買収はキャッシュ・フロー計算書にどのような影響を及ぼす?しっかり学ぶM&A基礎講座(56)

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キャッシュ・フロー計算書は資金の流れを把握するものとして重要な財務諸表の1つです。キャッシュ・フロー計算書は、一般に3つの区分を用いてキャッシュ・フローの状況を示します。

具体的には、営業活動によるキャッシュ・フロー、投資活動によるキャッシュ・フロー、財務活動によるキャッシュ・フローがこれにあたります。企業買収をした場合、これらのキャッシュ・フローにどのような影響を与えるのかが今回のテーマです。

キャッシュ・フロー計算書の3つの区分

キャッシュ・フロー計算書は通常1年間の資金の出入り、すなわち収入と支出を表したものです。様式としては、1年間の収入および支出にキャッシュ(現金および現金同等物)の期首残高を加え、キャッシュの期末残高を表すようになっています。

収入や支出はその性質にもとづいて、営業活動によるキャッシュ・フロー、投資活動によるキャッシュ・フロー、財務活動によるキャッシュ・フローの3つに区分されています。

このうち営業活動によるキャッシュ・フローの区分には、企業の主要なビジネスによって生じた収入や支出が集計されます。また、投資活動によるキャッシュ・フローの区分には、企業が設備投資をしたり、有価証券などに対する投資をした場合に生じた収入や支出が集計されます。そして、財務活動によるキャッシュ・フローの区分には、借入や返済、新株の発行などにより生じた収入や支出が集計されます。

買収による支出は「投資活動によるキャッシュ・フロー」に記載

上述のように有価証券への投資にかかる支出は投資活動によるキャッシュ・フローの区分に計上されます。そのため、買収により子会社株式を取得した場合の支出も「子会社株式の取得による支出」のような科目で基本的には投資活動によるキャッシュ・フローの区分に記載されます。

連結グループの観点で連結キャッシュ・フロー計算書を作成する場合、子会社株式の取得に際して資金が出ていく一方で、その子会社が保有している資金が連結財務諸表に取り込まれることになります。

そのため、実質的に子会社株式の取得に要した資金は、株式の取得対価から子会社が保有している資金を差し引いたものになります。これは連結キャッシュ・フロー計算書の作成に特有の処理といえます。

なお、子会社株式を売却した際の収入も、やはり投資活動によるキャッシュ・フローの区分に「子会社株式の売却による収入」のような科目で計上されます。

有価証券への投資がいつも「投資活動によるキャッシュ・フロー」とは限らない

子会社株式を取得した場合の支出は基本的には投資活動によるキャッシュ・フローの区分に記載されます。しかし、有価証券への投資がいつも投資活動によるキャッシュ・フローの区分に記載されるとは限りません。

例えば、株式を短期的に売買して利益を得ることを目的としているような事業では、投資活動によるキャッシュ・フローの区分ではなく、営業活動によるキャッシュ・フローの区分に記載されることも考えられます。

これは事業目的に応じて表示区分を判定することによるものです。資金の貸付なども通常は投資活動によるキャッシュ・フローの区分されるものですが、貸付自体を事業目的としているような会社であれば、営業活動によるキャッシュ・フローの区分に記載されることが考えられるというわけです。

キャッシュ・フロー計算書は、どこから生じた資金がどこに振り向けられているかを読み解くのに有効なツールです。本業から確実にキャッシュが得られており、それが有用な投資に使われているなら、ビジネス全体がうまく回っているといえます。M&Aもキャッシュ・フロー計算書の視点から見てみると、また新たな発見があるかもしれません。

文:北川ワタル(公認会計士・税理士)