ラーメンチェーン大手「幸楽苑」 希望退職募集に踏み切った理由は?

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東京・日本橋の「幸楽苑」店舗

「幸楽苑」を展開するラーメンチェーン大手の幸楽苑ホールディングス(HD)が希望退職者の募集に踏み切った。新型コロナウイルス感染拡大による業績悪化の深刻化を受け、昨年は夏と冬のボーナス支給を見送るなど、雇用維持を最優先に従業員に我慢を強いてきたが、今回ついに雇用に手を付けたことで、同社の苦境が改めて浮き彫りとなった形だ。

3年連続減収、最終赤字は2年続き

幸楽苑HDが5月13日に発表した2021年3月期決算は売上高30.5%減の265億円、営業赤字17億2900万円(前の期は6億6000万円の黒字)、最終赤字8億4100万円(同6億7700万円の赤字)。3年連続の減収で、営業赤字は3年ぶり、最終赤字は2年連続となった。

決算発表からほぼ1週間後の19日に公表したのが希望退職だ。全正社員の約6%にあたる50人程度を募集する内容で、公表当日から即募集を始めた(~5月30日まで)。対象は40歳以上で5年以上勤務の正社員。構造改革として人員の適正化と年齢構成の調整を実現するためとしている。

希望退職にいたった経営責任を明確にするため、6~8月の役員報酬について会長は全額返上し、社長は50%、常勤取締役は10%減額する。

“耐乏生活”の末に人員削減へ

外食各社はコロナ禍に伴う休業や営業時間短縮、外出自粛などで来店客数が激減するかつてない経営環境に直面。希望退職者の募集も昨年来、ファミリーレストランのロイヤルホールディングス(募集200人)、ステーキ店のペッパーフードサービス(同200人)、居酒屋のチムニー(同100人)など、上場企業だけで10社程度が実施しているが、ラーメン業態では幸楽苑HDが初めてだ。

幸楽苑HDは昨年、“耐乏生活”を余儀なくされた。最初の緊急事態宣言中の昨年5月の社員給与を20%カットし、夏のボーナス支給を取りやめた。年後半に業績回復を期したものの、状況は好転せず、従業員の雇用と稼働の適正化を図るためとして、冬のボーナスも見送った。そして今回、人員削減にまで波及することになった。

構造改革の途上、反転のろしは

同社の店舗数は3月末時点で454店舗(うち直営411店舗)。546店舗を数えたピーク時の2017年に比べて90店舗以上減った。当時は売上高重視の拡大戦略を基本とし、1000店舗体制を目指していた。

だが、2018年3月期に32億円の最終赤字に転落。大半が採算性が悪化した店舗の減損損失で、その額は28億円以上に上った。ここから収益重視経営に大きくカジを切ることになった。人事評価にAI(人工知能)の活用も始めた。不採算店舗の撤退を進め、2020年3月期には一挙に51店舗を閉めた。

構造改革の途上で、不運も重なった。それが2019年10月の台風19号被害。福島県郡山市内の食材加工工場が浸水で操業停止し、東北や北関東、甲信越の約250店舗への食材供給がほぼ1カ月間ストップする非常事態に陥ったのだ。営業が正常化し、さあこれからというタイミングで今度は新型コロナが襲った。

2022年3月期業績予想は売上高8.4%増の288億円、営業利益3億円、最終利益2億5000万円。最終損益は3年ぶりに黒字転換を見込む。

完全セルフサービスの店舗づくりや自動配膳ロボットの試験導入など、コロナ対応の取り組みも意欲的に進めている。反転攻勢に向け、のろしを上げる年になるか。

文:M&A Online編集部