IPO逆風のなか設立したロングターム証券取引所(LTSE)

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ロングターム証券取引所(LTSE)とは?

2019年5月10日、新しい証券取引所が米証券取引委員会(SEC)によって登録承認された。シリコンバレーに拠点を置く「ロングターム(長期投資)証券取引所(LTSE: Long-term Stock Exchange)」だ。

米国の証券取引所(Exchange)には、ウォール街にあるニューヨーク証券取引所(NYSE)やGAFAなどのハイテク企業が上場するナスダック(NASDAQ)があるが、LTSEは23番目の全米証券取引所(National Securities Exchange)となった。

米国では今、モルガン・スタンレー、UBSグループなど大手銀行と証券会社9社が7000万ドル(約76億400万円)を出資し、新証券取引所「メンバーズ・エクスチェンジ(MEMX: Members Exchange)」の創設を計画するなど証券市場に新たな動きが出ている。

こうしたなかで、「リーンスタートアップ」の著者である米国起業家エリック・リース(Eric Ries)氏らは、「企業が持続的な事業を計画し、長期的な投資家に対して持続可能な事業を提案するエコシステムを構築するべきだ」と、LTSEの創設プロジェクトを2016年に発動した。

米国の上場企業数は減少している

LTSEの着想は、上場企業の経営者が四半期決算に過度に振り回される現状に課題があると感じていたからだ。株主からはコスト削減を要求され、研究開発のための予算も削減される。実際に、米国で過去20年間で上場する企業数は、減少傾向にある。

図:米国証券取引所 上場企業数の推移(1980年ー2017年)

Where Have the Public Companies Gone?
Bloomberg

LTSEのプロジェクトチームは、理想の証券市場を創設するため、当局とのやりとりに数年の時間を費やし、2018年11月に米証券取引委員会(SEC)に登録申請が完了。ベンチャーキャピタルなどから1900万ドル(約21億3000万円)の資金を集め、2019年5月10日、SECからLTSEの創設を承認された。

既存の証券取引所との違い

今回承認されたLTSEと既存の証券取引所との違いは、何なのだろうか。

LTSEの最高責任者(CEO)であるリース氏は、3D仮想空間サービスを手がけるIMVUなど、これまで複数のスタートアップに成功してきた起業家だ。

リース氏は「私たちのビジョンは、あらゆる業界の企業が、長期的な成功に向けた戦略の優先順位付けと追求を続けながら、上場できることだ。」とウェブサイトに構想を掲げている。

LTSEの特徴としてまず挙げられるのは、「株式の保有期間の長さに応じて、(株主に)議決権を優先的に配分する」ということだ。つまり、株主は保有期間が長いほど、多くの議決権が手に入る。

次に、LTSEは「企業幹部に対する短期目標達成の報酬を廃止する」ことで、四半期ごとなどの短期の業績ではなく、10年間にも及ぶ長期的な計画に注力し、イノベーションなどもできるよう要求している。

ロイターのインタビューによると、リース氏は「LTSEはそれに上場する企業が、ニューヨーク証券取引所やナスダックなどとも重複上場になれる」ことも表明している。

世間の反応は

LTSEに対する世間の関心も高いようだ。たとえば、ソーシャルニュースサイト「Hacker News」では、「長期株主の議決権を増やすLTSEの上場ルールは、創業メンバーなど一部の大株主に有利であり、少数株主の声が届きにくくなる」との懸念が出ている。

これに対しリース氏は、「私たちがLTSEで求めているのは、社員であれ、株主であれ、企業と長期的な関係を構築している人はみな対等であるということ。私にとって重要な原則の1つは、企業が長期的な決断を下すためには、長期的な投資家が誰であるかを知り、それに対応する必要があるということだ。」と回答している。

この課題に対し、仮想通貨イーサリアムの考案者であるヴィタリック・ブテリン(Vitalik Buterin)氏は、「投資家が自分たちの株を維持することを約束したいと思っている期間に比例して、人々に投票権を与え、投票が決まったときにのみ、そのコミットメントを実行する」というアイデアを出している。

米ニュースサイト「ZDNet」によると、LTSEの利点と懸念点を公平に考察している。メリットは「新興企業のプロジェクトが成功すれば、世界中の投資家は早期から投資を行って、利益を得られ、以前の様な(上場するまでの)タイムラグを短縮できる。また新興企業は、資金調達の新たな門戸が開かれることで、より迅速に成長して、事業を拡大できる可能性がある」ことを挙げる。

一方で、懸念としては「プロジェクトが長期間十分にテストされない間に上場するため、高リスクの新興企業や優良ではない企業が上場することにつながり、全体的な投資リスクが高まる可能性がある。」と指摘する。

LTSEの公式ウェブサイトによると、「”The exchange anticipates being ready to accept listings and start trading later this year after completing administrative and technical steps. ”(訳:2019年中に取引を始める準備ができている)」と計画を明かしている。

なお、既に複数のテクノロジー企業や投資家がLTSEへの参加意向を示しているが、現時点で具体的な情報は公表されていない。

(参考記事)
・LTSEからのお知らせ(公式ウェブサイト)
ZDNet「SEC gives the green light to stock exchange for tech startups」
Hacker Newsの投稿
ロイターニュース「米SEC、シリコンバレーの新興証取承認 ハイテク企業の選択肢拡大」

文:米山怜子/編集:M&A Online編集部