企業同士の「合併比率」はどのように決まる?しっかり学ぶM&A基礎講座(67)

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「対等の精神で合併することについて合意いたしました」というリリースを目にしたことがあると思います。合併比率が1対1となる本来的な対等合併ではないものの、社名、役員の待遇、組織体制などあらゆる面で当事会社間の優劣が表れないよう配慮された合併がこれにあたります。

そもそも、吸収合併では形式的に一方の会社が「存続会社」、他方の会社が「消滅会社」になるのは致し方ないことです。また、合併比率を1対1とすることが適したケース自体も限定的といえるでしょう。

それでは、こうした合併比率はどのように決まるのでしょうか。合併についての基本事項にも触れながら、合併比率の決定方法を確認してみたいと思います。

合併の対価の柔軟性

合併比率を考えるにあたって、まずは合併という組織上の行為について概観しておきましょう。会社法上、合併は「新設合併」と「吸収合併」に分けられます。

新設合併は、合併により消滅する会社(消滅会社)の権利義務の全部を合併により設立する会社(新設会社)に承継させるものをいいます。つまり、2つ以上の既存会社が合併時に消滅し、新設会社に統合されるという形です。

これに対して、吸収合併は、合併により消滅する会社(消滅会社)の権利義務の全部を合併後に存続する会社(存続会社)に承継させるものをいいます。つまり、一方の会社が他方の会社を吸収するようなイメージです。

従来、合併の対価といえば、存続会社の株式を意味していました。例えば、A社がB社を吸収合併する場合、消滅するB社の株主には、存続会社となるA社の株式が交付されることになります。こうした方法は今でも典型的な合併のパターンといえます。

会社法上、合併の対価はかなり柔軟になっています。吸収合併を念頭に置くと、合併の対価としては存続会社の株式だけでなく、社債、親会社の株式、金銭など様々な資産が考えられます。ただし、以下では、存続会社の株式が交付される典型的な吸収合併を前提に合併比率を検討してみましょう。

合併比率に着目した裁定取引とは

上場企業同士の合併が発表されると、各当事会社の株価に大きな影響を与えることが少なくありません。注目買いや期待買いで株価が上昇するという面もありますが、特に注意したいのが当事会社間の株価の比率です。

つまり、合併比率が公表されると、各当事会社の株価がその比率に寄せてくるということです。例えば、存続会社をA社、消滅会社をB社とする合併において、B社株式1株につきA社株式0.7株という合併比率が公表されたとします。

この場合、B社株式を10株保有する株主は、将来の合併期日にA社株式7株を受け取ることになります。A社の株価が800円、B社の株価が500円であったとすれば、B社株式を5,000円分(=10株×500円)保有する株主は、A社株式を5,600円分(=7株×800円)受け取ることになります。

もし、この株価が放置されるなら、投資家は市場でB社株式を10株買い、同時にA社株式(仮に貸借銘柄)を7株売ることにより、リスクなく、差額の600円(=5,600円-5,000円)を得ることができます。もちろん、こうした裁定の機会が放置されることはなく、両社の株価は合併比率をもとに収束することになります。

合併比率を決定する際の考慮要素

合併比率は、基本的には存続会社および消滅会社の株主双方に重大な経済的利益や損失が生じないように決定されます。そのためには、専門家の評価業務などを活用して、当事会社の適正な株価を算定します。適正な株価を算定する際には、純資産、市場での株価、収益力などが考慮されます。

例えば、存続会社の適正な株価が350円、消滅会社の適正株価が200円と評価された場合、合併比率は消滅会社の株式1株に対して存続会社の株式0.57株(=200円÷350円)ということになります。ただし、そうした理論的な株価だけで合併比率が決定されるわけではありません。

合併比率は合併後の株主構成にも直結するところですので経営権への影響度合いが検討されます。また、当事会社および株主における課税上の要件や「対外的に対等合併の形にしたい」などの思惑も絡んできます。合併における諸条件の中でも合併比率が十分協議すべき事項であることは間違いありません。

文:北川ワタル