ホルムズ海峡を通過するタンカーが節税商品になる「からくり」 目を光らす国税庁

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ホルムズ海峡を通過する民間の船舶が襲撃される事件が頻発したことを受け、米国を中心に警備のための「有志連合」を募る動きがあります。ただし、各国の足並みはそろっていないようです。

世界の海を航行するタンカーなどの大型船舶のうち一定数は「オペレーティングリース」と呼ばれる商品に組み込まれ、遠く離れた日本企業の税金対策に一役買っている可能性があります。本稿では、このような投資商品としてのオペレーティングリースの特徴と税務上の効果を紹介したいと思います。

オペレーティングリースは匿名組合を活用した商品

本稿にいうオペレーティングリースとは「日本型オペレーティングリース」あるいは「JOL(Japan Operating Lease)」とも呼ばれる投資商品を指しています。

オペレーティングリースは、商法上の匿名組合契約(535条以下)を活用し、航空機、船舶、コンテナなどの大型資産への投資を行うものです。そして、投資から得られた損益は匿名組合契約における投資家に分配されるというのが基本的なスキームとなります。

一般に、匿名組合契約では投資を行う「匿名組合員」は対外的な取引主体にはなりません。その代わりに「営業者」が主体となって事業の運営を行います。その結果、事業から得られた経済的利益が契約にもとづき「匿名組合員」に分配されます。

例えば、船舶のオペレーティングリースでは、リース会社が設立した特別目的事業体(SPCなど)が「営業者」として船舶を購入します。これをリース契約における借り手である海運会社などに貸し出します。船舶の購入資金に関しては、SPCが「匿名組合員」となる投資家から出資を受け入れるほか、金融機関からの借入により調達します。

匿名組合に出資した法人における処理は?

まずは匿名組合が行う事業における収支を整理してみましょう。匿名組合事業にとっての営業収入は海運会社から受け取るリース料がメインとなります。それに加えて、リース期間の終了時には船舶の売却収入が発生します。これに対して、匿名組合事業における費用としては、船舶の減価償却費や維持管理費、借入金の利息などが考えられます。

これらの項目により匿名組合事業の損益が計算される訳ですが、その税務上の取扱はどのようになるのでしょうか。実は、匿名組合事業の損益が「匿名組合員」である法人に分配されると、その法人の益金および損金として処理されます。

つまり、投資家である法人は対外的な取引を行っていないにもかかわらず、あたかも自社で事業を行っているように損益が計上されます。この特徴によりオペレーティングリースが税金対策の商品として活用されているのです。

オペレーティングリースのメリットは?

オペレーティングリースでは大規模な初期投資を行うため、リース期間の前半に多額の減価償却費などが計上されます。その影響により当初に赤字が生じやすいという特徴があります。特に金融機関からの借入の割合が大きい場合、よりレバレッジが効くため、早期のうちに投資額に近い損金を生じさせることができます。

また、リース料やリース期間などの条件などが明確であるため事業計画が立てやすくなります。これは投資家サイドにおいてタックス・プランニングに活用しやすいということを意味します。

これまで税金対策商品として認識されてきた法人保険では定期的に保険料の支払が生じます。これに対して、オペレーティングリースでは最初に投資額を拠出するため支払が一回で済みます。

オペレーティングリースの活用で気をつけるべき点

オペレーティングリースは、リース期間の前半で多額の損金が計上されやすい半面、リース期間の後半では減価償却費や支払利息が減少して課税所得が発生しやすくなります。また、リース資産を売却する際には多額の課税が生じることも考えられます。

オペレーティングリースは節税商品と呼ばれることもありますが、実際には課税を繰り延べているに過ぎない点は理解しておく必要があります。例えば、リース資産の売却年度に役員退職金の支給が予定されている場合には益金と損金が相殺されて税務上のインパクトが抑えられます。このようなタックス・プランニングを組み合わせることが有用といえるでしょう。

また、税務上、当初の投資額を超えて損金を計上することはできません。これは国税庁の通達により損金計上額の上限が投資額までとされているためです。過去には、投資額以上の損金が計上できる「レバレッジドリース」という商品が存在しました。こうした過度の節税商品への対応として通達が改正された経緯があります。

生命保険業界では、2019年2月13日の夕方に国税庁が生命保険会社に対して法人保険の税務上の取扱を見直す方針を伝えた「バレンタイン・ショック」が衝撃をもたらしました。オペレーティングリースに関しても、将来的に税務上の取扱が改めて変更になる可能性は否定できないところでしょう。

文:北川ワタル