今やインフラといっても過言ではないLINE〈3938〉。2016年に華々しく東京証券取引所一部、ニューヨーク証券取引所に上場を果たした同社は、コミュニケーションプラットフォームである「LINE」を活用して、ゲームや人材分野にまで事業を拡大している。その背景には、M&Aをはじめとした「他社のリソース」を活用するという方針があった。M&Aの実績を見ながら、LINEの今後について考えたい。
LINEは、韓国最大のインターネットサービス会社ネイバーの完全子会社として、2000年に設立された。設立当初の社名は「ハンゲームジャパン」で、韓国の同名サービスが由来となっている。
同社は現在、売上高1,407億円、営業利益179億円にまで達し、クオーターベースでも毎期増収を果たしている。しかしながら、グローバルMAU(※Monthly Active Users)は2億1,700万人となったものの、日本市場は頭打ちに近づいてきており、他地域への展開が期待される。
※ソーシャルメディアやソーシャルアプリなどで、適切な利用者数を示す値として使われる指標
LINEのMAU推移
一方、世界における主要なメッセージアプリのMAUは下記の通り。複数のメッセージアプリを利用する人ももちろんいるだろうが、寡占化が進んでいるいま、MAUの伸びしろはそこまで大きくないと考えられる。
メッセージアプリ各社のMAU
サービス名 | MAU |
---|---|
12億人 | |
Facebook Messenger | 12億人 |
8億8,900万人 | |
QQ(Tencent) | 8億6,800万人 |
LINE | 2億1,700万人 |
Kakaotalk | 4,900万人 |
上記のような状況があるなかで、LINEはメッセージアプリをプラットフォームにしつつ事業を多角化している。
代表取締役社長CEOは出澤剛氏。早稲田大学政治経済学部を卒業後、朝日生命保険を経て、オン・ザ・エッヂ(ライブドア)に入社する。LINE代表取締役(COO)に就任したのは2014年から。2015年4月には代表取締役社長CEOに就任。経営陣にはそのほかシン・ジュンホ氏、舛田淳氏、ファン・インジュン氏らがいる。
株主構成は下表のとおり。筆頭株主は韓国に本社を置く同国最大のインターネットサービス会社NAVER Corporationで8割以上を占める。同社はオンラインゲーム事業としてハンゲーム(Hangame)を運営していたが、2013年8月にゲーム事業を分社化した。それがLINEの前身である。他は国内外の金融機関が名を連ねる。
大株主名 | 持株数 | 持株比率 |
---|---|---|
NAVER Corporation |
174,992,000 |
80.35% |
MOXLEY & CO LLC |
11,254,295 |
5.16% |
CBHK-KOREA SECURITIES DEPOSITORY-SAMSUNG |
1,570,600 |
0.72% |
日本マスタートラスト信託銀行株式会社(信託口) |
995,200 |
0.45% |
BNY GCM CLIENT ACCOUT JPRD AC ISG (FE-AC) |
806,373 |
0.37% |
日本トラスティ・サービス信託銀行株式会社(信託口) |
698,200 |
0.32% |
BNP PARIBAS SECURITIES SERVICES LUXEMBOURG/JASDEC/HENDERSON HHF SICAV |
543,800 |
0.24% |
STATE STREET BANK WEST CLIENT - TREATY505234 |
534,000 |
0.24% |
THE BANK OF NEW YORK134168 |
521,700 |
0.23% |
RBC IST 15 PCT LENDING ACCOUNT - CLIENT ACCOUNT |
474,076 |
0.21% |
2016年12月末時点、同社ホームページよりM&Aonline編集部作成
LINEの沿革と主なM&A
年月 | 内容 |
---|---|
2000年10月 | ネイバーの完全子会社としてハンゲームジャパンを設立 |
2003年8月 | NHN Japan に社名を変更 |
2006年12月 | オンラインゲーム開発をするマルチタームを完全子会社化 |
2009年7月 | キュレーションプラットフォーム「NAVERまとめ」提供開始 |
2010年5月 | LDH(旧ライブドアホールディングス)からポータルサイトやブログサービスを運営するライブドア(売上高93億円)の全株式を93億円で取得し、完全子会社化 |
2011年6月 | メッセージアプリ「LINE」をサービス開始 |
2013年4月 | LINE に社名を変更 |
2014年6月 | セールスフォース・ドットコムと提携 |
2014年9月 | モバイルオンラインゲーム開発をするgumiの第三者割当増資を引き受け、資本業務提携 |
2014年10月 | コミックを中心とするデジタルコンテンツ配信のグローバル展開を推進するためのLINEの連結子会社であるLINE Book Distributionにおいて、新たに講談社・小学館・メディアドゥの3社と資本業務提携を行い、4社の合弁事業会社として発足 |
2014年10月 | ゲーム事業において、グリーとの共同出資による合弁会社として、Epic Voyageを設立 |
2014年11月 | ゲーム事業において、サイバーエージェントとの共同出資による合弁会社として、グリーンモンスターを設立 |
2014年12月 | 音楽配信事業において、エイベックス・デジタル、ソニー・ミュージックエンタテインメントとの共同出資による合弁会社として、LINE MUSICを設立 |
2015年2月 | インテリジェンスホールディングスとの共同出資による合弁会社として、AUBEを設立、アルバイト求人情報サービス「LINEバイト」を公開 |
2016年2月 | モバイル広告会社M.T.Burnの株式50.5%を取得し、子会社化 |
2016年7月 | ニューヨーク証券取引所、東京証券取引所一部に上場 |
2016年10月 | 宅配ポータルサイト「出前館」を運営する夢の街創造員会の株式20%を既存株主から40億円で取得し、持分法適用会社化 |
2016年10月 | ネイバーの完全子会社で、自撮りアプリを開発するSnow Corporation の第三者割当増資46億円を引き受け、持分法適用会社化(持分割合25%) |
2017年3月 | クラウドAI プラットフォーム「Clova(クローバ)」を活用したバーチャルホームロボットの共同開発を目的として、ウィンクルと資本業務提携し、同社を子会社化 |
M&A Online編集部作成
LINEのM&A戦略は、同社の代名詞とも言えるメッセージアプリ「LINE」がリリースされた2011年前後で、大きな変化が起きている。
2011年以前に買収した会社は2社で、それぞれ①オンラインゲーム開発をするマルチターム、②ポータルサイトやブログサービスを運営するライブドアである。このM&Aの位置づけは、自社が新規で提供を始めたサービス(①ハンゲーム事業、②NAVERまとめ事業)の強化という側面が強い。
一方で、2011年以後は、既存の顧客に対する新規サービスの立ち上げをおこなう目的でM&Aを活用している。また、M&A以外にも、資本提携や合弁会社の設立といった手法も活用して急速に新規事業立ち上げを図っている。実数としては、2014年からの3年間でM&Aは4件、提携は7社になっている。
特徴的な動きを見ておこう。2016年2月にはモバイル向けの広告サービスに強みを持つM.T.Burnを買収しており、LINEの主要収益源である広告収入に寄与している。2016年10月には立て続けに、宅配サービス「出前館」を運営する夢の街創造委員会と若年層を中心に一世を風靡する自撮りアプリ「Snow」を開発するSnow Corporation を持分法適用会社化している。両件とも「LINE」ユーザーへのサービス拡充という観点からのM&Aである。
M&Aを進めるのと並行して、提携を通じた新規事業立ち上げが様々な分野でおこなわれている。ゲーム分野においては、gumi、グリー、サイバーエージェントと提携して、現在のスマートフォンゲームのブームに乗っている。
音楽分野においては、エイベックス、ソニー・ミュージックと提携して進出を果たした。さらに、講談社、小学館らとの提携によりコミックを中心としたデジタルコンテンツ分野へも進出し、若年層をメインターゲットとしたエンターテイメント分野で勢力を拡大している。近年各社が志向するプラットフォーム戦略のお手本のような展開である。
さらに、人材紹介大手インテリジェンスとも提携して、こちらも若年層をメインターゲットとしたバイト求人の紹介サービスも開始した。このように、LINEは明確な事業戦略のもとM&Aと提携を巧みに使い分け、プラットフォームの強化に成功している。
一見すると、売上高は右肩上がりだが、売上高増加率が鈍化していることがわかる(下図)。これは前述したMAUの増加が鈍化したことが最大の要因である。一方で、M&Aや提携を通じてサービスの拡充を図っているため、増収が確保されていると言える。裏を返すと、M&Aや提携を推進していなかった場合、MAUの停滞傾向と同様に、売上高も停滞していた恐れがあると考えられる。
LINEの売上高・営業利益の推移
一方で、資産の状況(下図)は上場を通じて資金調達ができたこともあり、安定した状況である。M&Aにより計上したのれん代も、資本背景が厚くなったこともあいまって、資産に占める割合としては低位で推移している。
しかしながら、アメリカのインターネット企業に目を向けると、FacebookやGoogle、AppleのようにM&Aを活用して企業規模を拡大している企業もあることから、LINEも積極的にM&Aを活用し、「時間を買う」という意識を持たなければならない。安定している現状だからこそ、積極的に目的の実現までの時間を短縮する攻めのM&Aが必要となってくる。
LINE資産の推移
セグメント別売上高は、それぞれ下記のようになっている。
コミュニケーション | LINEスタンプ等 |
コンテンツ | LINEゲーム、LINEプレイ、LINE NEWS、LINEマンガ、LINE MUSIC 等 |
その他 | LINEバイト、LINE Pay等 |
LINE広告 | LINE公式アカウント等 |
ポータル広告 | NAVERまとめ、livedoor等 |
気になるのが、コンテンツ事業の伸び率が前年比で90%に留まっている点である(下表)。前年はゲームのヒットにより売上が伸長していた等の理由が考えられるが、今後のLINEの戦略上コンテンツ事業は最重要セグメントであると考えられるため、次年度以降の推移を注視したい。
セグメント(分野) | 売上高(百万円) | 前年比伸び率 |
---|---|---|
コミュニケーション及びコンテンツ | 85,997 | 102% |
コミュニケーション | 29,290 | 102% |
コンテンツ | 44,784 | 90% |
その他 | 11,922 | 199% |
広告 | 54,707 | 150% |
LINE広告 | 44,522 | 168% |
ポータル広告 | 10,186 | 102% |
M&A Online編集部
また、一般的にコンテンツビジネスはM&Aにより外部より獲得するという発想がなじむ。今までもM&Aや提携を通じてコンテンツの拡充を図ってきたが、今後も同事業分野におけるM&Aが活発になることは間違いないだろう。
株価は堅調に推移。直近では2015年10月時点で5,000円台をつけたが、現在は3,900円前後で推移している。
インターネット上のコミュニケーションツールにとどまらず、今やインフラとして我々の生活に欠かすことのできない存在となった「LINE」。これまでM&Aを効果的に活用してきたとの評価をしたが、現在の潮流から考えれば、まだまだ消極的な印象である。
現在、インターネット上におけるプラットフォームビジネスを牽引しているのApple、Amazon、Facebook等に代表されるアメリカ発祥の企業は、新たなコンテンツやテクノロジーは外部に求め、それを既存の自社コンテンツに融合することによって世界を席巻している。LINEも、日本を代表するIT企業として、これらの企業に挑戦するために、より一層M&Aを活用していくことになるだろう。
この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。
文:M&A Online編集部