2019年7月18日、欧州連合(EU)の欧州委員会はNASDAQに上場する半導体企業のクアルコム(Qualcomm)に対して2億4200万ユーロ(約290億円)の制裁金を科したことを発表しました。これは同社が過去に3G用の半導体製品の価格を引き下げ、競争関係にあったIcera社を市場から締め出そうとしたことに対する制裁です。
こうしたEUの競争規制は、我が国でいうと独占禁止法に相当するものであり、米国の大手企業などに対して適用される事例が続いています。クアルコムに関する発表があった前日にあたる2019年7月17日には、Amazonに対する調査を開始することを発表しました。
欧州委員会のプレスリリースによると、一般の小売業者が出品できるAmazonの「マーケットプレイス」における取引情報を同社が分析および利用できる契約になっていることを問題視したものです。Amazonは販売プラットフォームを提供すると同時に自社も販売を行っているため、支配的な立場を利用することを禁止するEUの競争規制に違反する疑いがあるという訳です。
また、2019年3月には欧州委員会はGoogleに対して14億9000万ユーロ(約1900億円)という多額の制裁金を科しています。これは、検索結果に応じて第三者の広告をWEBページに表示させる「アドセンス」に関するものです。具体的には「アドセンス」に利用に際して、広告主との間で、競合のWEB広告を利用させない契約を締結していた点が問題視されました。異なる事例を含めると、Goolgeに対する制裁金はこれで3度目となるものでした。
2019年7月8日、英国の個人情報に関する監督機関にあたるICO(Information Commissioner's Office)は、航空会社のBA(ブリティッシュ・エアウェイズ)に1億8339万ポンド(約250億円)の制裁金を検討していることを発表しました。
これは、2018年8月から9月にかけてBA社の予約サイトを利用したユーザーの個人情報が数十万人規模で漏洩した事案に関連し、GDPR(一般データ保護規則)にもとづき制裁金を科すという内容です。GDPRは2018年5月から施行されているEUのデータ保護規制です。BA社に対する制裁金額はGDPR施行のもとでは最大規模となる可能性があります。
なお、2019年1月にはフランス当局がGoogleに対してGDPRにもとづき5000万ユーロ(約62億円)の制裁金の支払を命令しています。これはGoogleが法的な根拠なくパーソナライズされた広告を配信していることなどを問題視したものでした。
GDPRに関しては、人気のアプリなどに対する調査も行われています。例えば先ほども登場した英国の個人情報監督機関ICOが、未成年者にも人気のある動画投稿アプリ「TikTok」についてGDPR違反がないかという視点での調査をしているという報道もあります。
GDPRでは未成年者の個人情報保護が強く求められており、未成年者のサービス利用に際して保護責任者の承認を得なかった場合などに制裁金が科される旨が規定されています。
また、2019年7月18日にはポーランドとリトアニアがロシア製の人気アプリ「FaceApp」についてセキュリティ上の危険性を調査していることを発表しました。「FaceApp」は老け顔に加工できる機能が人気を博し、同アプリで画像加工したセルフィー(自画撮り)をSNS投稿することが流行しました。
この調査はGDPRとは直接の関係はありませんが、ポーランドおよびリトアニアはいずれもEU加盟国であり、今後、GDPR違反による制裁が科される可能性も考えれるのではないでしょうか。
文:北川ワタル