老舗旅館、新電力、再エネ、メディア…今年度の倒産を振り返る

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旅館・ホテルの「力尽き倒産」が続々と(写真はイメージ)

2021年度(2021年4月〜2022年3月)も終わりに近づいてきた。今年度はワクチン接種が始まったものの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは収束せず、世界経済の「ウイズコロナ(コロナとの共存)化」による復調から原材料や資源価格の高騰、円安と国内企業には逆風が吹き荒れた。政府による手厚い経営支援で倒産件数は減少を続けているが、それでも倒産した会社は存在する。そこで今年度の注目すべき業界の企業倒産を振り返ってみよう。

長期化するコロナ禍で力尽きる旅行業界

コロナ禍が丸2年を超え、旅行業界では今年度も倒産が相次いだ。1915年(大正4年)創業で支笏湖畔で温泉旅館の「丸駒温泉旅館」を運営していた丸駒温泉(北海道千歳市)は2021年8月に札幌地方裁判所へ民事再生法の適用を申請し、事実上倒産した。積極的な設備投資に伴う借入金と2008年のリーマン・ショック以降の利用客低迷で資金繰りが悪化していたところに、コロナ禍が追い打ちをかけた。負債総額は約8億3000万円。

ただ、丸駒温泉旅館は支笏湖を一望できる天然露天風呂を備えた「秘湯」の高級旅館で、皇族や著名人が利用していることでも知られている。全国で地域ファンドを運用するルネッサンスキャピタルグループ(東京都千代田区)が支援スポンサーとなり、現在も営業を続けている。

1897年(明治30年)創業で木曽古道の温泉旅館「ぬくもりの宿 駒の湯」を運営する駒の湯(長野県木曽町)は、2021年6月に事業を停止して自己破産の手続きに入った。コロナ禍で宿泊客が激減して資金繰りが悪化。負債総額は約3億5000万円だった。同旅館は自家源泉の木曽檜風呂や露天風呂で人気があり、会社分割で発足した新会社が事業を承継している。

会社分割で設立した新会社が事業を承継した「駒の湯」(同社ホームページより)

このほかにも1930年に創業の湯村ホテル(甲府市)や、1946年創業のやまきホテル(新潟県佐渡市)など老舗宿泊施設が相次いで倒産している。コロナ禍の収束が見通せない中、旅館やホテルの倒産は今後も続きそうだ。


石油高で新電力小売業界に激震

コロナ禍が長引くにつれ、いつまでも経済活動を停止してはいられない。今年度は世界でものづくり企業を中心に、生産活動が一斉に活発化してきた。その結果、コロナ禍当初の経済活動停止で2020年4月に先物でマイナス価格をつけた石油も急騰。さらにはロシアのウクライナ侵攻で、値上がりが加速している。

石油価格の高騰は新電力小売業界各社の経営を脅かしている(Photo By Reuters)

その影響が甚大だったのが、新電力小売業界だ。燃料価格の上昇と電力需給の逼迫で調達価格が急騰。収支が急速に悪化して倒産が相次いだ。2021年8月に米電力小売事業者PALMco Energy(ニューヨーク)の出資で設立されたファミリーエナジー(東京都中央区)とフェニックスエナジー(同)が東京地裁から破産手続の開始決定を受けて倒産。負債総額はファミリーエナジーが約8億6900万円、フェニックスエナジーが約3億4600万円。

同10月にはFTCエナジー(同、負債総額不明)と信州電力(長野県飯田市、同約1億8000万円)が倒産。11月に入ると電力ベンチャー・パネイル(東京都中央区)傘下の札幌電力、宮城電力、東日本電力、東海電力、西日本電力、広島電力、福岡電力の7社が倒産、7社合計の負債総額は約29億円に上っている。

ホープ<6195>の100%出資子会社ホープエナジー(福岡市)は2022年3月下旬から4月上旬をめどに自己破産を申請する。元々はホープが手がけていた新電力小売事業だが、2020年10月に設立したホープエナジーへ同事業を移管。同12月から2021年1月にかけての仕入れ電力価格の高騰で65億円の費用が発生し、同6月期末時に24億9800万円の債務超過に陥った。

2021年10月から電力価格が再び高騰して、同12月末時点の債務超過が80億4700万円に膨らんだ。ホープエナジーは一般送配電事業者から託送供給契約を解除され、事業継続ができなくなった。負債総額は約300億円に達する見通しだ。


再生可能エネはソーシャルレンディングが「落とし穴」に

過当競争が繰り広げられている再生可能エネルギー業界でも逆風が続く。太陽光発電システムなどを手がけるJCサービス(東京都港区)は、競争激化で収益力が下がった本業を支える事業として金融仲介サービスのソーシャルレンディングサービス事業に進出した。

太陽光発電システムの過当競争で生き残るために飛びついたソーシャルレンディングだったが…(写真はイメージ)

同事業を手がける子会社のグリーンインフラレンディングが大口債権者の破産を受けて連鎖倒産するおそれがあり、2021年3月に民事再生法による経営再建を模索する。しかし、新規受注もなく事業継続は不可能との判断から同9月に東京地裁より再生手続きの廃止決定を受け、破産手続きに入った。負債総額は約153億4200万円。

同業界では金融機関を巻き込んだ不祥事も発生した。2021年6月にテクノシステム(横浜市)の社長ら役員が、金融機関から融資名目で約22億円をだまし取ったとして東京地検特捜部に逮捕・起訴された。同社社長がカジノで負った約3億9400万円の借金返済などに充てていたという。

このほかにもテクノシステムはSBIホールディングスの子会社SBIソーシャルレンディングからソーシャルレンディングで調達した約383億円のうち、約129億円を別の用途で使っていたことが明らかになっている。同社は東京地検特捜部の家宅捜索を受け、同5月に破産か民事再生法の適用を申請する方針を明らかにしたが、同11月に撤回した。同5月時点での負債総額は約150億円を見込んでいたという。

テクノシステムは倒産したJCサービスから浜松市のバイオマス発電向け燃料用ペレット製造施設の運営を引き継いだが、自社のスキャンダルで昨年春に稼働を停止したまま、宙ぶらりんの状態になっている。再生エネルギー業界では形は違うものの、ソーシャルレンディングが共通の「落とし穴」になった。


活字メディアの凋落は止まらず

活字メディアの不況も相変わらずだ。ローカル紙で1879年(明治12年)創刊の米澤新聞社(山形県米沢市)が2022年1月に山形地裁米沢支部へ自己破産を申請。ニュースのデジタル化や人手不足などで経営環境が厳しかったが、コロナ禍による広告出稿減や2021年10月の同社代表死去を受け、同27日付で休刊していた。負債総額は約4億1000万円。

1932年に創刊の「足利日報」を前身とする両毛新聞社(栃木県足利市)は、同7月に宇都宮地裁足利支部から破産手続の開始決定を受けて倒産した。同社は発行部数や広告出稿の減少で2020年5月に休刊したが、同8月に新会社が事業承継して復刊。しかし、コロナ禍が長引いて広告収入が上向かず、2021年6月に再び休刊していた。

活字メディアの経営破綻が止まらない(写真はイメージ)

タウン誌でも岡崎市のタウン情報誌を発行するリバーシブル(愛知県岡崎市)が、同12月に名古屋地裁岡崎支部から破産手続の開始決定を受けて倒産した。同社は1980年に岡崎市のタウン情報誌「リバーシブル」を創刊。地域情報に加えて、著名人のインタビューや特集企画が人気を集めていた。2005年に無料誌に転換し、「一番ディープな岡崎本リバ!」に改題している。負債総額は不明。

久留米市でフリーペーパー「ノーマ・ジーン」を発行していたノーマ・ジーン(福岡県久留米市)も同月、事業を停止して自己破産申請の準備に入った。1997年に20~30代の女性をターゲットにした情報紙として創刊。近年はインターネットの情報サイトに押されていたところへ、コロナ禍に伴う広告収入の減少で経営が行き詰まった。負債総額は約1億3000万円。

雑誌では日本初のダイビング専門誌「月刊マリンダイビング」を発行する水中造形センター(東京都千代田区)は同7月に自己破産を申請した。負債総額は約2億円。

書籍では人気ジャーナリスト池上彰氏の「会社のことよくわからないまま社会人になった人へ」や「池上彰の学べるニュース」シリーズなどのベストセラーを発行していた海竜社(東京都中央区)が同9月に発行部数の減少で資金繰りに行き詰まり、自己破産を申請した。負債総額は約2億4000万円だった。

文:M&A Online編集部