモデルであることは確かだ。

M&A仲介の場合、取引初期段階で双方からそれぞれ数百万円の着手金を受け取ることで資金繰り的にも余裕が出るものと考えられる。17年3月期の連結総資産249億円のうち現金預金が100億円(40.2%)を占めており、一般の事業会社では2.00倍あれば健全とされる流動比率(流動資産÷流動負債)も2.57倍となっている。

なお、日本M&Aセンターは平均年収が高いことでも話題に上ることが多い。17年3月期の有価証券報告書によると、従業員数271名(平均年齢35.5才)の平均年収は14,188千円となっている。従業員の平均勤続年数は3.9年となっている。

調剤薬局に強みを持つM&Aキャピタルパートナーズ

M&Aキャピタルパートナーズは調剤薬局に強みを持つことでも知られる。同社の成約件数のうち半数程度は調剤薬局業界のディールである。近年は事業承継案件にも力を入れており、親族や従業員への承継を考えている経営者に対して、第三者への承継(M&A)を直接提案営業していくアウトバウンドマーケティングも売上高増加に貢献しているという。

案件数では15年9月期の44件から16年9月期の58件へと14件の増加となっており、そのうち、案件当たりの報酬総額が1億円未満のディールが12件を占めているのは1つの特徴といえる。

財務内容を見ると、総資産57億円のうち現金預金が33億円(57.9%)を占めており、流動比率(流動資産÷流動負債)も2.43倍と高くなっている。また、従業員数50名(平均年齢31.1才)の平均年収は19,052千円、平均勤続年数は2.9年となっている。

M&Aキャピタルパートナーズは、直接提案営業できるコンサルタントを増強しているほか、自社でも企業買収を行い、さらなる成長につなげようとしている。具体的には、16年10月に海外案件やアドバイザリーサービスで定評のあるレコフ<非上場>およびレコフデータ<非上場>を買収している。買収額の総額は30億円で、内訳は創業株主からの株式取得10億と第三者割当増資の引受20億である。

レコフの16年3月期の売上高は14億円であり、単純合算で考えても、M&Aキャピタルパートナーズの17年9月期の連結業績を大きく押し上げる要因となることが予想される。なお、5月に公表された四半期報告書(第2四半期)によると、16年10月から17年3月までの6か月累計で、すでに売上48億円、経常利益23億を超えている。

M&Aキャピタルパートナーズ(単位:百万円)

決算 2012年9月期 2013年9月期 2014年9月期 2015年9月期 2016年9月期
売上高 1,073 1,157 1,667 2,847 3,755
経常利益 577 600 808 1,524 1,860
当期利益 301 331 468 892 1,081

まさにストライク!上場後初決算は市場の期待に応える売上20億超

ストライクが東証マザーズに上場したのは16年6月21日。公開価格3,440円に対して初値が7,700円と好調な出だしであった。その期待に応えるように、上場後初決算となる16年8月期は前年比40.9%増の売上高20億円をマークした。2017年に入ってからの株価は4,000円から5,000円程度。ただし、これは16年12月1日に1株を3株に株式分割したあとの話だ。つまり、公開以降、株価は実質的に数倍に跳ね上がっているということができる。

同社では、営業力強化のための業務提携の拡充、コンサルタント人員の強化だけでなく、我が国のM&Aマッチングサイトの草分けともいえる「M&A市場SMART」のさらなる活用、M&A情報サイト「M&A Online」の運営にも力を入れている。

財務内容を見ると、総資産27億円のうち現金預金が23億円(87.5%)を占めており、流動比率(流動資産÷流動負債)も5.47倍となっている。また、従業員数34名(平均年齢34.9才)の平均年収は16,162千円、従業員の平均勤続年数は3.6年となっている。

なお、7月12日に公表された四半期報告書(第3四半期)では、16年9月から17年5月までの9か月累計で、すでに売上20億円、経常利益8億を超えている。また、6月22日には7億円規模で一般募集の新株発行を実施しており、今期の通期決算、来期以降の成長にも期待が持てる。

ストライク(単位:百万円)

決算 2012年8月期 2013年8月期 2014年8月期 2015年8月期 2016年8月期
売上高 418 823 590 1,423 2,006
経常利益 143 311 94 547 790
当期利益 76 181 81 329 510

共通点の多い財務内容

3社に共通するのは、現金預金を潤沢に保有している「キャッシュリッチ」な状態にあること。また、知識集約型で専門性の高いサービスを提供している企業であるため、設備や在庫に依存せず、借入金も必要としないことが挙げられる。そのため、非常に「軽い」B/S(貸借対照表)になっているのが特徴といえる。特に、ストライクのB/Sは、一般事業会社では見られないほどの預金保有率、流動比率となっている。

我が国においてM&Aブームは過去幾度となく訪れているが、団塊世代の創業経営者がリタイヤすることによる後継者問題と事業承継の需要はM&A仲介業にとっては「構造的好況」と呼べるものかもしれない。しかし、各社とも、それだけに依存していては持続的な成長はないという危機意識を共有しているようだ。今後、事業再生、事業整理、組織再編、ファンドによるエグジット案件など多様な需要を拾っていくことが課題となる。

各社の売上成長率や平均給与を見れば、就活を控えている学生の目にも魅力的な業種に映るだろう。M&Aの買い手からも売り手からも感謝され、若者世代にも夢を与える業界であり続けるため3社の牽引力には期待したいところだ。

文:北川ワタル