海外子会社の決算書はどのように換算するのか しっかり学ぶM&A基礎講座(57)

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M&Aなどを通じて海外子会社を有することとなった場合、その海外子会社の決算書を企業グループの連結決算書に取り込むことになります。その際、外国通貨をもとに作成されている海外子会社の決算書をどのように円貨に換算するのかという問題が生じます。

どの時点の為替相場で決算書を換算するのが正しいのでしょうか。これは海外子会社の活動をどのように捉えるのかという考え方にも通ずるところですが、今回はそうした考え方にも触れながら実務上の取り扱いを紹介することにしましょう。

「本国の活動の延長」か「海外子会社の独立した活動」か

換算方法を検討するにあたって基本となる考え方としては、海外子会社の活動は本国の活動の延長線上にあるものと考える「本国主義」と、海外子会社の活動は本国の活動とは独立したものと考える「現地主義」という2つの立場があります。

「本国主義」の考え方によれば、海外子会社の活動はあたかも当初から本国通貨で行われたのと同じように換算していくということになります。これに対して「現地主義」の考え方によれば、現地通貨で記録された海外子会社の財政状態や経営成績の関係性や比率をそのまま換算しようという発想になります。

2つの考え方に合致した換算方法とは

具体的には「本国主義」では、取得原価のように過去の属性で評価されている項目には過去の為替相場、時価のように現在や将来の属性で評価されている項目には決算日の為替相場で換算するといった方法が整合することになります。これに対して「現地主義」では、決算書全体を決算日の為替相場などで換算するといった方法が整合します。

我が国の会計基準では、海外子会社の換算方法は「現地主義」の考え方が基本となっています。ただし、決算書のすべてを一律に同じ為替相場で換算するようにはなっていません。決算書といっても貸借対照表と損益計算書では含まれている項目の性質が異なりますし、また、親会社と子会社の間の取引などには整合した為替相場を用いる必要があるためです。

損益計算書はどのように換算されるのか

それでは、実務上の換算方法とはどのようなものでしょうか。まず、損益計算書の換算方法を紹介しましょう。損益計算書は会計期間(通常1年)における収益や費用を集計したものであり、企業の経営成績を示すものといわれます。こうした損益計算書の換算は期中平均相場によります。ただし、期中平均相場に変えて決算日の為替相場を用いることも認められています。

また、親会社との取引に関しては親会社が換算に用いた為替相場を適用することになっています。親会社との取引にだけ異なる為替相場を適用したことにより生じた換算差額は「為替差損益」(つまり収益または費用)として処理されます。

貸借対照表はどのように換算されるのか

貸借対照表では左側に資産が、右側に負債および純資産が掲載され、資産の合計額と負債および純資産の合計額が一致するようになっています。貸借対照表は決算日における企業の財政状態を示すものといわれます。こうした貸借対照表のうち資産や負債の換算は決算日の為替相場によります。

一方で、純資産は資本項目、過去の損益計算の結果、決算日における時価評価の影響などが混在するという性格を持っています。そのため、資本項目については親会社が投資を行った時点の為替相場、過去の損益計算については当時の損益計算書に適用された為替相場、決算日に時価評価された項目については決算日の為替相場などが適用されます。

このように複数の為替相場が用いられるため、貸借対照表の左側と右側が一致するという関係が崩れます。そこで、貸借対照表で生じた換算差額を「為替換算調整勘定」として純資産の部に計上することで左右の一致を保ちます。

「為替換算調整勘定」とは何者か

「為替差損益」は為替相場の変動により生じた損益ということでイメージがわきやすいと思います。これに対して、連結貸借対照表に計上されている「為替換算調整勘定」の意味合いが今一つ分からなかったという方がいるかもしれません。

「為替換算調整勘定」の算出過程は上述のとおりですが、その本質は海外子会社に投資したことによる累積的な為替の影響額といえます。しかも、それは固定的なものではなく、決算日の為替相場によっても変動します。

つまり「為替換算調整勘定」は海外投資による潜在的な為替差損益あるいは含み損益のようなものだと考えればイメージしやすいでしょう。

文:北川ワタル