幸楽苑が通年の賞与不支給を決定、競合日高屋と差がついた理由は

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幸楽苑ホールディングス<7554>の上期売上高が前期比37.4%減の129億4,600万円となりました。上期売上高の減少幅は競合のハイデイ日高<7661>の33.1%減を上回っており、新型コロナウイルス感染拡大の影響による業績の落ち込みが鮮明になりました。営業損失は12億300万円(前年同期は9億4,200万円の黒字)、純損失は9億4,300万円(前年同期は5億2,200万円の黒字)となっています。これを受け、幸楽苑は従業員の冬のボーナスカットを決定しました。

幸楽苑は2020年5月の社員給与の20%減額や夏のボーナス不支給をすでに実施しており、ラーメンチェーンの中でもとりわけ苦境に立たされている会社と言えます。

この記事では以下の情報が得られます。

・幸楽苑と日高屋の比較
・他社と比較して幸楽苑が苦戦している理由

従業員の年収は12%程度減少か?

幸楽苑の有価証券報告書によると、2020年3月末時点での従業員の平均給与は496万7,000円です。年間のボーナス額が50万円だったと仮定すると、5月の減額も併せてコロナ禍での年収は439万3,000円。およそ12%減少したことになります。

一方、同業の日高屋は従業員の給与カットには動いていません。なぜ、これほどの差がついているのでしょうか。一つは幸楽苑が2020年3月期において、台風被害で打撃を受けていたことがあります。

■幸楽苑(3月決算)と日高屋(2月決算)の売上高比較(単位:百万円)


2018年度 2019年度 2020年度
幸楽苑 38,576(2.0%増) 41,268(7.0%増) 382,37(7.3%減)
日高屋 40,643(5.5%増) 41,862(3.0%増) 422,09(0.8%増)

日高屋は緩やかに増収を辿っているものの、幸楽苑は前期で7.3%の減収に転じました。2019年に発生した台風19号の影響によって郡山工場が浸水して創業を停止し、東北や北関東、甲信越地方の店舗が一時的に休業に追い込まれたのです。小田原工場をフル稼働させて早期の休業再開に努めましたが、売上の減少を食い止めることはできませんでした。

もう少し時間をさかのぼると、苦境に陥っている理由がよりはっきりしてきます。2018年3月期に実施した徹底的な"膿だし"により、自己資本が薄くなっているのです。

■幸楽苑と日高屋の純利益、純資産額比較(単位:百万円)

・純利益比較


2018年度 2019年度 2020年度
幸楽苑 △3,225 1,009 △677
日高屋 3,021(3.6%増) 3,081(2.0%増) 2,578(16.3%減)

・純資産比較


2018年度 2019年度 2020年度
幸楽苑 3,806(47.0%減) 4,962(30.4%増) 3,933(20.7%減)
日高屋 23,070(9.7%増) 24,972(8.2%増) 26,235(5.1%増)

有価証券報告書をもとに筆者作成

幸楽苑は、2018年3月期に採算性が悪化した店舗に対する減損損失28億3,800万円を計上しました。この期に32億2,500万円もの特別損失を計上しています。その結果、純資産は前期比47.0%もの減少となり、38億600万円まで縮小しました。これが徹底的な"膿だし"です。

総資産を圧縮したことで、幸楽苑は稼ぐ力を取り戻しました。減損実施前と後とで、営業利益のROA(総資産利益率)は、2017年3月期の0.6%から2019年3月期の9.0%へと急改善したのです。日高屋の2019年3月期のROAが15.4%。幸楽苑は日高屋の水準まで手が届きそうなところまで行きました。しかし、自己資本が薄くなったところに、台風19号と新型コロナウイルスの感染拡大という思わぬ事態に見舞われ、窮地に立たされることになったのです。

幸楽苑の2021年3月期第2四半期の時点での純資産額は30億3,300万円。前年同期比で22.9%減少しています。一方、日高屋の純資産額は238億3,300万円で自己資本にはまだまだ厚みがあります。保有する現金にも大きな差が生じています。幸楽苑の48億3,200万円に対して、日高屋は倍以上の103億2,600万円を保有しています。

大量閉店で10月の売上が109.7%と大幅増

しかし、幸楽苑は復活の兆しが見えてきています。10月に既存店の月次売上が前年を10%近く超えました。

■幸楽苑と日高屋の月次売上高比較


4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月
幸楽苑 50.0% 62.2% 71.5% 74.5% 72.6% 77.9% 109.7%
日高屋 49.3% 48.0% 65.8% 73.9% 75.7% 80.7% 87.0%

※月次売上高より筆者作成

日本フードサービス協会によると、9月の麺類業態の売上の全国平均は84.6%。両社ともに9月は一歩遅れをとっていましたが、10月に入って幸楽苑が急回復しています。その理由の一つは、幸楽苑が大幅な退店を実施したこと。幸楽苑は上期で68店舗を閉鎖し、直営店は416店舗となりました。もともと抱えていた不採算店も含め、大量閉鎖を実施したことで業績の良い店舗が残り、売上回復に繋がったものと考えられます。

一方、日高屋は直営店は前年の436店舗から440店舗に増加しています。日高屋は大幅な退店の意向を示していません。コロナ禍での2社の戦略の違いは鮮明になりました。その意思決定が今後の経営にどう影響するのか、注目が集まるポイントです。

幸楽苑は2021年3月期の売上高を前期比26.8%減の280億円、営業損失を9億円(前期は6億6,000万円の黒字)見込んでいます。上期で12億円の営業損失を計上しているので、下期は3億円程度の黒字を予想していることになります。一方、日高屋は通期の業績予想を発表していません。

文:麦とホップ@ビールを飲む理由