小林製薬<4967>による「新たなる成長」に向けた大型M&Aの模索が始まる。
小林製薬は2020年1月から始まる22年12月期を最終年度とする3カ年の次期中期経営計画に「新成長事業の育成」と「大型M&Aの実行」を盛り込んでいる。現行中計(17年12月期-19年12月期)に設定した「実力ある成長」の数値目標の達成が確実視されることから、次のステージの目標が現実味を帯びてきた。
もちろん残り半年となった3カ年計画の仕上げも手を抜けない。3年間で300億円の投資枠を設けたM&Aの状況はどうだったのか。探ってみると。
小林製薬は17年12月期から19年12月期までの3カ年で、中国やアジア諸国で薬局やドラッグストアなどで販売されている医薬品(OTC医薬品)販売の基盤確保、スキンケアで第3の柱となるブランドの育成、国内のOTC医薬品や健康食品の強化の3テーマで、M&Aを実施する計画を表明していた。
この期間のM&Aは19年5月に実施した「梅丹」や「古式梅肉エキス」のブランドを持つ梅丹本舗(和歌山県)の子会社化、18 年 3 月の中国の医薬品製造販売会社・江蘇中丹製薬有限公司を子会社化の2件がある。
17年6月には南アフリカのユニオンスイス社からバイオイルの独占販売権を取得した。
これら案件によって、目標としていた国内の健康食品事業の拡大、中国でのOTC医薬品販売の基盤確保、スキンケア事業で第3の柱となるブランドの育成については手を打てたことになる。
こうした取り組みの成果もあり、19年12月期に設定していた中期経営計画の数値目標である売上高1650億円、営業利益230億円、当期純利益170億円は、1年前倒しで18年12月期に達成できた。
ちなみに18年12月期は売上高が1674億7900万円(前年度比6.8%増)、営業利益が262億8900万円(同14.7%増)、当期純利益が180億2300万円(同13.6%増)だった。さらに21期連続当期純利益増益、20期連続増配という大きなおまけまでついた。
ではこの期間のM&Aの詳細を見てみると。
2019年5月に子会社化した梅丹本舗は1925年創業の梅肉を使用した健康食品メーカー。梅丹本舗が保有するブランドと、小林製薬が持つマーケティング力や研究開発力などを合わせることで新たな価値を提供できると判断した。
小林製薬では食物繊維を簡単に摂取できる「イージーファイバー」ブランドや、生活習慣が気になる人向けの健康茶「杜仲茶」ブランドを取得するなど事業強化に取り組んでおり、ここに「梅丹」や「古式梅肉エキス」が加わることで事業の幅が広がる。
また18年3月に子会社化した中国の江蘇中丹製薬有限公司は、染料・化学原料メーカーの江蘇中丹集団股份有限公司の完全子会社で、医薬品の製造販売を手がけている。
同社が持つ中国での医薬品の製造ノウハウと、小林製薬が持つマーケティング力、技術ノウハウなどを活用し、28年には中国のOTC医薬品事業で40 億円の売り上げを目指している。中国以外のアジア各国でもOTC 医薬品発売に向け、 継続してM&Aに取り組むとしている。
さらに17年6月にバイオイルの独占販売権を取得したユニオンスイス社は、美容オイルの世界的なメーカー。バイオイルは1987年に南アフリカで発売され、現在は世界124カ国で販売されており、完治したキズあとやニキビあとなどの肌をケアするユニークなコンセプトを持つ。
日本ではバラエティーショップやドラッグストアを中心に2006年から発売されている。ただ同社はスキンケア事業の取り組みは、これだけでは不十分との認識を持っており、「ケシミン」「オードムーゲ」に次ぐ柱となるブランドの創出に向けM&Aを実行する計画だ。
小林製薬では将来のための成長投資としてM&Aに300億円の枠を設けているが、梅丹本舗の18年8月期の売上高が5億1800万円であったことや、江蘇中丹製薬有限公司も16年12月期の売上高が約3億3800万円だったことから、300億円に達していないだろうことが容易に想像できる。
さらにバイオイルの独占販売権の取得についても17年当時に、3年後の売上目標を10億円としており、大きな額が動いたとは考えにくい。この点について同社の社外取締役である伊藤邦雄一橋大学大学院経営管理研究科特任教授は「M&Aを着実に行ってはいるが、規模が小さいM&Aが多い印象。今後は大胆な経営資源の配分を実行することも必要」と分析する。
まさに、これが20年からの経営計画の目標として掲げる大型M&Aを実行する際のよりどころとなりそうだ。
小林製薬は創業者である小林忠兵衛氏が1886年に、名古屋市で雑貨や化粧品の店・小林盛大堂を創業したのが始まり。1912年に大阪市に小林大薬房を設立。さらに19年には小林盛大堂と小林大薬房を合併し、小林大薬房を創立した。1940年に製剤部門を分離し小林製薬を設立し、56年に現在につながる体制が整った。
その後いくつものM&Aを実施してきた。主なものだけでも2001年のカイロ製造販売会社・桐灰化学の子会社化や、06年のアイルランドの医療機器製造販売会社eVent Medical Ltd.の子会社化、13年の医薬品・医薬部外品・化粧品の製造販売会社・六陽製薬と化粧品の製造販売会社・ジュジュ化粧品の子会社化などがある。
さらに16年の米国の一般用医薬品・化粧品の企画販売会社Perfecta Products,Inc.の子会社化や、19年12月期を最終年度とする中期経営計画中に実施した案件などが続く。
その19年12月期の業績は売上高1730億円(前年度比3.3%増)、営業利益273億円(同3.8%増)、当期純利益190億円(5.4%増)の予想。配当は2円増配の68円を見込む。実現すれば、22期連続の当期純利益増益、21期連続の増配となる。
大型M&Aを目標に掲げる2020年12月期から2022年12月期の業績はどう推移するだろうか。小林製薬にとって、これまでに経験したことのない大型のM&Aが実現すれば、これが業績を大きく左右することは間違いない。その日は着々と近づいている。
年 | 小林製薬の沿革と主なM&A |
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1886年 | 創業者・小林忠兵衛氏が名古屋市に雑貨や化粧品の店・小林盛大堂を創業 |
1912年 | 大阪市に小林大薬房を設立 |
1919年 | 小林盛大堂と小林大薬房を合併し、小林大薬房を創立 |
1940年 | 製剤部門を分離し小林製薬を設立 |
1956年 | 小林製薬を合併し社名を小林製薬に変更 |
1972年 | 米国のC.R.Bard,Inc.と業務提携し日本メディコを設立 |
1976年 | 日本メディコをC.R.Bard, Incとの合弁会社・メディコンに変更 |
1983年 | 製造拠点として富山小林製薬を設立 |
1988年 | 製造拠点としてエンゼルを子会社化 |
1993年 | 製造拠点として仙台小林製薬を設立 |
1999年 | 大阪証券取引所市場第二部に上場 |
2000年 | 東京証券取引所市場第一部に上場、大阪証券取引所市場第一部に指定 |
2001年 | カイロ製造販売会社・桐灰化学を子会社化 |
2002年 | 上海小林友誼日化有限公司を完全子会社化 |
2003年 | 日立造船から健康食品事業の営業権取得 |
2005年 | 笹岡薬品から女性保健薬「命の母A」の独占販売権取得 |
2006年 | アイルランドの医療機器製造販売会社eVent Medical Ltd.を子会社化 |
2006年 | 米国のカイロ製造販売会社Heat Max, Inc.を子会社化 |
2008年 | 石原薬品工業からビスラットゴールドの商標権取得 |
2011年 | eVent Medical INC.の全株式を譲渡 |
2011年 | 台湾に台湾小林薬業股份有限公司を設立 |
2012年 | 米国のカイロ製造販売会社Grabber, Inc.を子会社化 |
2012年 | 小林メディカル株式の80%を三菱商事に譲渡 |
2013年 | 医薬品・医薬部外品・化粧品の製造販売会社・六陽製薬を子会社化 |
2013年 | 日本メディカルネクストの全株式を三菱商事に譲渡 |
2013年 | 化粧品の製造販売会社・ジュジュ化粧品を子会社化 |
2015年 | 七ふく製薬から丸薬七ふくブランドを譲受け |
2016年 | グンゼ株式会社から「紅麹事業」譲受け |
2016年 | 米国の一般用医薬品・化粧品の企画販売会社Perfecta Products,Inc.を子会社化 |
2017年 | 南アフリカのユニオンスイス社からバイオイルの独占販売権取得 |
2018年 | 中国の医薬品製造販売会社・江蘇中丹製薬有限公司を子会社化 |
2019年 | 梅丹、古式梅肉エキスの梅丹本舗を子会社化 |
文:M&A online編集部