有価証券報告書に開示される「継続企業の前提に関する注記」とは しっかり学ぶM&A基礎講座(59)

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GCと聞くと「ゴルフ倶楽部」を思い浮かべる方がいらっしゃるかもしれません。しかし、財務周辺に関わりを持つ方なら「ゴーイング・コンサーン(Going Concern)」すなわち「継続企業の前提」という意味で使用するケースが多い略語といえるでしょう。

継続企業の前提に関する注記(GC注記)は、企業経営に黄信号が灯ったときに開示される情報です。この注記には具体的にどのような意味があり、また、どのような検討を経て開示されるものなのか。今回はその概要を紹介したいと思います。

そもそも「継続企業の前提」とは何なのか

継続企業とは、文字どおり、企業が将来にわたって経営を継続していくことを意味しています。それでは、この継続企業の「前提」について、わざわざ開示を行う理由はどこにあるのでしょうか。「前提」という少し格式ばった用語を使用しているのは、その背景に会計理論が関係しているためです。

現実的な意味合いとしては、継続企業であることが、市場において投資家が企業に対して投資するための「前提」でもありますし、金融機関などが融資を行う「前提」にもなっているでしょう。ただし、本来の意味としては、会計の世界において継続企業が「会計公準」(会計における基礎的な前提条件)の一つになっていることを示しています。

もし、継続企業を前提としないのであれば、資産や負債は企業が清算することを前提とした価値で評価するのが適切かもしれません。つまり、金目のモノは売り払い、借金は返せる額だけ返すことを前提とした貸借対照表(バランスシート)が正しいとも考えられるのです。

しかし、企業会計の実務では、設備投資をした場合には取得原価をもとに将来の期間にわたって費用化(減価償却)していくような方法を採用しています。すなわち、継続企業を前提とした会計処理を行っています。

このように有価証券報告書に掲載されている会計情報が継続企業を前提としているがゆえに、その前提に疑義があるような場合には読者に対して注意喚起が必要となります。これがGC注記の役割といえます。

継続企業の前提に関する注記を行うケースとは

継続企業の前提に関する注記は、貸借対照表日(決算日)において下記の2つの条件にあてはまる時に開示が必要となります。

・継続企業の前提に疑義を抱かせる事象または状況が存在する

・当該事象または状況を解消し、または改善するための対応をしてもなお継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められる

「継続企業の前提に疑義を抱かせる事象または状況」というのは、例えば債務超過の状態あるいは流動負債が流動資産を超過しているような状態、過去あるいは予算において営業キャッシュ・フローがマイナスになっているような状態などが該当します。

また、財務数値に関するものだけでなく、例えば主要な経営者が退任したり、事業活動に不可欠な人材が流出するような場合、企業のビジネスにとって重要なライセンスを失う場合なども「継続企業の前提に疑義を抱かせる事象または状況」に該当します。

ただ、多くのケースでは売上の減少や重要な損失の計上、キャッシュ・フローのマイナス、債務超過などの財務数値の悪化として顕在化することが一般的と考えられます。

注記に記載する内容は?

上述したような事象や状況にあっても、経営者がその対応策を示し、継続企業の前提に関する重要な不確実性がないのであれば、注意喚起としての注記は必要ありません。

逆にいえば、そうした重要な不確実性が払拭できない限り、有価証券報告書における開示が必要になるということです。具体的な注記の内容は下記のとおりです。

・継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象または状況が存在する旨およびその内容

・当該事象または状況を解消し、または改善するための対応策

・継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められる旨およびその理由

・財務諸表は継続企業を前提として作成されており、当該重要な不確実性の影響を財務諸表に反映していない旨

監査法人や公認会計士の監査報告書における扱い

上記のような注記を行う主体はあくまで経営者ですが、それと合わせて、監査法人や公認会計士の監査報告書においても一定の情報提供がなされます。

具体的には、継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められる場合、監査人は継続企業の前提に関する事項が経営者により適切に注記されていることを確かめた上で、当該事項について監査報告書に追記することになっています。なお、こうした追記は従来の監査報告書では「強調事項」と呼ばれる区分に記載されていました。

しかし、2019年2月27日に日本公認会計士協会(監査基準委員会)から公表された改正後の監査基準委員会報告書570「継続企業」によると、「継続企業の前提に関する重要な不確実性」という独立の見出しを付けた区分に記載されることとなります。この改正は2020年3月期にかかる財務諸表の監査から適用される予定です。

文:北川ワタル