世相を反映する「脱税」 インバウンド増加に伴う消費税不正還付が増加

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いわゆる脱税の態様は、そのときどきの世相を反映して、一定の特徴を持つようです。2019年6月に国税庁が公表した「平成30年度査察の概要」から読み取れる近年の告発事案の傾向を追ってみましょう。

消費税不正還付が過去5年で最高に

過去にも消費税の増税が近くなると、社会的な波及効果を勘案して、国税の査察において消費税還付などを狙った事案を重点的に告発する傾向が見られました。

翌年度に増税を控えた2018年度においても、消費税受還付に関連する告発が16件となり、過去5年間でもっとも多い水準となりました。

近年の訪日外国人旅行客(インバウンド)の増加にともない、一般に「免税店」とも呼ばれる輸出物品販売場における不正還付事案が告発の対象となっています。

「平成30年度査察の概要」に掲載された事例によると、A社は高級腕時計の仕入を装って課税仕入を計上するとともに、その商品を輸出物品販売場の許可を受けた免税店で外国人旅行者に販売したように仮装したようです。

この架空売上を免税取引として処理することにより、国内での仕入にかかった消費税が還付されるような虚偽の消費税申告がなされました。

また、別件として、太陽光発電施設の購入を装った事案も紹介されています。B社は太陽光発電施設を取得したように装って多額の課税仕入を計上する方法により、不正に消費税の還付を受けていたということです。

なお、2011年度の税制改正により、不正に消費税の還付を現実に受けた場合だけでなく、不正受還付にかかる未遂罪についても処罰されるようになっています。

これを受けて2014年度には不正受還付未遂に対する初の告発が行われ、告発件数が1、不正還付額(未遂額)が700万円となりました。そして、2018年度には告発件数が8、不正還付額(未遂額)が15億2200万円と大きく増加しています。

無申告「ほ脱」事案が増加傾向

2011年度には、国税による査察にも大きな影響を与える、もう一つの税制改正が行われました。それは、故意に申告書を提出しないことによるほ脱犯(単純無申告ほ脱犯)の創設です。「ほ脱(逋脱)」というのは脱税のことを意味します。

従来は、故意であっても故意でなくても、単に「申告書不提出罪(単純無申告罪)」として処罰されることになっていました。法定刑も「1年以下の懲役または50万円以下の罰金」と比較的軽いものでした。

これに対して、2011年度改正税法の適用以降は、故意に申告をしないで税を免れた者に対する法定刑は「5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金またはこれらの併科」という重いものになりました。

「平成30年度査察の概要」では、他人名義を使用したFX取引(外国為替証拠金取引)に対する無申告ほ脱事案が紹介されています。インターネットを利用した自動売買ソフトを用い、FX取引により多額の利益を得ていたD氏は、数十件の他人名義で取引を行うことにより、所得を隠していたとのことです。その所得に対する確定申告も一切行っていないという事例でした。

消費税の不正受還付未遂と同様、「単純無申告ほ脱犯」に対する告発も2014年度が初のものとなりました。2014年度には2件の告発でしたが、その後、適用事案は徐々に増加し、2018年度には10件の告発となりました。

違法な手口で得たカネに税金はかかるのか

FX取引には直接関係しませんが、2019年8月2日付の朝日新聞デジタルの記事では、FXを取扱う金融会社のアフィリエイト広告から得られた収入を申告せず、約5400万円を脱税した事案が報じられています。健康補助食品販売会社を営む男性社長を名古屋国税局が所得税法違反容疑で静岡地検に告発したものです。

実は、このアフィリエイト収入は男性社長が3万~4万件もの他人名義のFX口座を開設して得たものであり、いわば、アフィリエイトのASPや広告主から騙し取ったお金です。この事案に「単純無申告ほ脱犯」による罰則が適用されるかどうかは不明ですが、そもそも「違法な手口で得た収入を確定申告する義務があるのか」という疑問を持たれる方もいるのではないでしょうか。

この疑問に対する答えはYESです。例えば、所得税法基本通達には「その収入の基因となった行為が適法であるかどうかを問わない」との記載があります。違法に入手した金員に対して適正に税務申告をするケースは考えにくいのですが、違法であったとしても、収入があれば課税の対象にはなるので、確定申告をする義務があるということです。

文:北川ワタル