「休眠会社」の買収にメリットはあるの?

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「休眠会社を買収したいのですが・・・」

実はこういったニーズは、M&A業界ではよくあります。読者の中には、休眠会社を買ってどうするの?と疑問に思われる方もいらっしゃるかもしれません。

そもそも、休眠会社とは何でしょうか?
休眠会社を買収するとどんないいことがあるのでしょうか?
そして、休眠会社を買収して何らかの「落とし穴」にはまってしまうことはないのでしょうか?

この記事では、それらの疑問にお答えしていきます。

休眠会社とは

まず、休眠会社とは一体どのような会社のことを言うのでしょうか。

休眠会社とは、一般に事業継続が難しく営業活動を行っていない会社といわれています。解散まではしていないけれども、全く営業もしていない、そんな会社を「休眠会社」と呼んでいます。

次に、法律用語を見てみましょう。会社法や一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下、「一般法人法」といいます。)の規定では、次のように定義されています。

①休眠会社……最後の登記から12年を経過した株式会社(会社法472)
②休眠一般法人……最後の登記から5年を経過した一般社団法人・一般財団法人(一般法人法149、203)

①は、「株式会社」とされており、特例有限会社や合同会社といった役員の改選登記がそもそも必要ない会社については、定義に含まれていません。②は、会社ではなく法人ですが、広義の休眠会社といった場合には、含めて考えることもできるでしょう。また、公益社団法人、公益一般法人も含まれます。

休眠会社等の整理作業について

平成26年度以降、全国の法務局により、毎年休眠会社や休眠一般法人の整理作業が行われています。その趣旨は、長期間登記がされていない株式会社、一般社団法人又は一般財団法人は、既に事業を廃止し、実体がない状態となっている可能性が高いにもかかわらず、このようないわゆる休眠会社の登記をそのままにしておくと、商業登記制度に対する国民の信頼が損なわれるというものです。

12年以上登記がされていない休眠会社や5年以上登記がされていない休眠一般法人については、管轄の登記所から通知書が届き、2か月以内に「まだ事業を廃止していない」旨の届出又は役員変更等の登記をしなければ、解散したものとみなされて、登記官の職権により「みなし解散」の登記がされます。

ただし、みなし解散の登記後3年以内に限り、解散したものとみなされた株式会社は、株主総会特別決議によって、株式会社を継続することができます。継続したときは、2週間以内に継続の登記申請をする必要があります(法務局リーフレット「あなたの会社・法人、登記を放置していませんか?」http://www.moj.go.jp/content/001235093.pdf)。

公式な統計はありませんが、上記の整理対象となっている休眠会社は国内に約8万社存在しているとも言われています。

休眠会社買収のメリット

このままでは、みなし解散となり消えていく休眠会社。そこで、休眠会社を買収することに何らかの意味があれば、売り手や買い手だけでなく、国までもがハッピーになれそうです。

休眠会社を買収するメリットは、大きく分けて2つあります。

(1)許認可を得るための手間やコストを省くことができる

不動産業、運送業、建築業、派遣業、自動車整備業、旅館業など、許認可が必要な業種は数多く存在します。そういった事業を新たに行いたい場合、許認可を得るためには、様々な手続きが必要です。また、許認可の取得に時間がかかったり、審査が厳しくてなかなか許認可を受けられなかったり、財産要件を満たす必要があったりする場合もあるなど、新規に許認可を受ける場合のハードルが高いことが多いです。

そんなときには、すでに許認可を持っている休眠会社を買ってしまうというのが有効です。そうすれば、手間暇かけず、買収後すぐにでも事業を行うことができるようになります。

ただし、許認可を引き継ぐためには、引継ぎのためのストラクチャ(対象会社を買収する際の手法)を慎重に検討しなければなりません。

M&Aをする際には、株式譲渡会社分割事業譲渡など色々なストラクチャが考えられます。選択した手法では、許認可の引継ぎができないものだったということになると、オーナーチェンジした瞬間に、許認可を引継ぐことができなくなり、当初の目的を達成できなかったということにもなりかねません。

行政書士等の専門家に相談しながら、許認可を引き継ぐための要件をよく確認しましょう。

(2)休眠会社の社歴を受け継ぐことで、外見上の社会的信用を得られる

休眠会社に金銭に見積もることができるような財産がなかったとしても、業界のなかでは、その社歴や社名に価値があるようなケースがあります。その社歴や社名を引き継ぐことで、外見上の社会的信用を得るためのM&Aも実行されており、メリットがあるといえます。

休眠会社を買収した場合に税務面で気を付けること

休眠会社は事業を行っていないため、ほとんどの場合は繰越欠損金を有しています。繰越欠損金とは、簡単に言うと黒字になったときに相殺できる過去の赤字のことで、税金を安くする効果があるものです。

では、休眠会社を買収したオーナーは、許認可や社会的信用以外にも、さらに繰越欠損金が使えて税務上のメリットを享受することができるのでしょうか。

結論から言うと、答えはノーです。休眠会社でもともと事業を行っていなくて、買収後に事業を開始することになった場合は、繰越欠損金の引継制限がかかり、休眠会社が持っていた繰越欠損金は使えず、切り捨てられることになります(法人税法57の2)。これは、休眠会社を買ってきて租税回避に使おうとするのを防止する観点から、平成18年度税制改正で導入された規定です。

また、休眠会社が含み損のある資産を持っていたときでも、一定の場合には、その資産の譲渡損は損金になりません(法人税法60の3)。

休眠会社を買収する場合には、基本的に税務メリットは享受できないと考えておいた方がよいでしょう。

休眠会社を買収する際に、買い手は、こうした点に留意しながらも、このままではみなし解散となってしまうような休眠会社を救い、より成長していただけたらと思います。

文:藤本江里子/編集:M&A Online編集部